秋色の空(恋愛編)

□ママとして
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夏美が中学校を卒業し、ギロロと互いの気持ちを告白しあったあの日からすでに一週間近く経とうとしている…
そんなある日の深夜、一人リビングでくつろいでいた秋の許へギロロがやって来た。
「あら、こんな時間にどうしたの?ギロちゃん」
ギロロの姿を見つけた秋が尋ねるとギロロは小さな紙袋を秋の前に差し出した。
「これを夏美の奴に渡してやってくれ」
ギロロが差し出した紙袋は海外のジュエリーメーカーの名が入った専用の紙袋である。
秋も以前、何度か雑誌で見た覚えのあるものだ。
おおよそギロロとは関係のなさそうなものである。

「なあに?これ」
秋が渡された紙袋を覗きこみながら尋ねるとギロロはその赤い顔を更に赤くした。
「こ、高校進学とやらのお祝いだ」
「あら素敵、なにかしら?」
夏美の高校進学にギロロがお祝いをしてくれる事に対して素直に喜びを感じた秋はその中身に興味を持った。
「腕時計だ…夏美が欲しがっていただろう?」
「た、たまたまお前達の会話が耳に入ってしまったんでな…」
ギロロは更に湯気が出そうなほど顔を赤らめて答えた。

「凄いじゃない、夏美ったらいいわね…」
「あたしも明日休みだから買いに行こうと思っていたのよ、後にならなくて良かったわ」
秋はそう言うと紙袋からオレンジ色の可愛らしい箱を取り出した。
しばらく箱を興味深げに眺めていたが「夏美のものだしね」と言って開ける事無く箱を紙袋に戻した。

「でもギロちゃん、折角ギロちゃんからのプレゼントなんだからギロちゃんが直接渡した方がいいんじゃない?」
秋は紙袋をテーブルに置くと微笑みながらギロロに自分で直接夏美に渡すよう提案した。
「い、いや…なかなか気恥ずかしくてな…それに今日はそれとは別に秋、お前に話をするきっかけが欲しかったんだ」
秋の提案にギロロは恥ずかしそうに頭を掻くと首を横に振り
リビングに来た理由がそれだけでない事を秋に伝えた。
「あたしに?」
首を傾げる秋の前に立つとギロロは急に土下座をし始めた。

「スマン、秋」
「どうしたの?ギロちゃん…急に」
ギロロの突然の行動に驚いた秋が尋ねるとギロロは静かに夏美に対し自分の気持ちを打ち明けた事を告げた。
「…俺は自分の気持ちを止める事が出来なかった」
「先日夏美に自分の気持ちを…夏美を愛しているという事を…あいつに打ち明けてしまったのだ」
秋の前でギロロは更に頭を床に擦りつけ土下座した。

「…そんな…素敵な事じゃない、ありがとうギロちゃん」
「土下座なんかする様な事じゃないでしょ?」
秋はそう言うとギロロに頭を上げるよう諭したがギロロは床に頭を付けたまま首を横に振った。
「俺は宇宙人で侵略者だ、姿かたちも立場も違う…俺なんかに惚れられたら夏美の地球人としての幸せを奪ってしまうだろう…」
「それにこう見えても俺は成人だ、大人としてこの気持を自分の中にしまっておくべきだった…」
「なのに俺は…どうしても自分の気持ちを抑える事が出来なかったのだ、スマン秋」

「…で、夏美はどう返事したの?」
あくまで土下座を崩さず夏美に告白した自分を責めるギロロを見て秋は小さく息を吐くと微笑んだ。
実際の所、秋は以前から夏美のギロロに対する想いに気が付いていた。
加えて今回、ギロロから夏美に対して進学祝いの贈り物が渡されるとすればふたりの関係は現在のところ良好なのであろう。
だとすれば夏美の返事は聞かなくてもわかったような気がする。
秋は悪戯心から目の前でいささか大げさに土下座する侵略宇宙人の口から娘の気持ちを聞いてみたくなったのである。


そんな秋の予想に反して今迄床に顔を張り付けていたギロロは表情を沈ませながら顔を上げた。
「…やはりあいつはまだお前に報告していなかったのだな?」
「ええ、まだ何も…ね」
切なげな眼をするギロロに秋は優しく微笑むと小さく頷いた。。
そんな秋の顔を見てギロロは大きく溜息を吐いた。
「夏美も俺を…好きだと言ってくれた…」

ギロロの言葉を聞いた秋は笑顔で頷くと再びギロロに土下座を止めるよう勧めた。
「そう、なら問題ないじゃないの…ねえギロちゃん?」
「恋愛ってのはお互いが求めあって成り立つものなんだからギロちゃん一人が土下座までしてあたしに詫びるものではない筈よ…」
「それとも、もうあたしに詫びなくちゃいけないような事でもしたのかしら?」
「そ、そんの様な事は断じてない!」
秋が少々意地悪げに笑うとギロロは真剣な顔をして首を大きく横に振った。
そんなギロロから彼のまじめさがうかがえ、秋は自然と表情が緩んでいった。
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