秋色の空(恋愛編)

□ママとして
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だが秋とは対照的にギロロの表情は暗く沈んでいった。
「夏美が母親であるお前に俺との関係を打ち明けていないという事は俺との事が母親であるお前に言えない事だという事だ」

「普通はいちいち誰かと『お付き合いしてる』なんて言わないわよ」
秋は笑って否定するがギロロは夏美が自分と付き合う事になったという事実を
母親である秋に伝えていないという事実に夏美の心の迷いを感じずにはいられなかったのだ。
「夏美に奴は結構お前にいろいろ報告するからな…それがないというのはあいつの中にもまだ迷いがあるのだろう」
「…実際、俺みたいな侵略宇宙人となど…普通ではないからな」


「ギロちゃん自身はどうなの?ギロちゃんもまた夏美とお付き合いすることに迷いがあるのかしら?」
ギロロの溜息混じりの呟きを聞いた秋は少々強い口調でギロロ自身の気持ちを尋ねた。

「俺に迷いなどない」
「夏美の事…好き?」

「あ…ああ、もちろんだ」
「夏美の事、大事にしてくれるかしら?」

「…この命に代えてもな」
真剣な眼をしてまっすぐ自分の眼を見詰めながら返事をするギロロを見た秋は満足そうに笑顔を見せると
ギロロの肩を抱きあげ向かい側のソファに座らせた。
「…夏美の事、よろしくねギロちゃん」
「秋はそれでいいのか?」
「夏美が…あの子が自分で決めた事だから」
秋の言葉に驚いて目を丸くするギロロに笑顔を見せると秋は静かに頷いた。


「確かに普通じゃないわよね…地球人は宇宙人の存在さえ普通知らないわ」
「ましてその宇宙人と恋愛関係になるなんて普通の地球人から見たらあり得ない事だと思うわよ」
秋の言葉を聞いたギロロは切なげに肩を落とした。
「…そうだよな」
ギロロのがっかりした様子を見ながら秋は話を続けた。
「夏美ね、確かにまだギロちゃんと互いの気持ちを確かめ合った事もお付き合いするようになった事もあたしには言っていないわ…」
「知ってる?夏美ったらねえ、この一週間ずっとあたしの前を何か言いたげな顔をしてうろうろしているの…」
「あの子もこの恋愛が地球人として普通じゃない事くらい分かってるのよ…」
「だから母親のあたしに心配かけまいとなかなか告白できないのね、きっと」

「やはり迷いがあるのだな…告白したのも俺がこの家から出ていくと知って勢いで言葉に出てしまったのかもしれんな」
ギロロはあの時の夏美の告白がその時の勢いで出てきてしまった為、
今現在は夏美自身告白した事に若干の後悔があるのではないかと思い始めた。

「ギロちゃん!」
ギロロの呟きを聞いた秋の口調が強いものに変わった。
「夏美は…あたしの娘はそんな娘じゃないわよ」
秋の声に驚いたギロロに秋は、今度は優しく話し始めた。
「ギロちゃん、聞いて良い?」
「なんだ?」

「夏美ったらギロちゃんの気持ち知った時、思いっきり泣いたでしょ?」
「…泣かれた」

「大声で泣いたんじゃなくって?」
「…大声だ、ワンワン泣かれた」
ギロロの言葉を聞いた秋は納得したように大きく頷いた。
「夏美はね、嬉しいと大きな声で泣くのよ…逆につらい時は声を殺して泣き続けるの…元々泣き虫さんだから」
「…きっと両思いだって分かって物凄く嬉しかったのよ」

「・・・・・・・・」
秋の言葉をギロロは黙って聞いている。

そんなギロロを見て再び微笑むと秋は物思う様な目をして話を続けた。
「地球人とケロン人の恋愛…確かに普通じゃないわよね」
「姿かたちも…それから侵略する側される側といった立場も…」
「でもあたしは夏美にいつも言っているの…自分の気持ちに正直に生きなさいって…」
「後で悔いを残すような人生はダメだって…ね」
「どんなに酷い結果に終わったとしてもそれが自分の決めた道ならその決断に誇りを持ちなさいって…」
「満足する結果も後悔する結果も自分の決断の先にあるべきだわ…色々な事に流され自分の意思が無かったら悔いしか残らないもの」

「お前らしいな」
「酷いわね」
「いや、褒めている」
「ふふ…ありがとギロちゃん」
二人は互いに笑顔を見せた。

「ギロちゃんは知らなかったでしょうけど夏美だってずっと悩み苦しんでたのよ」
「携帯の待ち受け画像のギロちゃんを見て笑っている時もあれば…」
「苦手な編み物で一生懸命マフラーを編んでみたり…」
「北海道で命を落としかけたギロちゃんを見て自分はギロちゃんを好きになっちゃいけないんだって悩んだり…」
「それでも抑えきれない気持ちに部屋で一人で泣いていた時もあったわ」
「自分の気持ちがはっきりした時、一生懸命バレンタインのチョコを作ったりしたけどなかなか気持ちを打ち明けられずに…悩んで苦しんで…」

「・・・・・・・・」
秋の言葉を聞いたギロロの脳裏にその時々の夏美との思い出が映し出されていく。

「そうしてあの子が決めた事なの…だからあたしは何も言わない」
秋はそう言うと姿勢を正しギロロに対して深々と頭を下げた。
「ギロちゃん…あの子の気持ちを大切にして…そしてあの子の気持ちを信じて…」
「あの子に後悔の涙を流させないで…悲しませないで…」
「あの子の母として…お願いします」
最後は秋にしてはいつになく丁寧な、そして思い詰めたような声であった。

「よせ、秋!」
ギロロは飛び出すと秋の前に立ち頭を上げさせた。
「…夏美の事…信じているし大切にする…言われるまでもない」
「ありがとうギロちゃん、なんだかお付き合いを始めたばかりなのにお嫁にもらわれていくみたいなお願いだったわね」
秋は顔を上げるといつもの口調に戻り、笑顔を見せた。
「よ、よ、嫁…」

ギロロは『嫁』という言葉に照れて顔を真っ赤にしている。
『これだけ姿かたちや立場が違うとお付き合いするだけでかなりの決心と覚悟が必要に思えるもの…ね、夏美』
顔を真っ赤にしながらフラフラになっているギロロを見ながら秋は夏美の顔を思い出すと笑顔を見せた。


「じゃあギロちゃん、このプレゼントはあたしが夏美の枕元に置いてあげるけど…次からは直接渡してね、彼氏として」
「あ、ああ…スマンな」
秋はテーブルの紙袋を抱えると笑顔で頷いた。
その後しばらく二人でギロロの事やケロン星の事を話していたが
夜も更けギロロがテントに戻ると秋は夏美の部屋にプレゼントを置きに向かった…
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