冬色の宇宙(短編集)その4

□「日向家における彼氏と彼女の事情」
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「日向家における彼氏と彼女の事情」

今回は恋愛中のお話です



ある春の日の午後…
母親の秋は珍しく仕事がお休みだった為リビングでゆっくりとした時間を過ごしていた。
そんなとき突然、二階の夏美の部屋から何やら言い争う声が聞こえてきた。
驚いた秋が耳を澄ませると、どうやら娘とその恋人である宇宙人が言い争っている声のようだ。
しばらく言い争う声がしていたかと思うと娘の恋人である宇宙人…ケロン人のギロロ伍長が二階から降りてリビングにやって来た。
その姿にいつもの元気はなく肩をがっくりと落しながらすぐ前にいる秋にも気づかぬ様子で庭にある自分のテントに戻っていった。
良くは見えなかったがおそらく娘に叩かれたのであろう頬に赤く手の跡がついていた。

事態を心配した秋がそっと二階に上がり娘の部屋をそっと覗くと
泣いているのか小花柄の可愛らしいワンピースを着た夏美がベッドに顔を埋めている。

秋は静かに部屋の戸を閉めるとギロロの居る庭へと降りていった…



「…ギロちゃん」
「!!!」
秋が声をかけるとテント横のブロックに腰を掛けうなだれていたギロロは慌てて顔を上げた。
「あたしがこんなに近づいても気づかないなんて戦場なら死んでいるわよ」
「…そうだな」
笑いながら横でしゃがみ込む秋にギロロは俯くと小さく頷いた。

そんなギロロの姿に一つ息を吐くと秋は優しくギロロに尋ねた。
「…で、ギロちゃん、いったいどうしたの?」
「秋スマン、俺は最低な男だ…」
「最低?ギロちゃんが?」
秋の言葉にギロロは小さな溜息を吐くと俯いたまま静かに訳を話し始めた。
「先程は夏美の着ている服の事でもめたんだ」
「服?」
どうやら夏美の新しい洋服が原因らしい。
「ああ、しばらく前からあいつは新しい服を買うと真っ先に俺に着て見せる…」
恋愛関係になる前から夏美は新しい服を買うと真っ先にギロロに見せるようになっていた。
別にギロロが気の利いた褒め言葉を口にできる筈もないのだが逆にお世辞も言わないギロロの態度が夏美は嬉しいらしい。
「その事が気に入らないの?」
秋がギロロに夏美の新しい服を見る事が嫌なのかと尋ねたがその事については別に嫌ではないらしい
ギロロは顔を赤くすると首を横に振った。
「そうじゃない」
「もしかしたら今日見せた服が気に入らなかったとか?」
「違う、今日夏美が着ていた服はとても夏美に似合っていて…す、素敵だった…」
今日見た服そのものが夏美に似合わなかったのかと尋ねるとそれも違うらしい
話しが見えず首を傾げた秋は更に理由を尋ねた。
「あら、それなら問題ないじゃない…どうしてもめたのかしら?」

顔を覗き込む秋と目が合うとギロロは一つ溜息を吐き、事の次第を話し始めた。
「秋、笑わずに聞いてくれるか?」
「もちろんよ」
新しい洋服を着た夏美の姿を思い出すとギロロは珍しく柔らかく幸せそうな笑顔を浮かべた。
「花柄の柔らかそうな服を着た夏美はものすごく可愛く見えてな…愛おしく思えて仕方がなかった…」
そこまで語るとギロロは急に表情を曇らせた
「だが夏美に対する愛しさが募れば募るほど…」
「夏美の着る丈の短い服から見える肌の多い事が何とも我慢できなくなっていったんだ…」
「あれでは下手をすると下着まで丸見えにならんとも限らんからな」
「もちろん俺にだって地球の若い娘達の間であのような恰好が流行りである事くらい理解している」
「普段夏美が着ている服も丈の短いものがほとんどだからな…」
「だが夏美の丈の短いスカートが翻る度に周りにいる他の男達もこの姿を見るのかと思ったら…」
「まるで狂犬の様な地球人の男達にあの花のような夏美の姿が晒されるのかと思ったらどうにも我慢が出来なくなってしまったんだ…」
「思わず夏美に文句を言ってしまったんだ…泣かせてしまった、いきなり文句を言ったんだからな当然だ、俺は最低な男だ」
「…正直、自分でもこんなにやきもち焼きだとは思わなかった…夏美の奴も腹を立てている事だろう」
自分の想いを言い切るとギロロは頭を抱え込んだ。


