栄光
□愛を召しませ下僕さま
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言葉が脳の中に溢れて零れおちそうになるのを必死に食い止める。奴はそういう俺の顔が一番好きなんだそうだ。
その目だけ見ていれば澄んだ色をしているくせに、唇が意地悪く歪んでいるせいでいけすかない仙道の笑い顔が近くにあるのが居心地悪くて「煩い」と会話をシャットアウトする。
今日も放課後に補習がある。こんな所を担任に見られたらどうするんだと突き放すと何かを考えるようなしぐさをした後に悪魔は何故か柔らかく微笑んだ。はっきり言って気持ちが悪い。
「女教師チャンが来たら、俺のことは清秋って呼べよォ。そうすりゃナナと一緒に居てもあいつは何にも可笑しく思わねェ」
「はあ?」
まだそんな嘘をつき続けてたのかと額を抑えると仙道は軽く喉を鳴らして笑った。底なしの悪戯魔は自分以外にもとんでもなく多くの人間を手玉に取ってはこうして遊んでいる。
(俺もそのひとりなのか)
「いつか絶対ボロが出るな。それでこってり絞られろ。俺は知らん」
「ハハハハハ! 大丈夫だぜェ! 担任はナナと一緒でかーなーりートロイからなァ! 絞られることなんてありえねェよ。逃げちまえば勝ちだっつーノ!」
「お前……それ以上言うとその口塞ぐぞ」
コンクリートか何かを詰め込んでしまえば悪魔の唇は動かなくなるだろうか。ぎりぎりと奥歯で歯軋りしながら俯くと頭上が陰った。
「…………?」
太陽が雲を被ったのかと見上げてみると、
「……あなたになら塞がれてもいいよ」
思いもよらないタイミングで思いもよらないキス。
甘さの欠片もない日常に時折舞い降りるこんな瞬間に俺は未だに慣れることができない。
「どうするナナァ……? 今日はこの清秋モードでいてやろうかァ? たまには優しくされてえンダロ? 女の子だもんなァ」
「き、清秋は優しいのか……?」
「試してみればいいダロ」
(笑う悪魔に騙されて頷いたが運のつき。さっき流した『女の子だもんなァ』であげ足を取られて延々からかわれた。仙道……やっぱり、殺す!)