秋色の空(恋愛編)

□逢いたくて…
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…あたしはここよ…早く見つけて…ねえギロロぉ…



「何だと思う?隊長」
「さあ?皆目見当がつかないであります、いずれにしてもこれは一度調査をする必要があるでありますな」
地下基地でクルルとモニターを見ていたケロロは腕組みをすると首を傾げた。
「そんじゃいっちょ行ってみるかい?ニューロードランジャーなら整備点検済みだぜぇ」
クルルの言葉に頷くとケロロは立ち上がり日向家に向かう為、自分のコンソールから離れた。
「では我輩は夏美殿に訳を話して掃除当番を変わってもらうであります」
「その間にモア殿は小隊メンバーを緊急招集して欲しいであります」
「了解です、おじさま」
敬礼するモアに笑顔で頷くとケロロは地上にある日向家に向かった。



その頃、日向家の庭にあるギロロのテント前にはブロックに並んで腰をかけるギロロと夏美の姿があった。
夏休みに入った為、昼間からこうして二人でいる事も多くなっている様である。
「ねえギロロぉ、いいでしょ?」
「ふたりきりで海に…か?」
そんなふたりの今の話題はこの夏休みに二人だけで海に行こうということである。
「うん」
「ふたりだけの時に着ようと思ってこの前買った新しい水着、一度あんたに見せて以来まだ着てないのよ」
夏美の言葉に数週間前、夏美の部屋で見た水着姿を思い出しギロロは顔じゅうを真っ赤にした。
かろうじて平静を装うと咳ばらいをし、ギロロは海まで行く方法を尋ねた。
「どうやっていく気だ?アンチバリアを張っていると傍からはお前が一人で海に来ているように見える…」
ギロロにしてみれば夏美が一人で出歩いているように見えるのは好ましくない事なのである。
「あはは、ナンパの嵐かもね」
「・・・・・・・・」
能天気に笑う夏美の言葉にギロロは少々不機嫌そうな顔をした。
そんなギロロの顔色に気付いた夏美は慌てて両手を合わせると小さく頭を下げた。
「ゴメン…怒っちゃった?」
「…別に怒ってはいない」
ギロロの不機嫌になる理由も夏美にとっては嬉しい事なのだろう、再び笑顔を見せると夏美は地球人スーツの使用をギロロに勧めた。
「じゃ、地球人スーツで行けば良いじゃない」
「そうだな、それしか…」

ギロロが夏美のアイデアに頷きかけた時、急にケロロがリビングの窓から顔を出した。
「夏美殿〜」
「ボケガエル?」
「ケロロ、どうしたんだ?」
急に現れたケロロにギロロが訳を聞こうとした時、地下基地のモアから緊急招集が伝えられた。
「伍長さん、緊急招集です…って言うか、いざ鎌倉?」
「緊急招集だと?どういう事だ?ケロロ」
緊急招集と言えば非常事態に違いない、ギロロは招集をかけた本人であろうケロロに理由を尋ねた。
「あ〜それそれ、その事で夏美殿にお願いに来たのであります」
「お願い?なによ?」
ケロロの口から自分の名前が出た夏美は首を傾げた。


「軍曹さ〜ん」
その言葉にケロロ達が振り向くと玄関脇からタママが現れ、少し遅れて冬樹と桃華が現れた。
「お〜タママニ等、御苦労であります」
タママを迎えるケロロの前に心配そうな顔をした冬樹が現れた。
「軍曹、何かあったの?」
「冬樹殿、桃華殿も」
「西澤さんと西澤家のライブラリーでオカルト関係の資料を探していたらタママが緊急招集を受けたっていうから」
「何か僕達で協力できることがあったら言ってよ」
冬樹の申し出に頭を下げるとケロロは事の次第を説明する為、その場にいる皆を地下基地に案内する事にした。
「冬樹殿ありがとうであります、それでは説明するので地下基地まで御足労願うであります」
冬樹と桃華、ギロロと夏美、そしてタママはケロロに連れられて地下基地に下りて行った。



