冬色の宇宙(短編集)その4

□天使の誘惑・悪魔の苦悩 後編
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天使の誘惑・悪魔の苦悩 後編



此処は土井中海岸
ギロロと夏美は二人きりで海水浴に来ていた。

「ギロロ〜お待たせ〜」
海の家で借りたパラソルを広げていたギロロの処へ水着に着替えた夏美が戻って来た。
「ほら、パラソルのついでに買っておいたジュースだ。飲むがいい」
「うん、ありがと」
夏美は置かれているビーチベッドに腰を下ろすとギロロから受け取ったジュースを美味しそうに飲んだ。

美味しそうにジュースを飲む夏美を見て安心したのか自分もレジャーシートに腰を下ろすとギロロはあたりを見渡し一つ息を吐いた。
「しかしどうしていつも此処なんだ?今回は別にケロロの奴がいる訳でもないのだからコンテスト云々ではないだろうに」

ここ土居中海岸は日向家のある奥東京からは決して近いとは言えない海水浴場である。
以前はケロロがここで行われる村おこしのコンテストに用意された商品目当てで皆を引き連れてきていたのだが
最近はコンテストの商品に興味が無いのか此処の名を出す事も無い。
加えてコンテストが開催されていない時の此処は海水浴客もあまり多くなく奥東京から名指しで来るような場所とはいえない。
そんな海水浴場を夏美が選んだ理由がギロロにはよく分からなかったのである。

夏美はそんなギロロの顔を見て吹き出しそうになるのをこらえるとあえてこの場所を選んだ理由を説明した。
「確かに家からはちょっと遠いけどコンテストの時以外はあまり混んでないからアンタと来るにはちょうど良いの、ほらアンタの顔目立つから」
「確かにそうかもな」
「あたしは全然かまわないんだけどね」
理由を知り、僅かに顔を赤らめ頭を掻くギロロに笑顔を見せると夏美は飲みかけのジュースを飲み乾した。


「それはそうと今年はずいぶん防御力の高そうな水着なのだな」
「え?ああコレ?」
「そ、そうだ……いつもお前が来ているタイプとは違うようだが……」
夏美が海で遊ぶ時の水着はビキニが多い、それも比較的身体の露出の多いものがほとんどだ。
だが目の前にいる夏美の水着はまるで普段着の様な身体の露出の少ないものだ、見慣れぬ夏美の姿にギロロは少々困惑の表情を見せた。

「なになに?もしかしてギロロってばガッカリしてる?」
「が、が、ガッカリなど決して!」
慌てて否定するギロロを嬉しそうに眺めると夏美はビーチベッドから立ち上がった。
「最近の水着はね、水着の上から着るやつとセットで売ってるの」
「それじゃお披露目するね、この夏の水着forギロロ」
そう言うと夏美は可愛らしいフリルの付いた上着に手をかけた。
「な、なんだその「forギロロ」と言うのは?」
「だってこの日の為に買ったんだもん…ジャ〜ン、どう?」
上着とショートパンツを脱ぐと中から可愛らしくも大胆なビキニが現れた。

「うわあああぁ!」
「なによその声、失礼ね」
思わず叫び声を上げたギロロに夏美は文句を言うがその表情は満足げだ。
『やった!効いてる効いてる』
『ギロロってば意外と可愛らしい感じのが好みなのよね』
『よ〜し、練習したポーズで決めちゃおっと』
ギロロの反応に気を良くした夏美はギロロの前に立つとこっそり練習したグラビアアイドル風のポーズを決めた。

「す、すまん」
「どう?この水着」
どうにか気を落ち着かせ顔を上げたギロロの目に可愛らしくもセクシーなポーズを決める夏美の姿が映し出された。
「あ、あ、あ、あ、相変わらずお前の装備する水着とやらはぼ、ぼ、防御力がひ、ひ、低そうだ」
刺激的な光景にのぼせて気が遠くなりそうなのを必死に抑えるとギロロはやっとの事でいつもの文句を言った。
「そんな事聞いてないわよ、可愛い?」
湯気が出るほど顔を赤くして気を失いそうになっているギロロの目と鼻の先まで近寄ると夏美はわざと甘えた声を出した。
「あ、あ、あ、あ、」
ギロロは今にも失神しそうだ。
「もう、しっかりしてよ!どうなの?」
コクコク……
「魅力的?」
コクコク……
夏美の問いかけにもはや頷く事しか出来ない状態のようだ。

「へへえ、正直でよろしい…それじゃ一息ついたから泳ぎに行こうよ」
ひとまず満足した夏美はギロロの手を引き波打ち際を指さした。
「あ、ああ、そ、そうだな」
ギロロもようやく少しだけ落ち着きを取り戻したらしい、顔を真っ赤にしながら頷くと立ち上がった。

「ねえ、海まで来たんだからそのスーツ脱いだら?」
波打ち際に向かって歩き出そうとするギロロを止めると夏美は地球人スーツを脱ぐことを提案した。
「この地球人スーツをか?」
「うん、スーツにはこれ付けて留守番させようよ」
驚くギロロに夏美がバッグから取り出して見せたのはギロロそっくりの頭。
「なんだこれは?俺の頭ではないか」
「荷物の見張りに作ってもらったのよ」
どうやら地球人スーツに装着して留守番をさせる為に作らせたらしい。
「クルルの奴が作ったのか、悪趣味だな、大体アンチバリア一つあれば留守番などいらぬのに」
「それも不自然でしょ?それにあたしはそんなスーツなんか着てないギロロと泳ぎたいの……ね、いいでしょ?」
「そうか、了解だ」
甘えた声で夏美がねだるとギロロは慌てて目を逸らし了承した。
荷物をギロロヘッドの装着された地球人スーツに任せると二人は波打ち際へと駆けて行った
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