栄光
□いつかの星屑ターミナル
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「お疲れっした」
先輩はいつもと同じ笑顔で「ああ、ありがとう」なんて返して俺の肩に手を置いた。なんて熱い手なんだろう。甲子園の決勝まで掴んで引き寄せたその手は自分と対して大きさは変わらないのに随分違って見えた。
初めて会った時は頼りない人だと思ったんだよな。懐かしくそんな風に考えていたのを見透かしたのか、「円谷」と低い声で呼ばれて思わず気をつけの姿勢を取ってしまう。
「たぶん明日か明後日かにさ、俺が皆の前で挨拶するんだけど」
「はい」
「お前に任せたいと思ってんだ」
何を、と言おうとした俺を手塚が口元を引き上げた意地悪い笑いをしてつついた。
「そういうの聞くのって野暮っしょ」
「何だよ円谷は鈍いなあ」
矢部先輩までが向こうで笑っている。だいたい打診の意味は感じられてはいるけれどまさか自分がだなんて。
そうなる未来を想像していなかったわけじゃない。むしろそうなるんだって思っていた時もあったと思う。だけど、ここ何ヶ月間追ってきたのは″キャプテン″なんかじゃなくて。
「っていうわけだから、手塚は鈍いキャプテンをしっかり補佐しろよ」
「影のキャプテンの座を譲るでやんす」
「……矢部君。それ初耳なんですケド……」
「任せて下さいよ」
ああもう。俺の気持ちなんてみんな無視だ。だって俺、両親に未だ野球することを応援して貰ってるわけでもないし、特別カリスマ性があるわけじゃないし、キャプテンなんて不安なのに。
「おい、」
また熱い手が肩に触れる。
「泣くなよ」
「泣いてません」
(まだ行かないで。俺が追いかけていたのはあなたの背中なんだ)
振り払ったその手を出来る事ならもう一度握って「先輩」って甘えたい。けど、それはもう駄目だ。今度は俺が誰かに追いかけられる番だから。
「まだ追いついてないのに、行っちまうんですね」
「はは、お前の足で無理だったか。だから俺は尚更無理だったわけだ」
みんな憧れて、追いかけている。終着駅はいつだってここなんだろう。
「お疲れっした」
2009.0528