夏色の海(恋愛前編)

□序章(物語りの始まり)
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これはケロロ達が地球侵略作戦を開始する直前のお話し…

ギロロと夏美の物語はここから始まる…

『序章』

「ギロロ…ギロロ…」
どこかで俺を呼ぶ声がする。
今までに聞いた事のない声…
はつらつとした若い娘の声…

目の前に浮かんでくる瞳…
大きくて丸い…
澄んだ瞳…

「ギロロ…ギロロ…」
顔を赤らめながら嬉しそうに俺の名を呼ぶ娘。
お前は誰だ?
何故俺の名を知っている?
人間型にお前の様な知り合いはいない。
…お前、地球人なのか?

「ギロロ…ギロロ…」
俺の名を気安く呼ぶな!
「ギロロ…ギロロ…」
やめてくれ!
その声を聞くと俺の胸は高鳴り冷静な判断が出来なくなる。
切なくて、でも温かくて…その瞳と声に俺はその全てを捧げたくなる。

「ギロロ…ギロロ…」
「…ギロロ伍長!」
目を覚ますと俺を心配そうな目で覗き込む幼馴染の顔。
ああそうだ、これからは俺の隊長だったな。

「ああ、すまんついウトウトしていた様だ」
「作戦前なのにギロロにしては珍しいでありますな」
俺の言葉にケロロは安心したらしく笑って話しかけてきた。

「ほらギロロ、あれが地球でありますよ」
ケロロに指差されて窓から覗くと窓の外には青く輝く惑星が浮かんでいた。
「あれが地球か…」
俺は吸い込まれそうなその青さに少しだけ感動を覚えた。


俺達は今、ケロン星を遠く離れ宇宙の辺境にある惑星を訪れている。
目的はこの星を侵略する事だ。

俺達がこれから侵略する星。
その名は地球…
ここはどのような星で…
どのような奴がいて…
俺はどのような戦いをするのだろうか?
窓の外に広がる地球を見て俺は期待と緊張に武者ぶるいを覚えた。

「ギロロ…ギロロ…」
一瞬、先程の夢に出てきた丸い瞳の娘の姿と声が思い浮かぶ。
もしかしたら実際にお前もこの星に存在するのか?
俺は青い星を見つめていた…

「特殊先行工作部隊『ケロロ小隊』出撃せよ…」
俺達に出動命令が下され、俺達の乗った小型の地球上陸船は発進ポートから射出された。
「いよいよであります、地球に着いたら各自散開…作戦開始であります」
「いよいよだな…」
ケロロの声に俺は地球侵略達成の決意を新たにした。



「夏美…」
あたしを呼ぶ声がする。
誰?誰なの?
低めの優しそうな声…
甘くあたしの中に響いてくる。

目の前に浮かんでくる瞳…
ツリ上った三白眼…
漫画にでも出てきそうなその大きな瞳は
怖そうな目なのに優しい眼差しをあたしに向ける。

「夏美…」
真っ赤なイメージの中に浮かぶその瞳…
姿は見えないのにその声と眼差しはあたしを優しく包み込んでいく…

あなたは誰?
なんであたしの名前を知っているの?
あたしはあなたみたいな声や…
あなたみたいな瞳を持った男の人に知り合いはいないわ。

「夏美…」
不思議ね、知らない人なのにその声で呼ばれると胸の中が何故だか熱くなっていく…
なんだか切なくなっていく…
あたしを包み込んで守ってくれる様な優しさを感じる。
あなたは誰?


「夏美!」
我に返るとあたしを心配そうな目で覗き込む友人の顔。
「…ごめん、ボ〜ッとしてたみたい」
「大丈夫?具合悪いんじゃないの?」
あたしの言葉に友人のやよいが心配そうな顔をしている。
「ううん大丈夫よ、何の話だったっけ?」
あたしは照れ笑いをしてごまかした。

学校からの帰り道、いつもの道を、いつもの友人達と歩いている最中だ。

「夏美の好きな人の話しよ」
もう一人の友人さつきが答える。
「夏美に誰か好きな人がいるか聞いてたんじゃない」
やよいが話を付け加えてきた、ああ、そんな話をしていたような気がする。

「あたしの好きな人は…そうねえ」
「やっぱり623さんかしら」

あたしの答えにやよいもさつきも不満そうな顔をする。
「だからラジオのパーソナリティじゃなくて…」
「ファンとかそういうものじゃなくて…」
「もっと身近な人で具体的な人はいないの?」

やよい達の言葉に今度はあたしが文句を言う。
「なによ、好きなんだからいいじゃないの」
「身近に623さんより素敵な人なんかいないわよ」

口を尖らせて抗議するあたしにやよいもさつきも
「夏美もまだまだ子供ね…」
と偉そうなことを言う、何よあんた達だって似た様なものじゃないの。
あたしは思わず頬をふくらました。


「じゃあ夏美、理想のタイプは?」
やよいが質問を変えてきた。
「…理想のタイプねえ」
そう思った瞬間
再びあたしの中にあの声が聞こえてきた…

「夏美…」
真っ赤なイメージの中に浮かぶその瞳…
姿は見えないのにその声と眼差しは再びあたしを優しく包み込んでいった…

「低めの優しそうな声…」
「怖そうな目なのに優しい眼差し…」
「あたしを包み込んで守ってくれる様な優しさ…」
いつの間にかあたしはそう呟いていた。

「低めの優しそうな声で」
「怖そうな目なのに優しい眼差し…」
「そして包み込んで守ってくれる様な優しさ…」
「それが夏美の理想なのね?」
「何なに?結構具体的じゃない…」
「結構近くにもういたりするんじゃないの?」
夏美の呟きにやよいもさつきも勝手に盛り上がっている。

「ち、違う…そんな人いないってば!」
夏美は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら夏美をからかって逃げていく友人を追いかけて走っていった。


やがて出会うギロロと夏美…
まだこの時はこの先自分達の人生に思いもよらぬ展開がある事など知る由も無かった。

二人がお互いにこの時の事を思い出すのはそれから何年も経ってからの事である。



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