栄光
□証明するなら死んでみろ
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「死にそう」
抱きしめた時に聞こえた声に、爆笑したのは他でもない彼だった。瞬にはムードをぶち壊した清春を睨むような余力も残っていなくて、ただだらりと投げ出した四肢をまだ頼りない腕に預けてか細い吐息を生むことしかできない。
「ナナァ、今なんて言ったんだァ? 俺様耳が遠くてよォ」
「あ、嫌だ、動くな、馬鹿!」
汗の匂い。少し煙草の苦みにも似ているそれを感じると何とも言えない気分が胸を満たす。
自分とは違うにおいが遠慮もなしに意識に、体に、食いこんでくるのだ。
口先は普段の最悪さを残していても自分に触れる指先はいつでも優しい。瞬はそれを知っていたので清春を拒むことはなかった。
けれど、今日の彼はいつもと少し違う。
「オイ、言えヨ。てめえさっきなんて言やがったんだア?」
深い深い海のような瞳が陰って頬笑みの形に歪んでいる。
悪魔は、そこに住んでいるのだ。
怖いと思った時はもう遅かった。
「もう一回言ってくれヨ。そしたらすっげえ……愛してやるゼ。今までと比べられねえくらい、な。キシシ」
(気持ちよくて死んでしまいそう。きっと俺が死んでもお前が楽しいだけだろ。泣きもしない。いや、泣かれても気持ちが悪いが。だから、死んでやるものか。死んでしまいそうでも、絶対に死んでやるものか)
2009.0527