夢色の花1

□ギブアンドテイク
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クルルズラボで実験をしているクルルの所に日向秋がやって来た。
日向秋は言うまでもなくケロロ軍曹が捕虜…もとい、居候している日向家の家長である。
マンガ雑誌編集の仕事をしている為か大変忙しく
家に帰る事もままならないほど時間に不規則な生活をしている。

そんな秋が最近、足繁くこのクルルズラボに通っているのである。
「クルちゃん居る?」
秋が鍵の掛かっていないドアを開けてラボに入ると
秋に背中を向けモニターとにらめっこした状態のクルルが溜息を一つ吐いて答えた。
「なんだ、また来たのかよ…」

「いいじゃない…ダメ?」
入り口からクルルの居る所まで勝手に入って来た秋は横からクルルの顔を覗き込んで微笑んだ。
「べっ、別に…」
急に顔を覘かれたクルルは少し慌てながら顔を横にそらして答えた。

その様子を見て秋は再び微笑むとクルルに尋ねた。
「クルちゃん、もうお昼ごはん食べたの?」
「お前さんには関係ないだろうが」
クルルは不機嫌そうな顔をしてぶっきらぼうに答えた。
「もしよければ食べてね」

秋が差し出したのはトレーに乗った一杯のカレーライス。
「今日はお休みだったからあたしがカレーを作ったのよ…」
「日向秋特製のスペシャルカレーよ…どう?」
次の瞬間クルルは秋から奪い取る様にしてカレー皿を手にしていた。
「俺がいらないって言ったらこのカレ―、どうするつもりだったんだ?」
「もったいねえから食べてやるぜ、くっくっくっ…」
減らず口を叩きながらクルルは秋の持ってきたカレーを美味しそうに食べている。

その様子を見た秋は安心した様に頷くとクルルの顔のすぐ傍に顔を近づけて囁いた。
「何時もの…お願いしてもいいかしら?」
耳許で聞こえる秋の声に硬直し汗を流しながらクルルはかろうじて頷くと
コントロールパネルのスイッチを入れた。

中央のモニターに画像が映し出された。
其処にはギロロと夏美の様子が映し出されている。
「そうそう、これこれ」
秋は嬉しそうにモニターを見て笑っている。
「・・・・・・・・」
クルルは無言でカレーを食べている。

秋は普段あまり家にいない、帰って来ても夏美達と時間が合わない為に
夏美達の生活の様子を把握しきれない事を悩んでいた。
二人がいい子でまじめなのは分かっているがそこはやっぱり親なので心配なのだ。

特に最近、秋が気にしているのは夏美とギロロの関係である。
お互いの気持ちを知ってお付き合いをするようになった二人の様子が心配で仕方がないのだ。

秋はクルルが前から日向家のあちらこちらを盗撮している事を知っていた。
普通なら怒る筈のところであるが、秋は怒りもせずに
「夏美や冬樹にとってプライバシーの観点から問題がある物は処分してもらうわよ…」
「その基準はあたしが確認して決めるわ…」
そう言ってラボに来てはビデオを見ているのだ。
モニターの画面にはギロロと夏美の昨日の様子が映し出されている。



ギロロと夏美は焚き火の前でギロロの焼く焼き芋を食べていた。
「焼き芋が美味しい季節になったわねえ」
「もし芋が年中あれば年中そう言うんだろう?」
「もう、失礼ねぇ」
二人は他愛のない会話で笑い合っている。

「ほら、もう一つ焼けたぞ」
ギロロが渡した芋を夏美が受け取ろうとしたが
「熱っ…」
熱かったのか伸ばした手を引っ込めてしまった。
「す、すまん…そんなに熱かったか?」
ギロロが夏美の手を心配そうに見ている。

「うん、だから…ふぅふぅして…」
夏美の甘えるような声にギロロは顔を真っ赤にして横を向いた。
「あ、甘えるな…」
「だってネコちゃんにあげるときはふぅふぅしてあげてるじゃない」
断るギロロに夏美が駄々をこねている、そのしぐさにギロロはさらに慌てている。

その様子を見た夏美はにっこり笑って止めの一言を囁いた。
「ギロロぉ…お願い」
「仕方がないな…」
ギロロは顔を真っ赤にしながら夏美の焼き芋にふぅふぅと息を吹きかけて冷ました。
「ありがと、ギロロ」
夏美は勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべた。



「よくやるぜ、あいつら」
クルルが半ばあきれ顔でモニターを見ながら呟いた。

「最近は夏美も積極的になってきたわねえ…」
「前は二人ともぎごちなくて見ていて笑っちゃったわよね?クルちゃん」
秋はモニターに映し出されている娘達の様子を見てはしゃいでいる。

「まったく…娘の恋路を見て楽しんでるなんて…お前さんも趣味悪いぜぇ」
「娘は娘でカエル型侵略宇宙人と恋仲になるなんてよ…」
「お前達は母娘そろって変わってやがる…」

クルルのあきれた様な物言いに秋は嬉しそうに微笑んだ。
「あらいいじゃない」
「あたしはあの子達に『自分に正直でいなさい』って何時も言っているの…」
「それであの子が、夏美が幸せならば…」
「あたしは何よりそれが一番うれしいわ…」

「そんなもんかね…」
「そんなものよ」

 
 「夏美…」
 「…うん」
モニターに映るギロロと夏美はしばらく見つめ合っていたが
焚き火の火の始末をすると
やがてギロロのテントの中に入っていった。
モニター画面はテントの中に切り替わる。
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