冬色の宇宙(短編集)その4

□リストバンド
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リストバンド

今回は恋愛前のお話です。



「おじさま〜、おまたせしました〜……っていうか準備完了?」
「お〜、モア殿こっちであります」
手を上げ大はしゃぎのモアがケロロの許へと砂浜を駆けていく。

ここは西澤桃華が所有する南の小島。
今回、桃華の好意により、いつものメンバーはこの南の島で夏休みの一日を過ごす事になったのである。
さすがに母親の秋は仕事が忙しい為、一緒に来る事が出来なかったが場所が西澤家(桃華)のものである事と
引率者としてポールが同席している事から子供と宇宙人だけで出かける事を許可したのである。
目的地である南の島に到着した夏美達は、まず島に建てられているホテルで水着に着替えてきたのだ。

青い空、ずっと先の海底まで見えそうな程、透明度の高い海……
砂浜に出た誰もがその美しさに感激し、興奮を抑えられないでいるようだ。
ただ一人夏美を除いて……


「……いいなあモアちゃんは」
一人ケロロの許へ駆けていくモアの姿を見た夏美は小さく溜息を吐いた。
「どうしたの?夏美さん」
その様子に気付いたプルルが心配して後ろから覗き込んだ。
「え?い、いや、別に何も…」
我に返った夏美は慌てて首を横に振った。
「そう?ならいいけど…」
その慌てぶりにプルルは首を傾げている。
そんなプルルから顔を逸らせると夏美は再び小さく息を吐いた。


「夏美さん、新しい水着も素敵ですね」
「ちょ、ちょっと小雪ちゃん」
俯く夏美の腰に小雪が抱きついてきた。
「わあっ、素敵ですね夏美さん、どこかのブランド品ですか?」
小雪の声に改めて夏美の水着を見た桃華が思わず声を上げた。
あまりブランドにこだわる方ではないが何時でも最高の物を見て最高の物に身を包まれている桃華には
今回夏美の身につけている水着がそれなりにいいものである事が分かるらしい。
「えへへ…ママが新しい水着買うって言うから一緒に買ってもらっちゃった……ほらママっていつも外国製の水着買うから」
確かに母親の秋はそのダイナマイトなスタイルの為かサイズの合うものがなかなか見つからないらしく海外の物を購入している事が多い。
今回は夏美もそれに便乗したらしい。
小雪ばかりか桃華にまで水着を褒められ夏美は照れくさそうに頭を掻いた。

桃華は照れて頭を掻いた夏美の手首に赤いリストバンドがはめられている事に気付いた。
「あれ?夏美さんそのリストバンド…」
「え?え?こ、これ?」
桃華の言葉に驚くと夏美は慌ててリストバンドを隠そうとしたが桃華はニコニコと笑顔を見せながら話を続けた。
「モアさんとお揃いですか?モアさんのがケロロさん色で緑だから…」
桃華の言葉をすぐ横で聞いていたプルルも桃華が何を言いたいのか理解したらしい。
「赤いっていう事は……分かった、ギロロ君の色ね?やるわねギロロ君も」
「ち、ちが…ちが…」
夏美の腕を覗き込むプルルに対し夏美は顔を真っ赤にすると両手をばたつかせながら否定した。
「違うの?」
「…そ、その…赤って…あ、あたしの色だから……」
ばたつかせていた手を止めると夏美はきごちなく笑い消え入りそうな小さな声で答えた。

「なんだ、私てっきり……」
少しがっかりしたような顔をしたプルルとは反対の方から夏美のリストバンドを見ていた小雪はある事に気がついた。
「夏美さん、そのリストバンド裏返しですよ……ほら刺繍が隠れてます、ギロロさんとお揃いですか?」
リストバンドを指差すと夏美にリストバンドが裏返しに装着されている事を知らせた。
どうやら表側には何やら刺繍がほどこされているらしい。
夏美は大慌てでリストバンドを手で隠した。
「わ、わ…こ、小雪ちゃん、ち、ちが……」
「違うんですか?私もほら、胸にドロロとお揃いのしるしを縫い付けてみたんですよ」
どうやら小雪は夏美のリストバンドにギロロと同じスカルマークが刺繍されていると思ったようだ。
自分の水着のトップにつけたドロロと同じマークのアップリケを指差した。

『…そうなんだ』
改めて小雪の水着につけられたドロロのマークに夏美はしばらく見とれていたが、やがて大きな声を出して言い訳を始めた。
「こ、これは『723』って刺繍がしてあるの……でも自分の名前なんて自己主張強いみたいじゃない?だから……」
「だからひっくり返してあるの……」
嘘である、リストバンドには確かに小雪の言う通りギロロと同じスカルマークが刺繍されている、それも夏美自身によって刺繍されたものだ。
「そうなんですか」
夏美の言葉を信じた小雪は少し残念そうな顔をしながら微笑んだ。