「えっ、南の島?」
『南の島』という言葉を聞き、海に行こうとしていた夏美が真っ先に反応した。
そんな夏美に頷くとケロロはある南の海に最近出没すると言う怪物と人魚の話をした。
「最近この辺りの海に怪物が出るらしいのであります」
「怪物?」
「付近を航行中の船舶が怪物の攻撃を受けているらしいのであります」
「『らしい』ってどういう事よ?」
ケロロのあいまいな物言いに夏美が問い質すと
「被害に遭ったと言う船舶に実質的な被害は無いのであります…が、船員達は襲われた事に対する恐怖で精神的に異常をきたしているのであります」
「精神的に異常って、まさか幽霊とかそんなんじゃないでしょうね?」
「そのあたりはまだよく分かっていないのであります、ただ船員の証言によるとその怪物が現れる前に…」
「必ず少女の姿をした人魚が現れて歌を歌うそうであります」
「人魚?」
冬樹はケロロの『人魚』という言葉にいつかの少女を思い出した。
「ふうん、でもねえボケガエル」
「何でありますか?」
「その話が本当だとしてもあんた達には関係無い事でしょ?なんで緊急招集なんかしたのよ?」
夏美はケロロになぜケロロ達がその事を調べに行くのか尋ねる事にした。
その話が本当だったとしても夏美には何故ケロロ達がその事を調査しようとしているのか理解できなかったのだ。
「それが大ありなのでありますよ、情報によると人魚の歌う歌がどうやら共鳴らしいのであります」
「共鳴?ケロン人って事?」
「それが分からないから調べる事にしたのであります」
「調べるって?まさか行くの?南の島?」
南の島に行くと言うケロロの言葉に夏美は思わず身を乗り出した。
「え?ま、まあそう言う事になるであります」
「それでお願いというのは明日の掃除当番を免除して欲しいのであります」

頭を下げるケロロに対し、元々海に行きたかった夏美は自分も連れて行くことを条件に掃除当番の免除を認めようとした。
「じゃあたし達もつれてってよ」
「凄いや軍曹、本当に人魚なら僕も見てみたいな、僕も連れて行ってよ」
冬樹も『人魚』の一言に目を輝かせている。
「お二人を…でありますか?」
ふたりの申し出に腕を組むケロロの横でギロロが夏美を止めたが夏美は聞き入れようとしなかった。
「夏美、何が起こるか分からないんだぞ」
「いいじゃない、何が起こるか分からないのはこの家にいても同じなんだから…」
「…否定できないであります」
「どっちみち海に行こうとしてたんだし、この際ふたりきりじゃないのは目を瞑るわ」
苦笑いをするケロロに夏美は両手を合わせてお願いをした。
「ボケガエル、行きた〜い!南の島〜!!丁度ギロロと海に行こうって言ってたのよね〜」

横で南の島のある場所を表示した地図を見ていた桃華がその島に西澤家のプライベートビーチやホテルがある事を告げた。
「夏美さん、そう言えばこの島に西澤家のプライベートビーチとホテルがありますわ」
「もしよろしければ私の名で確保します、ケロロさん達が調査に出かけている時はビーチでくつろぎながらお待ちになればよろしいのでは?」
桃華の申し出を聞いた夏美は飛び上って喜んだ。
「あ、それいいわね」
「ボケガエル、あんた達の用事は邪魔しないから一緒に連れて行ってよ…それならお掃除当番免除してあげる」
「ま、まあそれなら…」
「あ、それと…」
「まだ何かあるでありますか?夏美殿」
「用事が終わったらギロロ借りるからね、本当は二人きりで海に行こうとしてたんだから…ね、ギロロ」
夏美はギロロにウィンクすると肩を寄せた。

その様子を見たケロロは夏美に隠れてニヤリと笑うと南の島にいる間ずっとギロロを任せると言い出した。
「そんな事ならギロロはずっと夏美殿に任せるでありますよ」
「本当?」
夏美はケロロの申し出に目を輝かせた。
「お、おいケロロ!」
「まあまあギロロく〜ん、今回は単なる調査であります」
「とりあえず出番があれば呼ぶであります、それまで夏美殿と南の島を楽しめばいいのでありますよ」
「…お前がそう言うなら」
任務からはずされたギロロは文句を言おうとしたが結局ケロロの好意に甘える事にした。
「サンキュ〜ボケガエル、次の当番も変わってあげるわね」
「本当でありますか?来週ちょうどガンプラの新シリーズが出るので時間がいくらあっても足りないと思っていたであります」

いつの間にかケロロと夏美の間で話がまとまっていく、ギロロは溜息を一つ吐くと南の島を映し出したモニターを眺めた。
「やれやれ…まあ夏美が喜んでいるなら良しとするか」
話がまとまったところで桃華は携帯を取り出すとポールに連絡を始めた、ビーチとホテルを確保する為である。
「それでは早速ポールに言ってホテルとビーチを手配させますね」
「ごめんね西澤さん」
「いいえ、私も楽しみですわ」
「じゃあたしもママにメールしておくわね」
盛り上がる夏美達の後ろでケロロはクルルと目を合わせると小さく頷いた。

「決まりであります、それでは明日朝7時に地下基地のプールに集合であります」
「了解!」
ケロロの号令のもと、夏美達は出発に備えて準備をする為に解散した。
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