夢色の花1

□「その時がきたら…」
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「ねえ、ギロロ…どうしてあんたはギロロなの…」
月の綺麗な夜だった…
有名な悲恋物のお話しのセリフをギロロの名前に置き換えて夏美は囁いた。
お話しの舞台と似たような二階にある自室のベランダから…

「・・・・・・・・」
庭先のギロロはその言葉には答えず真剣な眼差しで夏美を見つめている。
『あたし達は星が敵同士…』
『このお話しじゃないけれど…』
『いつかはきっと…』
夏美は自分の心の中に抱える不安と怖れを物語の主人公達に当てはめていた。

「その時あたしは…」
「…あんたはどうするの?」
この時はまだ夏美自身、その日がすぐそこまで来ているとは思ってもいなかった…


―その日は夏美が思っていたよりも随分早くやって来た―


ギロロと夏美の二人は深い森の中を歩いている。
この状態がもう三日続いていた。

地球侵略をケロロ小隊に任せる事をやめたケロン軍本隊が
直接侵略を開始して来たのだ。
当然地球最終防衛ラインである夏美はケロン軍からその命を狙われることとなった。

夏美はパワードスーツで応戦したがパワードスーツ自体ケロン星のメカである
システム干渉を受けたパワードスーツは機能停止し、使用する事が出来なくなった。

丸腰の夏美はケロン軍に捕らえられそうになったところをギロロに助け出され…
そのままギロロは夏美を連れてその場を逃げた。
それが裏切り者の名を受ける事になろうとも…



森の中を逃げる二人は途中幾度となくケロン軍の攻撃を受け、これをかわしてきた。
昼間は執拗な攻撃を仕掛けてくるケロン軍だが夜になると攻撃の手を休める。
「俺達も舐められたものだな…」
洞窟の中で焚き火を焚きながらギロロが悔しそうに呟いた。

「…きっとあたしが怪我をしている事を知っているから…ね」
夏美は逃げる途中、足を負傷してしまったのだ。
逃げ続ける事で疲労も重なりもうこれ以上動く事も叶わない状態である。

「…まあ、正直助かる、夜まで攻められてはかなわんからな」
ギロロは夏美の足の手当てをしながら優しく笑って見せた。

優しく微笑むギロロの顔を見た夏美は辛そうな顔をして目を潤ませたかと思うと膝を抱え込んで俯いた。
夏美は自分がもうこれ以上逃げられない事を悟っていたのだ。
このまま逃げてもきっとギロロの足手まといになってしまう…
夏美はそう確信していた。


「ねえ、ギロロ…」
「あたしなんかの為に仲間を裏切っちゃって本当に良かったの?」
「…後悔していない?」
夏美は俯いたまま小さな声でギロロにぽつりぽつりと話しかけた。

「…お前はどうなんだ?」
「こうなった事を後悔しているのか?」
ギロロが静かに尋ね直すと夏美は顔をあげぎごちない微笑みを浮かべながら首を横に振った。

「ありがとうギロロ…」
「あたしが今日まで無事でいられたのはあんたがいてくれたからよ…」
「そうでなかったらとっくに死んでいたかもしれないわ…」
「侵略者だけど…あんたに出会えてよかった…でも…」

「ごめんねギロロ…あたしもう駄目かも…」
「足の方はたいしたことないけど、これじゃ明日逃げ続けられない…」
夏美の声が徐々に小さくなっていく。

「そんな事は無い、まだまだ大丈夫だ」
「もう少しの辛抱だ、頑張れ夏美」
ギロロの励ましに静かに微笑むと夏美は首を横に振った。

「何時も強がっていたくせに…ダメだよね…あたし」
「このままじゃ、あんたの重荷になっちゃう…」
夏美はギロロを自分の腕の中に引き寄せると優しく抱きしめた。

「俺が絶対守ってやる、弱音を吐くな」
抱きしめられているギロロの軍帽に夏美の涙が落ちてしみていく…
「ありがとう、ギロロ…」
消え入りそうな小さな夏美の声がギロロの頭上で聞こえる。
「本当にあたしなんかの事をこんなに大切に想ってくれて…」
「あたし、後悔してないよ…あんたに出会った事…」
「あんたのこと好きになった事…」

少し間をおくと夏美は息を整えて再び小さな声でギロロに告げた。
「…だから、ね」
「もし…どうしようも無くなって、その時が来たとしたら…」
「その時は…ギロロ、あなたの手であたしを殺して…」
夏美の身体が小さく震えているのがギロロにも判った。
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