夏色の海(恋愛前編)

□ふたりきりのよる
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秋深し…
ここは日向家の庭先
今日は風こそ無いものの、陽が傾きかけた時に感じる冷え込みは秋の終わりと冬の到来を感じさせている。
それでも日向家の庭先ではいつもと変わらぬ光景が見られた。

「最近、よく来るな」
「なによ、悪い?」
焚き火の火を突きながら呟くギロロを夏美は横目で睨んだ。
「いや…そう言う意味ではない」
「だったらいいじゃない」
慌てて否定するギロロの姿に夏美の表情は明るくなる。

ギロロと夏美はギロロのたき火で温まりながら仲良く焼き芋を食べている。
最近の日向家でほぼ毎日見られる光景である。
このところ夏美は以前よりもギロロの焚き火に来る事が多くなっているのだ。

「だってお芋がおいしい季節だし…ギロロが焼いてくれるお芋は格別なんだもん」
嬉しそうに焼き芋をほおばる夏美の笑顔に顔を真っ赤にしながら
ギロロは最近夏美が以前ほど部活の助っ人をやらなくなった事について尋ねてみた。
「最近は部活とやらの助っ人は無いのか?」
「だんだん専門にやってる人にはかなわなくなってくるからね…」
確かに夏美がどんなにスポーツ万能であったとしても本格的にトレーニングしている者にいつまでも勝てる筈も無い。
もの思う表情の夏美がなんだか寂しそうでギロロは少し心配になった。

「本当はお前も部活動とやらをやりたいんだろ?」
「別にいいのよ」
ギロロの言葉に恥ずかしそうな笑顔を見せると夏美は慌てて顔を横に振った。
だが真剣な表情のギロロと目が合うと溜息を一つ吐き、目をそむけながら夏美は小さな声で呟いた。
「…って、本当は部活だって本格的にやってみたいんだけどね」
「あ〜あ、毎日家に帰って家事ばかりの生活は嫌だな…」
おそらく夏美の本音なのだろう、小さな声で呟いていたが横眼にギロロと目が合うと
顔を真っ赤にし、バツが悪そうな表情をすると慌てて否定した。
「…やだ、あたしったら…ゴメン、聞かなかった事にして」
「今はボケガエルにも当番させているんだし、不満なんかこぼしたらダメだよね」

恥ずかしそうに顔を赤らめる夏美から眼を逸らすと焚き火を見つめながら
ギロロは夏美に優しく囁いた。
「正直で良いのではないか?」
その一言が嬉しかったのか夏美は柔らかな笑顔を見せ、お芋を一口かじるとギロロと共に焚き火を見つめた。

「…う、うん、なんだか焚き火とお芋が温かくてさ…」
「ここにいると凄く自然で正直な気持ちになっちゃう様な気がするの」
「どうしてだろう?なんだか無理するのが馬鹿らしいって言うか…」
焚き火を見つめながら夏美はまるで独り言のように呟いている。

「焚き火は人を素直にするらしいからな」
「…そうなんだ」
そんな夏美にギロロも焚き火を見つめ呟いた。
互いに見つめ合う事無くギロロと夏美は並んで焚き火の火を見つめていた。
やがて周囲が闇に包まれ始めても焚き火の炎はそんな二人を優しく照らし、そして暖め続けた…



次の日
学校から帰宅した夏美は普段着に着替えると庭先に張られているギロロのテントにやってきた。
「ギロロ、今日もお芋ある?」
ギロロのテントを覗きこみながら夏美は焼き芋の催促をしたがギロロは何処かへ出かける支度をしていた。
「スマンな夏美、今から少し出かけてくる」
「出かけるって何処へ?」
ギロロの言葉と姿に夏美はギロロが何か任務で出かけるのだと気付いたが
同時にまたケロロが何かくだらない侵略作戦を考えついたのではないかと警戒した。

そんな夏美の様子に気づいたギロロは任務が侵略活動ではない事を伝え、警戒する夏美を安心させようとした。
「任務だ、だが別に侵略活動ではない…調査に行くだけだ」
「そう…ギロロのお芋、食べたかったのに、つまんないの」

本当に残念そうな顔をする夏美の様子が嬉しくて、ギロロは帰宅後、芋を焼く事を夏美に約束した。
「すぐ帰ってくる、帰ってきたらいくらでも焼いてやる」
「うん、よろしくね」
ギロロと約束すると夏美は笑顔で手を振って地下基地に行くギロロを見送った。



「あ〜あ、なんか退屈…」
それからまだ30分も経っていないのに夏美は自室で一人、暇を持て余していた。
「最近結構ギロロとたき火でお喋りしてるのよね…」
改めてここ最近、自分がギロロと過ごす時間の増えた事を夏美は部屋で一人ゴロゴロとしながら感じていた。
「ギロロは何の調査に行ったのかしら?…そうだ、ボケガエルにでも聞いてみよっと」
暇を持て余し過ぎて我慢の出来なくなった夏美はギロロの任務について尋ねる為に地下基地に向かった。
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