夏色の海(恋愛前編)

□赤いあいつ
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桜も新緑におおわれ空には鯉のぼりが泳いでいる。

さわやかな風がベランダの窓から入り
夏美の赤い髪を揺らしていた。

「よし…っと」

宿題を早めに済ませた夏美は脇に置いてあったジュースを飲むと
カーテンの揺れるベランダに向かった。

ベランダ越しに庭を見ると
其処には赤いテントとたき火、そしてそのテントの住人である赤いケロン人がいた。

「あいつ、また武器ばっかり磨いて…」

この赤いケロン人が日向家の庭先に住み着くようになって一年近く経つ。
赤いケロン人の名前はギロロ、階級は伍長。
地球侵略を目的とし、先に日向家に潜入するも
家事手伝いをする居候になり下がっているケロロ軍曹率いる
ケロロ小隊の一員である。

ケロロ小隊一過激な男であり宇宙にも『戦場の赤い悪魔』と呼ばれ
恐れられている男である。
ギロロはケロロの様に日向家の中で居候する事を良しとせず
勝手に庭にテントを張って生活しているのだ。

夏美はそれ以来彼の様子を監視していたのであった。
「ボケガエルよりもあいつの方が危険なのよね…」

ケロロはガンプラにうつつをぬかし侵略そっちのけだ
家事手伝いをさせながらガツンとやれば大丈夫。

夏美はそう思う様になっていた。

「だけど…あいつは…」

夏美はギロロを気にしていた。
出会いから家中にトラップを仕掛けたり
やたらにライフルを撃ったり、手榴弾を爆発させたり
話をすればにくまれ口をたたく
とにかく危険な男なのだと…。

「うっかりするとあいつだけで地球侵略しかねないわ…」
「…でも」

夏美がギロロを気にしていた訳はそれだけでは無かった。
「ボケガエル達の中では一番まともな奴なのよね…」

夏美は今日までの出来事を思い出していた。
『ボケガエルの様にだらしなくは無いし』
『タママの様に二重人格でも無い』
『クルルの様に嫌な奴でもなければ』
『ドロロの様に変なトラウマも無い』

今、武器を磨いているのだってきっと彼なりの戦闘のない日の仕事としての日課なのだろう。
どことなく几帳面なところがあり、テントを覗いた時も
中は整理整頓されていた。
きっと本当はまじめな男なのだろうと夏美は思ったのだ。

「それに…」
夏美がギロロの事を気にする様になった理由はまだ他にもあったのだ。
夏美はベランダからギロロの姿を目で追いながら呟いた。
「あたし…本当は…」

そう言いかけた時、
突然ギロロは武器をしまうと飛行ユニットを出して
空へと上がっていった。
夏美はベランダに隠れるとギロロの後を自転車で追いかけた。
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