秋はそんなギロロ見て息を一つ吐くと優しく微笑んだ。
「ねえギロちゃん、最近の夏美の着る服どう思う?」
「ど、どうって?…す、素敵だ…まるで花のようだ」
こういう時のギロロは言葉を知らない代わりに飾らない…
秋もその事はよく知っている、彼の素直な気持ちなのだろうと娘に対する褒め言葉を嬉しく思った。

秋はギロロに笑顔を見せると最近の夏美が着る服について秋なりに気が付いた事を話して聞かせた。
「ギロちゃんは気づいているかどうかわからないけど夏美の着る服最近感じが変わったのよ」
「変わった?」
秋が言うには夏美の着る服が最近はどちらかというと活発なものから女の子らしさを感じさせる可愛いものになってきたと言うのだ。
「前はもっと活発な感じの服だったりまるで制服みたいなブラウスとスカートだったりしたのだけど…」
「最近は少しずつ可愛らしい感じの服も着るようになってきたの」
確かに最近夏美がよく着る服を思い出すと秋の言葉通りのような気がする。
「…そういえば」
ギロロは顔を赤らめながら静かに頷いた。

赤い顔をして嬉しそうに頷くギロロを見て満足げに微笑むと秋は夏美の服の変化がギロロに合わせたものだと確信し、その事をギロロに告げた。
「これってギロちゃんの好みなんでしょ?」
「お、俺の?」
驚きに顔を上げ目を丸くするギロロに秋は最近夏美とその事について会話したのだと答えた。
「夏美ったらねえ、新しく買った時のギロちゃんの反応見ながらギロちゃんの好みを探っているらしいわ」
「この前もね、リビングでその話をした時に…」
『あいつったらあたしの事、地球の女戦士だって言うくせに可愛い感じの服着た時の方が嬉しそうな顔するのよ…可笑しいわよね』
「…なんてものすごく嬉しそうに言うのよ」
「きっとギロちゃんに戦士ではなく女の子として見てもらえている事が嬉しくて仕方がないんだわ」

秋の話にギロロは喜びと後悔、その両方が込められた大きな溜息を一つ吐いた。
「俺は夏美の戦士として強いところももちろん認めているがさびしがり屋で甘えん坊なところも含め女としての夏美すべてに惚れている…」
「その思いが強すぎたのかもしれんがあまりにも自分勝手な嫉妬で夏美を傷つけてしまった、後で謝るにしても許してもらえるかどうか…」
ギロロの声が小さなものになっていく、涙を流す夏美の姿を思い出したらしく俯くと再び頭を抱え込んだ。



そんなギロロの肩を優しくたたくと秋は笑顔で頷くと夏美の名を呼んだ。
「ギロちゃん大丈夫よ、あたしの娘だもん…ギロちゃんの気持ちくらいわかるわよ」
「…ね、夏美」
秋が夏美の名を呼ぶとリビングの窓の陰から真っ赤な夏美の顔だけが複雑な表情をして現れた。
「な、夏美…何時からそこに?」
「ずいぶん前からリビングの陰に隠れていたわよね」
「秋、お前分かっていたからあんな話したんだな?」
驚きに目を丸くするギロロに笑顔で頷くと夏美に向かってウィンクした。
「まあね…さあ夏美、ギロちゃんに話があるんでしょ?」
夏美は秋に笑顔で頷くとリビングから顔だけ出したままギロロに話しかけた。


