苦楽

□Sign
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仕事が進まないと歯ぎしりをしながら陳宮が言う。
かなり煮詰まっているらしい。



上品な着こなしに優雅さを感じる彼のスーツに可哀相なしわが目立つのは多分あの人のせいだと張遼は思った。



「まあ、いつもの事ですが」



結局は二人はどんなに働き、能力をしめしても部下なのだ。最後に頼るのは無二の上司。



会社の各階ごとに置かれたリフレッシュゾーンとは名ばかりの煙草の匂いがツンと鼻をつくそこで二人はいつもコーヒーを飲む。



ガラスの向こうには大きすぎる世界にちまちまとビルが敷き詰められ、たまに季節感を醸し出すような飾りや光景が広がった。



「あの方は私が仕事をひとつ終える度に書類を持っていく意味を理解してくれません」



陳宮が言う『意味』は二人が共有する『秘密』である。



「そういう方なのだ。しかし、たまに悔しくもなりますな」



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