秋色の空(恋愛編)

□残波(ざんぱ)
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「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
夏美の言葉にギロロは我に帰った。
「あ、ああ…」
気のない返事に夏美は頬を膨らませている。
「もう、ちゃんと聞いてよね」
「お土産は何がいい?」

焚き火の前で焼き芋を口に入れながら改めて夏美が訊ねてきた。
夏美は明日から修学旅行だ、3泊4日で沖縄に行くことになっている。
4日も会えないと思うとギロロの心中は穏やかではなかったが
夏美が前から楽しみにしていた旅行である事も
日向姉弟が普段忙しい秋の仕事の為にあまり旅行に行く機会がない事も知っている。
ここは明るく送り出してやらねばならないとギロロは思った。
「土産などいらん、楽しんでこい…」
ギロロは顔をあげ笑顔を見せた。

「…うん」
夏美は笑顔を返してきたが、その後僅かに表情を曇らせると
「ちょっと寂しいよね」
と呟き、顔をあげると
「たった四日間なのにね…」
と言って恥ずかしそうな顔をした。


修学旅行当日
夏美は朝早くから出かけていった、学校に集合して羽田から空路沖縄に向かう事になっている。
ギロロはいつものようにテントの横で武器を磨いている。

「もう少しで沖縄とやらに到着する時刻であろうか…」
ギロロが空を仰ぎ見たその瞬間
「ケロ〜ン、ケロ〜ン」
テントの中から警報が響きだした。
「何事だ!」
「ふっ、寂しがっている暇などないな…」
ギロロは地下基地に向かった。


「何事だ?」
ギロロが中央指令室に到着した時、中央のモニターには日本地図が映し出されていた。
地図の上には二つの物体の移動進路らしきものが表示されている。
「これは?」
ギロロの問いかけにクルルが振り返って答えた。
「片一方は地球に侵入してきた敵性宇宙人のメカだぜぇ」
「もう一方は…」
「日向夏美の乗っている旅客機だ」

「なにぃ!」
ギロロは自分の目を疑った、侵入者のメカの進路と夏美の乗っている旅客機の進路は
間違いなく先の方で交差している、つまり偶然にしろ間が悪ければこの二つの飛行物体は接触する可能性があると言う事だ。
「計算上ではおよそ10分後に99,99%の確率で接触するぜぇ」
クルルが事も無げに答える。
「大変であります、空中輸送ドック発進スタンバイであります!」
「ギロロ伍長…って、アレ?」
ケロロが振り返ると、いつの間にかギロロの姿はなかった
「伍長さんのFWタイプ機動メカ発進しました」
モアがケロロにギロロの発進を伝えた。
「ゲロッ、いつの間に」
目を丸くして驚くケロロに
「おっさん、じっとしていられないんだろうよ…」
「どのみち輸送ドックじゃ間に合わねえからよう」
「おっさんのメカで現場に先に行ってもらった方が得策ってやつだぜぇ、くっくっくっ」

クルルが楽しそうに笑うとモニターを見ていたケロロも
「そだね、クルル、現在の赤だるまの顔…モニターできる?」
と言って何やら企み顔を見せた。
「オフコース、既に録画中だぜぇ」
クルルが指を立てたのを確認すると
「んじゃ、我々も出動であります!」
と言って輸送ドックの格納庫に向かっていった。


夏美達は修学旅行を楽しんでいた。
天気は快晴、飛行機は順調に那覇空港を目指している。
窓側に座っていた夏美の横で小雪が窓からの風景を食入る様に見ていたので
ベルト着用の規制が解けた後、小雪と席を交代したのだった。
「夏美さんは珍しくないんですか?」
小雪の質問に
「ほら、時々ボケガエルの飛行機に乗っているでしょ」
小雪はもっぱら自分の足で移動している為ケロロ達のメカには
あまり乗る事がない、飛行機自体が珍しいのだ。
『ボケガエル達のメカの方が揺れなくて乗り心地がいいわね…』
『やっぱりあいつらの方が進んでいるって事なのかも…』
夏美が小雪の姿を見て微笑んだ時
ものすごい音と共に飛行機全体に衝撃が走った。

「何、何なの?」
次の瞬間、飛行機は大きく傾き始めた、機内に悲鳴が上がる
機長からのアナウンスはないがベルト着用のサインが点き、CA達がベルトを着用するように指示を出し始めた。
「夏美さん、あれ!」
窓から外を見ていた小雪が指をさして夏美を呼んだ。
「あれは…」
窓の外には見たこともないメカが飛んでいる、旋回すると再びこちらに向かって飛んできた。
「ぶ、ぶつかる!」
夏美が目を閉じようとした瞬間
「夏美―!」
何処からかギロロの声がしたかと思うとこちらに飛んでくるメカに向かって数本のビームが撃ち込まれた。
ビームの攻撃を受けたメカはそのまま何処かへ逃げていった。


メカは逃げていったものの、どこかに損傷を受けたらしく油圧が低下し
旅客機の高度はどんどん下がっていく…
旅客機のパイロット達にも宇宙人同士の戦いはアンチバリアにより見る事が出来ず
原因不明の機体破損の為、操縦不能になっているとしか分からない。
必死に操作をするも機体が言う事を聞かないでいた。

キャビンは悲鳴に包まれている。
「ギロロ、ギロロ…」
夏美は必死になってギロロを呼んだ。
「夏美、大丈夫だ」
どこからかギロロの声がする。
「携帯がOFFになっていても関係ない、そのまま話ができる」
「夏美よく聞け、先程のUFOとの衝突のせいで旅客機の機体が破損している…」
「とりあえず、俺のメカで支えるがすぐにケロロ達が来る」
「そのまま輸送ドックで支えて空港に着陸させるから心配するな」
ギロロの声と言葉にほっとした夏美は周りの友達を励ました。
やがて機体が安定しだし、機内の様子も落ち着いた。

旅客機のコクピットでは事態が呑み込めずにパイロット達が首を傾げている
失った筈の油圧と機体の安定が戻り通常の飛行を続けられるようになったからである。
誰の目にも見えないが旅客機の上と下で輸送ドックとギロロのメカが機体を支え
他の部分の油圧をクルルのメカで回復させているのだ。
安定を取り戻した旅客機は無事に那覇に向かう事が出来た。


那覇空港に降りた飛行機を見て空港関係者は目を丸くした。
水平尾翼と垂直尾翼の一部が無くなっているのである。
どうして飛んでこられたのか皆、首を傾げているが夏美達乗客は無事に沖縄に到着する事が出来たのであった。


「んじゃ、我々は帰還するであります」
旅客機の無事着陸を見届けたケロロ達は帰還しようとしていた。
「あ、ちょっと待つであります」
「ギロロ伍長は残るであります」
ケロロはギロロに沖縄に残るよう命じた。
「なんで俺だけ残らねばならんのだ?」
「先程逃げた敵性宇宙人のメカが心配であります」
「ギロロは残って探索及び警備の任務に就くのでありますよ」
「我輩、冬樹殿を一人にしておく訳にもいかないのであります」
「わ、わかった…」

顔を赤くして了解したギロロを見たケロロは
「ギロロく〜ん、沖縄に来たからって…」
「任務ほっておいて夏美殿の所にばかり行ってちゃダメでありますよ」
と言ってにやりと笑った。

「そんな事するか!」
「じゃ、そゆ事で」
ケロロ達は顔を真っ赤にしているギロロを一人残して日向家に戻っていった。
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