冬色の宇宙(短編集)その1

□ツーリング
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「ツーリング」

「いいなあ・・・」
あたしは縁側に腰を掛けて呟いていた。

「どうした?夏美」
「何が『いいなあ』なんだ?」

庭先にいたギロロが声をかけてきた。
「えっ?あ、やだ、聞いてたの?ギロロ」

あたしが羨ましかったのは
さっきボケガエルと冬樹がボケガエルのバイク型ソーサーで
遊びに出かけていった事だ。

「バイク型のソーサーって一回乗ってみたいのよね」
何時もギロロ達が乗っているソーサーでは
二人乗りするには小さすぎて乗りにくいんだから。

「でもボケガエルのバイク型ソーサーも結構小さいから」
「冬樹もきっと乗りにくいんじゃないかな・・・」

あたしは思っていた事を呟くようにブツブツとギロロに話していた。

「・・・お前も乗ってみるか?」

「えっ?」

予想外のギロロの言葉にあたしはビックリした。
「あんた持ってるの?」
「ま、まあな」

ギロロはそう言うとあたしの目の前に一台のソーサーを転送させた。
「わあっ、すごーい!」
あたしは思わず声を出してしまった。

それはボケガエルの物より大きめで後には
なんだかスーツケースのような箱が付いている。
「野営用にたまたま購入した物だ」
「ケロロの物はスポーツタイプだがこれは旅行用だ」

「・・たまたま・・・?」

よく見ると二人乗りで前の席はケロン人向けに作ってあるのだが
後席は如何見ても人間型用に作られている。

「もしかしてあたしのために?」
「そ、そんな事は無い・・・たまたまだ」

なんだ、たまたまなんだ。
あたしは自分でもうぬぼれが強いなあと思った。

「夏美これを着ろ」

出されたのは
ライディングスーツ?とヘルメット。
「風邪でもひかれると敵わんからな」

渡されたスーツとヘルメットには
「723」と書かれている。

『これ、あたし用?やっぱりこのバイクもあたしの為に?』

あたしがスーツとヘルメットを見ていると
「たまたまケースの中に人間用の物が入っていたんでな」

あたしはなんだか物凄くおかしくなった。
だって・・・これ

あんた何時から
このバイクを準備していたの?
あたしの為なんでしょ?
だって人間用の座席と名前の入ったスーツとヘルメットが『たまたま』だなんて・・・

でもギロロは「たまたまだ」の一点張り。
これ以上問い正したら怒り出しちゃいそうだから・・・

「着替えてくるからちょと待っててね」

あたしは部屋に戻ると大急ぎで着替えて庭に戻っていった。

「出発進行!!」
「ばかもん!ちゃんとヘルメットをかぶらんか」

あたし達を乗せたソーサーは大空に舞い上がった。
・・・すごくいい気持ちだ。

『ありがと、ギロロ』

後からギロロに声をかけた。
「いい乗り心地ね、最高だわ」
「それはよかったな」

「ねえ、ギロロ」
「なんだ?」

「今度、これでデイキャンプにでも行きましょ」
「これでって・・・ふ、二人でか?」

「そうよ、だめ?」

「ぐあー!!」

ギロロから湯気が上がりソーサーがバランスを崩す。
「きゃあ!もう、危ないじゃないの!!」
「す、すまん」

あたしはおそらく自分の為に用意してくれたであろう
このソーサーが物凄く嬉しかった。

「たまたま・・・か、あんた嘘がヘタね」
「何か言ったか?夏美」

ギロロには聞こえていないようだ。
「ううん、今日は嬉しかったわ」
「ありがと、ギロロ」

今回はヘタな嘘に付き合うことにしよう。
だってこんなに楽しくて、嬉しいのだから。



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