栄光
□声を上げろひた走れ其処に生が或る限り
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「セカンド、サード、ショートどこでもバッチリだと思いますよ。でも一番うまいのは……セカンドかな」
自分のことのように自慢する手塚に正直な所、円谷は居心地が悪かった。
どうして友達といえど他人をそこまで持ち上げられるのかわからなかったのである。
(手塚にプライドはないっすか。俺はチームメイトでも……将来はライバルになるかもしれないっすよ)
確か中学二年、盗塁王と呼ばれ始めてから円谷は喧嘩腰に手塚に宣戦布告を突き付けた。
……プレッシャーに潰されそうな肩に乗る評価が岩のように感じていた時のことである。
同じチームの投手と二塁手では直接対峙することもなかったが、円谷の内へ内へと入り込んで浸蝕するのは彼の存在だった。
(へえ、円谷は野球に将来を見てるんだ)
のらりくらりとしているようで手塚は核心を心得ている。円谷が苦しく「別に」と吐き捨てるとすかさず彼を捕まえる腕。
(避けれない)
時速78マイル。
決して速くない球を操る友人は容赦なく円谷を羽交い締めにした。避けようと思えばなんとかなるかもしれないが、つい受け止めてしまう。
(こいつの声も、心も)
投げる球そのままだ。
油断したら、きっと、騙されて。
「……でもこいつのスゴイところは50m5秒台の俊足なんです」
はっと気がつけば手塚の『友達自慢』は佳境に入っていた。高校に入学してもやはりそれは顕在で。
聞いていた先輩や他中の生徒は呆れているが、同じ中学の何人かは慣れた様子で聞き流していた。
「な?」
手塚がウインクで同意を求めてきたので円谷は笑顔で返した。
(高校まではチームメイトだ。仲良くしようぜ)
今でも鮮やかに蘇る親友の言葉。
(俺っちは円谷を本気ですごいと思ってる。だから褒める。それで……最後に俺っちが倒すんだ。覚悟しろよ)
声を上げろひた走れ其処に生が或る限り
油断するな。一番の理解者は一番の強敵だ!
2009.0711