「ギロロ!」
「夏美…」
夏美の口調は少し強いものだ、ギロロは夏美がまだ先程の事を許していないのだろうと思い、肩を落とした。
「ギロロがそんな目であたしのスカート見ていたなんて思わなかったわ…」
夏美はギロロが自分の着る服の丈が短いのを気にするのはギロロ自身がそのような気持ちで自分を見ているからだとギロロを責めた。
「夏美、そ、それは違…」
もちろんギロロは慌てて首を横に振ったが夏美は聞き入れない。
「ギロロったらいやらしいんだから、そんなに見たいんなら見せてあげるわ、勝負よ!」
そう言うと夏美はリビングから庭へと飛び出てきた。
そんな夏美の姿を見ると先程ギロロが見た服よりもさらに丈の短い…ほとんど腿の付け根まで丸見えのマイクロミニを穿いている。
「夏美!またそんな丈の短いスカートなど穿きおって…」
思わずギロロが文句を言おうとしたその時、春の優しい風が日向家の庭に吹き込んできた。
夏美のマイクロミニが風に翻る。
「きゃっ、風が!」
「うわぁぁぁぁ!」
思わずギロロは夏美のスカートを押さえる為、夏美の許へと飛び出していった。


…が、ミニの裾が翻ってもそこにはさらにパンツが存在したのだ。
「残念でした、一見超ミニのスカートに見えるけど実はショーパンなのよこれ」
悪戯っぽい笑顔で夏美は下をぺろりと出した、どうやら一階に下りてきた夏美はこれがしたくてわざと怒ったふりをしていたらしい。
「・・・・・・・・」
裾を押さえそこなったギロロはそのまま地面にスライディングした形で倒れている。
そんなギロロを見て嬉しそうに笑うと夏美はクルリと一回転して穿いているショートパンツを見せた。
前から見るとマイクロミニのスカートに見えたそれは前側が巻きスカート風になっているショートパンツだったのである。
夏美はスカートの裾を持つと改めて少し捲り、中のパンツ部分をギロロに見せた。
「これなら大丈夫でしょ?フワフワしたやつはレギンスやショーパン穿くから大丈夫よ」
「…そ、そうか」
夏美の言葉を地面にスライディングした状態のままギロロは聞き、納得している。
夏美はそんなギロロの前にしゃがみ込むと笑顔で問いかけた。
「びっくりした?」
「…ああ」
そのままの状態でギロロは小さく頷いている。
「…がっかりした?」
「…す、すこしだけな」
「へへえ…りょうか〜い!」
おそらくギロロが自分に魅力を感じてくれているのだと確信したのだろう
ギロロの言葉を聞いた夏美は勝ち誇ったかのように満面の笑みを浮かべている。

「…やられた…だがな夏美、俺はお前が丈の短い服で肌を丸出しにするのが耐えられないんだ」
「だからそのズボンにしたとしてもお前が足を丸出しにしているのには変わらない…俺の心配がなくなるわけではない」
「…いや、もう止めよう…俺の嫉妬心から来る我が儘を夏美に押し付けるべきではないしな」
「狂犬の様な地球人の男達からは俺がこの手で守る事にすればいいさ」
ギロロは夏美に聞こえぬほど小声で呟くとうつ伏せのまま小さく溜息を吐いた。

「どうやら解決したみたいね」
二人の様子を見ていた秋は楽しげに笑うと二人にお茶を入れるからと言ってリビングに戻っていった。



それからしばらくして
「最近はマキシのスカートが流行りなの、これならギロロも安心でしょ?」
と言って足もとまでの長いスカートをギロロの前で穿いて見せた夏美は
穿きなれないロングのスカートに足を引っ掛け豪快に転んでしまう事になるのだがそれはまた別のお話。




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