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□退魔師列伝 魔刃朱殺 第五話D
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緑須が苦鳴をあげたのは無数の釘が全身に突き刺さったからである。
「…微かに霊力浸透が感じられる。」
攻撃が当てられないと思った時に瓶に入れていた釘を刃化させていた。
すぐに使わなかったのは直接握らないで、瓶の中に霊力を流していた為に時間がかかってしまったから。
もしかしたらあの硬皮には通じないと思ったが、緑須の言葉で杞憂だと分かった。
準備が整った時、接近する緑須にぶちまけた。いかに質量が少なかろうと、刃化による釘の強化と緑須自らの突進力があれば刃は通る。
「ハァッ!」
怯んだ緑須に斬りかかる。体だけでなく羽までも傷ついていては避けられない。
「…名前を訊いた意味が無かったか……。」
ブ ブ ブブ
弱々しくなった羽音。しかし、殺気は強まるばかり。
「オオォォォォッ!!」
緑の魔は吠える。
崩れかけた体を奮い興させる為に。
失せかけた精神を覚醒させる為に。
「………。」
今までの比ではないほど落ちた速度。
今までの比ではないほど膨らむ気迫。



黄昏に煙る緑の残滓。荒れた土に落ちる血液。
「……緑須。お前の名前は忘れない。」
制服を翻して街に向かう。
未だ戦う誰かのもとへ。
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