夏色の海(恋愛前編)

□白い稲妻
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穏やかな小春日和の日曜日

奥東京郊外の山の公園、
その公園のベンチに座っている一人の男
特にすることも無くただ座り込んでいる。

視線の先には野の花を楽しそうにスケッチしている少女達

「ふうっ」

思わず溜息をつく男、
地球人スーツ(パーカー姿)を身に着けているギロロ伍長であった。

「何故、俺がこんな事を」

昨日、「ピクニックをかねて宿題のスケッチをしに行きたい」と言う夏美の提案に
秋は「子供だけで遠くへはダメよ」と言った。

「ほら、大人になる銃があったじゃない」
と言う秋の提案に自分が楽しめないからと今度は夏美が難色を示す。

「じゃあギロちゃんに頼みましょう」
「地球人スーツ姿で引率って事で」
秋がそれならばと俺に白羽の矢を向けた。

「な、何で俺が?」
反論しようとする俺の声を遮るように

「あ、それ賛成!ギロロがいれば安心だものね!」
夏美が相槌を打つ。

この親子は・・ったく、俺は侵略者なんだぞ、
少しは自分や娘の身の心配をしたらどうだ。

「ねえ、ギロロ、おねがい・・・だめ?」
お願いモードの夏美に俺が断われる筈も無く・・・
現在に至る訳だ。

まあ、夏美も喜んでいるから良しとするか、
さすがにここでは銃の手入れは出来んな。

不意に俺の横から声がかかる
「なるほど、侵略が進まない訳だ」

「だれだ!」
俺は咄嗟に立ち上がり横に座っている男を見た、
『気がつかなかった、平和に慣れてきてなまっているとしてもこいつ、只者ではない』

男は見た目には普通の地球人だ、が、しかし・・この雰囲気、どこかで?

「腕が落ちたのではないか?『赤い悪魔』・・いや、ギロロ」
「久しぶりだなあ」

その声は、俺が知っている奴の中でその声はあいつだけだ、
俺がライバルと認めた男、いまだに決着がついていない男・・

「俺だ、アスティだ」

「アスティ?『戦場の白い稲妻』のアスティか?」
あれはすぐさま戦闘態勢をとろうと銃火器を転送させた

「おいおい、物騒だな。俺は今日は戦いに来たんじゃない・・・それに」
「俺が軍をやめた事は聞いているんだろ?」

そうだ、聞いている。こいつらのフェイザー星は俺達より少し前に地球侵略を開始したはずだった、
俺は先を越されたと悔しがったものだ。
しかし侵略は失敗し、中止されたと聞く・・そしてアスティは軍をやめたと聞いた。

「そのまま地球にいたのか。」

「まあな」
改めてアスティを見ると体の芯にはビリビリくる様な殺気とエネルギーを感じるがそれを奥に隠した姿は
穏やかな優しさを放っている、とてもこいつがあのアスティとは思えない。

「どうしたのだ?戦場の白い稲妻とまで呼ばれ、
その電光石火のすばやい動きと強烈なパワーで他の兵士を圧倒していたお前が。」

その時だった、

「アスティー!探しちゃった、・・もう急にいなくならないでよね」

地球人の女が俺達の所に微笑みながら走って来る
年の頃は成人になったばかり位であろうか
俺達のところまで来ると横にいる俺を見つけて

「あら、この方がケロン軍のギロロ伍長ね?」
とアスティに確認している、俺のことを知っているのか?

「お噂は何時もアスティから聞いてます、それに宇宙TVでも・・」

「ユリ!」
アスティが止める

「あ、ごめんなさい宇宙TVは無しね。」

状況がつかめずにアスティに聞く
「こちらの地球人は?」

「ああ、俺の妻だ」
「へ?」
「アスティの妻のユリです。」

「な、なななななにー?つ、妻だとー?」
「妻って事は、そのなんだ、伴侶って事か?」

「まあそういうことになるな、一緒になって地球時間で2年位になるかな」
「そうね、出会ってからは6年位かしらね」

そういうと二人は互いの顔を合わせて微笑む、
くそ、見せつけやがる。


夏美の宿題は順調に進んでいる、さっきまで横にいた小雪は山の景色に見とれていたが
我慢できなくなったらしく忍びの姿で飛んでいってしまった。

一息ついたところで夏美はギロロのことを思い出した、
そういえばあいついやに静かね、何しているのかしら?
そう思った夏美は振り返ってギロロのいたベンチを見る

と、そこにはギロロ・・と地球人の男女が二人、何やら話し合っているではないか、

「ま、まさかあいつなんかやらかしたんじゃあ!」
そのままにして山の公園が戦場になっては堪らない、
それに普通の地球人に迷惑かけたらダメよ・・・

描きかけの絵を放り出してギロロの所へ走っていった。
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