冬色の宇宙(短編集)その4

□天使の誘惑・悪魔の苦悩 前編
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天使の誘惑・悪魔の苦悩 前編


今回のお話は恋愛中のお話です。


此処は日向家
食事と入浴を済ませた夏美は先程から自室にある姿見と睨めっこを続けていた。

「へへぇ〜やったね、プチダイエットも大成功!」
夏美は自室に戻るなり購入したばかりの水着に着替えると鏡の前でグラビアアイドル宜しくセクシーポーズをとり続けているのである。

「新しい水着もバッチリだし、ギロロの奴驚くわよ〜」
どうやら明日の日曜日にギロロと二人だけで海に行く約束をしているらしい。
今年の夏も始まったばかりである、夏美は思い切って新しい水着を購入したのだ。

「やだ、あたしってば結構色っぽいかも」
セクシーポーズを鏡に映しながら夏美はひとりご満悦の様子だ。
「この愛らしく色っぽい夏美ちゃんを見てムラムラしない奴なんていないわよ……当然ギロロはノックアウトね」
そう言うと夏美は満足げに頷くとガッツポーズをとった。
「……でもって」
「ムラムラして急に襲ってきたりして……」
「キ、キスされちゃったりなんかして……」
「きゃ〜っ、やだぁどうしよう!」
夏美はベッドで転がりながら一人で盛り上がっている。
「そうだ、何事も最初が肝心って言うから明日着ていくお洋服決めなきゃ……」
その夜、夏美の部屋はずいぶん遅くまで明かりがついていた。



そして翌日

空は快晴、絶好の海水浴日和……なのだが夏美とギロロは出かける事なく夏美の部屋にいた。

ベッドで寝ている夏美の横でギロロが溜息を吐いている。
「それにしても寝巻を着ずに寝て風邪をひくなどたるんでる証拠だぞ夏美」
「ガンガン言わないでよ……頭痛いんだから」
どうやら夏美は着ていく服を決める為にファッションショー宜しく手持ちの服を着たり脱いだりしているうちに
少々疲れて休憩したところ、ついうっかりそのまま寝入ってしまい身体を冷やし風邪をひいてしまったらしい。
尤も恥ずかしくてそんな理由をギロロに言える筈も無い、ただうっかり寝巻を着ずに寝てしまったという事にしたのである。

「今日はギロロと海に行く筈だったのに〜」
夏美は熱で顔を赤くしながら大きな溜息を吐いた。
「今日はおとなしく寝ていろ」
そう言うとギロロは立ち上がり部屋から出て行こうとした。
「行っちゃうの?」
不安げな夏美の声に振り返るとギロロは珍しく笑顔を見せた。
「すぐ戻ってくる、飲み物を持って来てやるからおとなしく寝ていろ」
「……うん」
「ゴメンねギロロ、予定狂わせちゃって」
予定が狂った事になによりがっかりしている夏美だがそれは言ってしまえば自業自得、夏美はギロロに対し素直に詫びた。
ギロロに詫びた瞬間夏美の瞳が潤み始めている。
ギロロはそんな夏美の傍に戻ると夏美の髪を優しく撫でた。
「なにも気にする事など無い、別に二人で海に行くのが今日でなければならない訳では無いのだから一週間延ばせばよいだけだ」
「……うん」
確かにギロロの言う通りであり、その言葉は風邪をひき落胆している自分を慰めようとしてのものである事は容易に想像できる。
だが同時にギロロの姿にあまり落胆が見えない事から自分だけが今回の海水浴に浮かれていたのではないかとの気持ちが夏美を更に落ち込ませていった。
物凄く悲しくなり涙が出てきた。夏美はギロロに悟られぬようわざと布団を頭から被った。

「夏美」
そんな自分の名を布団の外から呼ぶギロロの声がする。
「本当の事を言うと明日お前と出かける事ができる…い、いやハッキリ言おう……」
「夏の太陽と海の元で輝くお前の愛らしい姿が見られると思うと昨夜はなかなか眠る事が出来なくてな…」

「……ギロロ」
ギロロの口から出た珍しい言葉に夏美は布団から顔を出した。
夏美と眼の合ったギロロは顔を真っ赤にすると慌てて背を向けると話を続けた。
「俺自身物凄くがっかりしているのは間違いない…だがそんな事より今はお前の身体の方が大切だからな…わわっ!」
「ギロロぉ」
次の瞬間、背を向けていたギロロをベッドから起き上がった夏美が抱きしめていた。
「ば、馬鹿もん、おとなしく寝ていないか!」
「だってぇ」
ギロロは湯気が出そうなほど赤くなりながら夏美をベッドに寝かしつけた。
「改めて海へ行った時にお前の挑戦、全力で受けてやる」
「その言葉を吐いたことに後悔しても知らないわよ」
「はは……お手柔らかにな」
「ふふ……し〜らない」
先程までの落ち込みが少し晴れたのか夏美の顔に笑顔が戻った。

「その調子なら風邪もすぐよくなりそうだ、来週が楽しみだな」
夏美の顔に笑顔が戻った事にホッとしたのかギロロは僅かに笑顔を見せると部屋を出て行った。

翌週、晴れて海水浴デートとなるのだが果たしてこの勝負ギロロ、夏美のどちらが勝者となったのかは別の……
いや後編のお話。



後編に続く

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