冬色の宇宙(短編集)その4

□「小さくて大きな背中」
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「小さくて大きな背中」

今回のお話は恋愛前のお話です。



…一人ぼっちは嫌だ。


思い出すのはまだ幼い頃の記憶……
狭いアパートの部屋の中、あたしはいつも一人ぼっちだった。
パパの居なくなった我が家……
ママは必死でお仕事、家に帰るのはいつもあたしが寝てから……

冬樹はおばあちゃんの家であたし達と離れて暮らしていた。
あたしはママと離れて暮らすのが嫌だと駄々をこね、ママは仕方なくあたしだけを連れて上京した。
何時か家族みんなで暮らす事を夢見て、ママは必死で働いていた。
だからアパートにはいつもあたし一人……
こんな事なら冬君と一緒におばあちゃんの処にいた方が良かったのかもと思う時もあったけどあたしはやっぱりママの傍に居たかった。

…一人ぼっちは嫌だ。

夜になるとその気持ちはピークを迎える……
全ての灯りを点け、テレビの電源を入れていても一人ぼっちの寂しさはあたしにまとわりついてくる。
お気に入りのぬいぐるみを抱きかかえ、頭からお布団を被ってもあたしを襲う不安は消えない……

…一人ぼっちは嫌だ。
…寂しいのは嫌だ。
…嫌だ。



「!!!」
どうやら夢を見ていたらしい……
あたしは寝袋の中で目を覚ました。
目の前には砂漠のような景色が広がっている。

……思い出した。
ボケガエル達の秘密基地で敵性宇宙人の地球侵入を知ったあたしは「あたし地球防衛軍だもん」とか言って勝手に飛び出してきたんだっけ……
気が付いたらすごい大群で……馬鹿だよねあたしったら……
後を追ってきたギロロが助けてくれなかったらとんでもない事になるところだった……

結局、敵は逃げていったけどあたしのパワードスーツは壊れ、あたしを助ける為にギロロのソーサーも壊れちゃった。
周りは何だか砂漠みたいなところだしソーサーもスーツも壊れちゃって還る事が出来なくなったあたしとギロロは
ソーサーのサバイバルキットに入っていた水と非常食で飢えをしのぎ
小さなタープと寝袋で風と夜の寒さを避けながら一夜を過ごしたのだ。


そうだ、あたしとギロロはこんな処で一夜を過ごしたのだ。
日向家からそんなに離れた場所ではない筈なのにここからは街の灯りひとつ見えない。
日が沈むとあたりは闇に包まれ始め、あたしは不安と恐怖に襲われた。
「ギロロ…ごめんね」
「気にするな、お前が無事ならそれでいい」
ギロロは背中を向けたままそのあたりに散らばっていたソーサーの破片などを集めて焚き火を始めた。
焚き火の炎に照らされ少しだけ自分達の周りが明るく、そして温かくなっていった……

焚き火が灯るとギロロは立ち上がり、その場を離れようとした。
『あたしの勝手な行動で…ギロロはきっと怒ってるに違いない』
「ギロロ、どこ行くの?」
一度も振り返らないギロロの姿に焦りを感じたあたしはギロロを引き留めた。
「ケロロに救援を求めたいのだがソーサーの無線機も俺の通信機もイカレてしまった…だが二つを組み合わせれば何とかなるかもしれん……」
「俺は向こうに転がっているソーサーを見てくる、お前はここで休んでいろ」
相変わらずギロロはあたしの方に顔を向けずその場を離れようとしている。

その姿にあたしはあたしの悪戯に笑いながら「まあいいじゃないか」と言って出かけたきり帰ってこないパパの事を……
「ママ、今日もお仕事で遅くなるから夏美は先に寝てなさい…」
そう言ってアパートから出かけていくママの姿を思い出していた。


…嫌だ。
…一人ぼっちは嫌だ。
…寂しいのは嫌だ。

次の瞬間あたしはその場を離れようとしたギロロの腕を掴んでいた。
「……夏美」
振り向いたギロロが心配そうな顔をしてあたしの名を口にした。
「やだ…ここにいて…あたしを一人にしないで…」
あたしは寝袋から出ると大粒の涙を流してギロロにしがみついていた。
「分かった…俺はここに…お前の傍にいてやるからおとなしく寝ていろ、明日になればケロロの奴が助けに来る」
そう言うとギロロはあたしを寝袋に戻させ自分はすぐ横に腰を下ろした。
「ここに居ればいいだろう?」
そして滅多に見せない笑顔を見せるとどこからかタオルを取り出し、おそらく涙でクシャクシャになっているであろうあたしの顔に優しくあてがった。

