夢色の花1

□そっとあなたに…
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何時もと変わらぬ午後のひと時…
何時もと変わらぬ日向家の庭先…

テント横にある焚き火の前では並べられた大小のブロックの上にギロロと夏美が腰をおろしている。
焼き芋を食べながら学校の事や宇宙の事など他愛もない会話が何時もの様に続いていた。
お芋を焼き終えたギロロはこれまた何時もの様に銃を磨いている。

「毎日、毎日よく飽きないわねえ…」
ウエスで銃を磨きあげるギロロを見ていた夏美が半ばあきれ顔で呟いている。
「これも俺の仕事の一つだからな…」
そう答えながらもギロロは黙々と銃を磨き続けている。

新しいウエスを取ろうとしたギロロだが手探りで取ろうとする為なかなか取れないでいた。
「何やってんのよ」
見かねた夏美が籠に入っていたウエスをとってギロロに渡した。
「すまんな」
「どういたしまして」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら礼を言うギロロに夏美は笑顔で答えた。

「ねえ、そんなに毎日磨いていると磨くための布…ウエスって言うんだっけ?」
「たくさん欲しいんじゃないの?」
夏美がそう思うのも無理はない、金属磨きの薬を塗りこむウエス…
それをふき取るウエス、空拭きをするウエスという具合にギロロは丁寧に使い分けているからだ。
よく見ると籠の中のウエスは無くなりかけている。

「ああ、結構使うからな…」
「どうやって用意しているの?」
「ちゃんとしたクロスも使ってはいるが殆どはその辺の端切れだ」
「ボロ布として売っている」
「ふ〜ん…」
ギロロの話を聞きながら夏美は銃を磨くギロロをじいっと見ていた。



ある日の事
急に雨が降り始めた為、夏美は家路を急いでいた。
洗濯物が庭とベランダに干したままだからだ。

「ボケガエルが取り込んでくれてればいいけど…」
いちばん当てにならない事だと思った夏美はとにかく家路を急いだ。
家についた夏美が庭に回り、物干し台を見ると洗濯物の姿が無い
慌ててベランダを見上げるとベランダに干していた筈の自分の洗濯物も無かった。

「ボケガエルがやってくれたのかしら…」
夏美は玄関に回って家に入った。
「ボケガエルじゃないわ…きっと…」
「あいつまた掃除当番サボったわね…」
夏美の目の前には散らかったままのリビングが広がっている。

「…あれ?」
そのリビングのテーブルの上には丁寧に畳まれた洗濯物が積み上げてあった。
洗濯ばさみなどもきれいに並んでいる。
「誰がやってくれたのかしら?冬樹…じゃないわよね」
冬樹はまだ帰った様子が無い。

自分の洗濯物を持って二階の部屋に戻ると
ベッドの上に折り畳み式のハンガーでベランダに干してあった洗濯物が
ハンガーについたまま置かれている。

最近夏美は自分の洗濯物の内、細かい物や下着類などを
庭先に干さずにベランダに干すようになっていた。窓の鍵は閉めていない
というよりケロロ達が来てから鍵など掛ける必要もないからだ。

「誰だろう?…まさか」
ハンガーから洗濯物を外しながら夏美の脳裏には庭先に住む赤い居候の顔が浮かんだ。
「…たぶん…きっとそうだ」
そう考えれば合点が行く、
きれいに畳まれた洗濯物、以外と几帳面な男なのである。

庭の洗濯物は綺麗に畳んであるのにベランダに干してあった夏美の下着類はそのままベッドの上に取り込んであるだけだ。
顔を真っ赤にして取り込む赤い宇宙人の姿が想像できた。
最も夏美が下着類を庭に干さなくなったのも庭の住人に見られるのが恥ずかしいからであるが…

洗濯物からほんの僅かだが銃器の匂いがするような気がする。
庭に干してあったのだからかもしれないが
夏美はギロロが洗濯物を畳んでくれたのだと確信した。
「ありがと、ギロロ」
夏美はベランダを開けると主の見えないテントに向かって礼を言った。



それから数日経って
何時もの様にギロロは焚き火の前で銃を磨いていた。
新しいウエスを取ろうとした時ウエスの入っている籠の変化に気がついた。

「変だな…ウエスが増えているような気がする…」
確かに籠の中を見るとウエス用のボロ布が増えているのだ。
「ケロロの奴が気を利かせたのか?」
ギロロは不思議そうにウエスを一枚拾い上げた。

拾い上げた端切れを見たギロロはある事に気がついた。
以前に夏美が着ていた服の柄に似た生地が混ざっている。
ギロロは夏美が着なくなった自分の服を
ウエスとして用意してくれたのだと確信した。

「もしかしてこの前見ていて気を利かせてくれたのか?」
「すまんな、夏美」
ギロロは夏美の部屋を見上げると一礼をした。
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