秋色の空(恋愛編)

□プルミエ ジュール
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「はい、夏美さん、これ」

此処は駅前の喫茶店。
夏美は以前知り合ったユリと会っていた。

「え、本当にいいんですか?」

「約束ですものね」

ユリが夏美に手渡した物は小さなアトマイザー。
ユリはかつてギロロのライバルだったフェイザー星のアスティと結ばれた地球人。

以前奥東京郊外の山の公園で知り合いになったのだ。
それ以来ユリと夏美は互いに連絡しあい、お茶をしたり
買い物をしたりするようになっていた。

そんなある日、今日と同じ喫茶店で夏美がユリにたずねたのだ。

「ユリさんの・・香水かしら?いいにおい」
「え、そう?夏美さん香水は?」

夏美はユリの香水のにおいに興味があったが
自分で香水をつけることはまだ無かった。

「え、あ、あたしですか?まだそんな香水だなんて」
「あら、もう高校生なんでしょ・・たまにはね」

夏美はユリの香水に興味を持ったので
「ユリさんのその香りはどんな香水なんですか?」
と聞いてみた。

「これはね、『はじめての日』って名前のものなのよ。
「『はじめての日』?」

ちょっと甘い感じのでも甘すぎない花のような香り
夏美は改めてにおいをかいでみた。

「夏美さん、気に入ったなら今度少し分けてあげるね」
「え、いいですよ。そんな、悪いし・・・高いんでしょ」

夏美はビックリして断わったが
「遠慮しないの、ちょっとだけだから」
とユリの何時ものふわりとした微笑に甘える事にした。

そのときの約束どおりユリは夏美に手渡したのだ。

「実際に使ってみて合わなかったら止めてね」
「ありがとうございます」

穏やかで優しい性格のユリを夏美は慕い
ユリが異星人の夫をもつ事などから
色々相談事などをするようになっていた。

「それじゃあね、夏美さん」
「はい、失礼しますユリさん」

ユリと別れた夏美は家路についた。

翌日は日曜日だった。

朝、夏美はユリにもらった香水を少しつけてみた。
その香りはフローラル系の爽やかな甘さを持ったものだった。

・・・最初にこの香水の話しを聞いた時はこの香りだったけど・・・
・・・でも昨日は少し違う香りがした・・・

『香水はね、時間の経過と共に香りが変わるものが多いのよ』

『トップ、ミドル、ラストと言ってね・・・』

そういえば昨日ユリさんがそんな事言ってたっけ・・・

襟元につけた香水のにおいをかいで
「うん、いい感じ」
夏美は一人納得して
「そうだ!」
と、思い出したように階段を下りて庭に出て行った。

庭では相変わらずギロロが銃を磨いていた。
庭に降りてきた夏美がギロロに声をかける。

「ギロロ」

「な、夏美、どうした?何かあったか?」
相変わらず夏美が声をかけると落ち着きの無くなるギロロであった。

「なんだか、あたしがあんたを脅かしてるみたいで気になるから」
「その慌てたそぶりは止めてよね」

夏美が半ば呆れ顔で文句を言うとギロロは頭を掻きながら
「スマンな・・・」
と小さな声で謝った。

『だいたい後ろから声をかけてそれじゃよっぽどあんた後、隙だらけよ』

と言おうとしたが此処に来てまでかわいくない台詞を
連発する気は夏美には無かった。

「ねえ、ギロロ」
「あたし・・・どう?」
夏美はギロロの直ぐ近くまで体を寄せて尋ねてきた。
かなり唐突で抽象的な問いかけだ。

少し前のギロロであればオーバーヒート状態であったろうが
最近は少しなれてきて以前ほどではない。
それでも体中真っ赤になっている。

「ど、ど、どうって・・・何時もの夏美だ」

期待はしてなかったけど、腹が立ってきた。
夏美はギロロにはちょっとした変化も気が付いて欲しかったのだ。

「ふん、鈍感!」

夏美は怒って部屋に戻って行ってしまった。

「ど、どうしたんだ、夏美」
「俺はまた何かマズイ事をしたのでは?」
「まさかあれか?いやあれかも?」

動揺したギロロは頭を抱えて蹲ってしまった。
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