それでもあたしの不安は消えない……
あたしはギロロを抱きかかえると自分の寝袋に引っ張り込んだ。
後から考えるとどうしてそんな恥ずかしい事をしたのかよく解らない……
きっとまだギロロが一人でどこかに行ってしまう……そう思えて仕方がなかったのだろう。
慌てて腕の中でもがくギロロに「ここに居て」と願うとギロロは暴れるのを止めてくれた。
「……安心しろ、お前の好きにするがいい」
「…うん」
あたしはギロロを抱きかかえたまま眠りについた。
腕の中にギロロの背中とぬくもりを感じる…
そのぬくもりになんだかとても安らぎを感じた。
抱きかかえている筈なのに自分の方が大きく、そして優しく包みこまれているような気がする。
それはなんだかとても懐かしいような…そんな気持ちの中、あたしはいつの間にか眠ってしまっていた……



昨夜の事を思い出すと恥ずかしさから顔が熱くなっていくのが分かる。
…どうしてギロロにあんなこと言っちゃったんだろう。
なんだか自分の弱さをさらけ出してしまった気がして……

相手は侵略者なのに……
あたしは最終防衛ラインなのに……
侵略者になんか弱い自分を見せちゃダメな筈なのに……

…でも
なんだかそれも嫌じゃない気がする、そんなあたしはどこかおかしいのかもしれない。

ううんそうじゃない。
あたしは見つけたのかもしれない。
あたしを一人ぼっちにしない
あたしを支え、包み込んでくれるぬくもりと背中を……

あの小さくて大きな背中の中に……
ママや遠い記憶の中に在るパパの背中とは違うぬくもりを……



「目が覚めたか夏美、ケロロが迎えに来たぞ」
目を覚まし、昨日の事を思い出していたあたしに気が付いたギロロが話しかけてきた。
言われた方角を見ると遠くにボケガエルの飛行機が見える。
「う、うん」
ギロロを見るとあまり寝ていないのか顔に疲れた様子が窺える。
おそらくあたしが寝た後、寝袋から出ると夜通しかけて通信機を直していたのだろう。
あたしは自分が情けなくなるのと同時にギロロに呆れられていないか心の底から不安を感じた。
「ね、ねえギロロ」
「な、なんだ」
「まだ今度の事怒ってる?」
「別に元から怒ってはいないが?」
怒っていないと言いながら相変わらずギロロはあたしの方を見ようとしない。
あたしは思わず声を荒げてしまった。
「だって昨日からほとんどあたしの方見ないじゃない!」
「そ、それは…それは違う」
「何よ!」
「お前のその姿をじろじろ見たら嫌がられるかと……」
ギロロは振り返ると顔を真っ赤にして目を逸らした。

そんなギロロの言葉にあたしは自分の姿がパワードスーツの解除されたスクール水着姿だったことを思い出した。
「や、やだ〜!」
あたしは慌ててその辺に散らばっているパワードスーツのパーツを装着しようとした。
「制御ユニットが破壊されているから装着は無理だぞ、夏美」
「だって〜」

……恥ずかしい

顔がどんどん熱くなっていくのが自分でもわかる、たぶん顔は耳まで真っ赤になっている事だろう……
そう言えば昨日は寂しくてギロロを胸に抱きしめたまま寝ちゃったんだ…このスクール水着のままで……
泣いて弱音を吐いた事も恥ずかしいけどこの事も大概恥ずかしい……
あたしは思わずギロロの手を握ると小さな声で釘を刺した。
「あ、あの…あのね…き、昨日の事は…ふ、二人だけの秘密だからね!」
「あ、ああ…わ、わかった!」
ギロロは振り返らず背中を向けたまま大きく頷いた。
軍帽の隙間から見えた頬が赤くなっている気がするけど気のせいかもしれない……


いつの間にかあたしを包み込んでいた一人ぼっちの不安や恐怖はどこか遠くに飛んで行ってしまっていた。
…だけどそれは別に朝を迎えたからじゃない。
ギロロの小さくて大きな背中と優しいぬくもりがあたしを包み込んでくれたから……

うん、きっとそう……

あたしはギロロから貰ったタオルで熱くなっている顔を拭くとギロロの横に立ち、すぐ傍まで来ているボケガエルの飛行機に向かって大きく手を振った。





―あとがき―

当サイトもおかげさまで35万ヒットを迎える事が出来ました。
そこでまたも記念のSSを描かせていただく事にしました。

今回のお話もいつもながら大胆にもフリーとさせていただきます。
(期間限定)
もしこのお話でもいいよと言っていただける方はどうぞお持ち帰りください。

今回のお話は恋愛前のお話です。
夏美ちゃん自身に自覚はありませんがどうやらこの頃の夏美ちゃんにとってギロロは身近にいて頼る事の出来る唯一の『大人の男性』のようです。
夏美ちゃんは普段強気で何でも出来、人に頼らないように見えますが実はとても弱虫で甘えん坊です。
気を張って日向家のお姉さんとして家を守っています。
でも自分自身も誰かに守って欲しい…心の中ではそう思っています。
今回のお話はそんな夏美ちゃんの一面をギロロに見せたお話としてお読みいただけたなら幸いでございます。

このところ仕事が忙しかったり、利き腕である右手が不調だったりと作業が進まず
更新が滞っておりますがまだまだギロ夏に対する情熱は熱く燃えたぎっております。
勿論当サイトはまだまだこれからもギロ夏していきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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