『どうしてアイツのマークなんか刺繍しちゃったんだろ……』
『や、やっぱり赤はあたしの色だし……それに髑髏は定番だし……そうよ、そうよね、これは偶然…偶然なんだから……』
『あたし別にギロロの事……なのにあたしったらどうしてみんなにあんな嘘まで吐いたんだろ…はぁ……』
どうして皆に嘘を吐いてまでリストバンドの事を隠さなければならなかったのか?
そもそもなぜリストバンドを身につけようと思ったのか?
色はどうしてギロロと同じ赤なのか?
なぜギロロのスカルマークを刺繍したのか?
自問自答を繰り返せば繰り返すほど混乱し、胸が苦しくなっていく……その切なさに夏美は深い溜息を吐いた。



背中越しにモアのはつらつとした声が聞こえる。
「おじさま〜、どうですか?この水着」
「なかなか似合っているのであります」
「うふふ、そうですか?モア感激です、っていうか一部上場?」
ケロロの褒めてもらえたモアの嬉しそうな声が聞こえる…
気が付くと今まで傍に居た小雪の姿は無く、振り返るとドロロの横でくるりと一回転して水着を披露している。
「見てみてドロロ〜、お揃いだよ〜」
「よく似合っているでござるよ小雪殿」
ドロロもその姿を見てにこやかに頷いている。


「…いいなあみんな」
モア達の様子を眺めていた夏美の口からまた一つ大きな溜息が漏れた。
同時にいつまでも明後日の方角ばかり見て自分の方に目を向けないギロロに苛立ちを覚えた。
「大体ギロロもギロロよ、ちょっとくらいあたしの方見たっていいじゃない……」
「…って、あたしったら何言ってるのかしら、もう!」
思わず口から出てきた愚痴に夏美自身驚いたらしく慌てて口を押えた。
「ふ〜ん、そうなんだ…可愛いとこあるわね夏美さんも」
すぐ横で夏美の愚痴を聞いたプルルは一瞬目を丸くしたがやがて「ふふ…」と笑顔を見せた……



夏美から少し離れたところにギロロとクルルはいた。
ケロロはモアと、ドロロは小雪と、そして冬樹は桃華とそれぞれその場を離れ始めている。
タママはケロロとモアにくっついていったようだ。
「あんた何やらかしたんだよ?日向夏美がずっとあんたの事睨んでるぜぇ」
「う、うるさい、今俺に話しかけるな」
ギロロを見る夏美の視線に気付いたクルルが後ろ向きのままでいるギロロに話しかけたがギロロは夏美の方に顔を向けることなくひたすら海を見ている。

実は先程ほんの少しではあるが夏美の水着姿を見てしまったのである。
その姿はギロロにはいささか刺激的すぎたらしい……直視すれば失神もの……そう考えたギロロは夏美を見る事が出来ないでいたのである。
『夏美…いつにも増してその水着は反則だ、刺激的すぎる……』
「あれ?ギロロ先輩、何やら鼻から赤いものが出てますぜ、く〜っくっくっくっ……」
赤い顔を更に赤くしているギロロを見たクルルは思わず吹き出していた。


すぐ後ろでプルルの声が聞こえる。
「ねえ、ギロロく〜ん」
「ちょ、ちょっとプルルさん」
僅かに遅れて夏美の声が聞こえてきた……ギロロは思わず振り向いた。
「何だ?プルル…うわ―――っ!!」
振り向くと目の前に夏美の胸が…
どうやらプルルに手を引かれてきたらしい。
次の瞬間、ギロロの意識は完全に失われていった……






―あとがき―

当サイトもおかげさまで34万ヒットを迎える事が出来ました。
そこでまたも記念のSSを描かせていただく事にしました。

今回のお話もいつもながら大胆にもフリーとさせていただきます。
(期間限定)
もしこのお話でもいいよと言っていただける方はどうぞお持ち帰りください。

今回のお話は恋愛前のお話です。
夏美ちゃん自身に自覚はありません。
今回のリストバンドも気が付いたら赤いものを用意し、気が付いたら刺繍をしていたようです。
また本編の「宇宙(そら)いっぱいに〜」では恋愛編から登場しているプルルちゃんですが
(プルルちゃん登場がサイトのお話より後の為)
今回は記念TOP画も折角の海(水着編)ですので登場してもらいました。
最近は仕事が忙しかったり、利き腕である右手が不調だったりと作業が進まず
更新が滞っておりますがまだまだギロ夏に対する情熱は熱く燃えたぎっております。
勿論当サイトはまだまだこれからもギロ夏していきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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