冬色の宇宙(短編集)その4

□「極秘指令」
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「極秘指令」


今回のお話は恋愛初期のお話です。


ある春の夜…
ここは日向家地下にあるケロロ軍曹の部屋。
「いいわね?頼んだわよ」
「了解であります」
先程から夏美とケロロが膝を合わせて何やら相談事をしている、どうやら夏美からケロロに秘密の依頼をしているようだ。

「夏美さん、どうぞ…はい、おじさまも」
「ありがとモアちゃん」
「モア殿かたじけないであります」
話しがひと段落したところでモアが二人にお茶を出した。

「それにしても夏美殿もなかなかの策士であります、ゲロゲロゲロ」
ケロロがいつも悪巧みをする時の顔で笑うと夏美もケロロを見てニヤリと笑い顔を見せた。
「あんただってなかなか人の足元見るじゃない」
「では報酬は例の物を…」
溜息を吐く夏美にケロロは報酬内容の確認をした。
「分かったわ…『U.C.ハードグラフの…コア…』」
「1/35コアファイターであります」
どうやら最近発売されたガンプラのようである、夏美は言いなれない商品名を確認すると大きく頷いた。
「こあふぁいたーね、成功したら買ってあげるわよ」
「よろしくであります夏美殿」
「その代り失敗したら承知しないからね」
夏美の表情が厳しいものに変わっていく、ケロロは自信たっぷりに胸を叩くと夏美に成功を約束した。
「もちろん成功させるであります、モア殿!」
「は、はいおじさま」
ケロロ傍にいるモアにこの事が誰に対しても秘密であると注意を促した。
「この場の事は他言無用であります」
「はい、了解しました…って言うか『秘密厳守』?」
モアの笑顔を見たケロロは満足げに頷いている。
「それじゃあ頼んだわよ、ボケガエル」
モアにお茶のお礼を言うと夏美はケロロの部屋から出ていった。



翌日
ギロロのテントにやってきたケロロは昨日夏美と密約した計画を実行に移した。
ギロロの耳元で、極秘作戦の実行を告げる。
「ご、極秘指令だと!」
極秘の作戦と聞きギロロは思わず大きな声を上げた。
「ギロロ伍長、声が大きいであります」
「ス、スマン」
詫びるギロロの口に人差し指を置くとあたりを見渡した。
「夏美殿にでも聞かれたら大変なのであります」
「極秘指令というのは夏美が関係しているのか?」
「そうであります」
声を小さくして聞くギロロにケロロは今回の作戦が夏美に対して行われるという事を説明し始めた。

「今回のギロロに対する極秘指令は『夏美殿を一日日向家から外に連れ出す事であります』」
「夏美を?外に連れ出す?」
「…であります」
説明に首を傾げるギロロに小さく頷くとケロロは夏美がギロロとお付き合いするようになった今でも
最終防衛ラインには変わりなく自分達の侵略の妨げになっている事を告げた。。
「夏美殿はギロロとお付き合いするようになったものの相変わらず『地球最終防衛ライン』…我輩達の侵略における一番の障害であります」
「…まあそうだな」
「今回ある作戦を実行させる為には夏美殿を日向家から離しておく必要があるのであります」

「俺も作戦実行に加わらなくていいのか?」
作戦に直接参加したがるギロロにケロロは今回ギロロの役割がとても重要であるのだと強調した。
「今回ギロロの役目は大変重要なのであります、夏美殿に見つかればどんなお咎めを受けるか…」
「決して途中で夏美殿が日向家に戻らぬようギロロは夏美殿が家に帰りたくなくなってしまうような素敵なプランを立てエスコートするであります」

「そ、それではまるでデートではないか」
ケロロの言う作戦は誰がどう聞いてもデートである、作戦内容を聞いたギロロの顔が真っ赤になっていく。
「…でしょ?だからこそ夏美殿の彼氏であるギロロが適役なのであります」
確かにこの役を他の誰かがやるとしたらギロロ自身絶対に許さないであろう。
だがそんな事より今のギロロにとっては作戦とはいえ夏美とデートするという事の方が重要な問題のようだ。
「デート…夏美とデート」
うわごとのようにつぶやくギロロに対しケロロは正式に作戦実行の指令を出した。
「良いかねギロロ伍長、これは大切な作戦であります」
「只今より作戦を実行し、今度の日曜日に備え最高のプランを作成しこれを実行…夏美殿をうんと喜ばせて家に帰りたくないようにさせる事!」

「作戦なら仕方がないな…作戦、作戦」
顔を真っ赤にしながらギロロはこれがあくまで作戦であると自分に言い聞かせている。
「了解!」
ギロロの敬礼は何時になく立派なものであった。



日曜日の朝
「いってきま〜す」
「ねえねえ早く行こうよギロロぉ」
「ああ」
ふわりとした柔らかそうなワンピースを着た夏美とカジュアルな服装の地球人スーツを着たギロロは並んで日向家を出ていった。


「へえ、珍しいね…今日は姉ちゃん伍長とデートなんだ」
冬樹は門まで出ると二人が見えなくなるまで珍しそうにギロロと夏美を見送っていた。
「実は我輩夏美殿に頼まれたであります」
「頼まれたって?姉ちゃんに?何を?」
ケロロは今回の事は夏美に頼まれたのだと冬樹に告げた。

首を傾げる冬樹にケロロはわざわざ自分の部屋まで来て夏美が願い出た内容が『デートがしたい』だったのだと説明し始めた。
「せっかくお付き合いしているんだから夏美殿だってたまにはギロロとデートだってしたいのであります…」
「なのにあのバカちんは『俺は任務中だ』の一点張りでなかなかデートしようとしないのでありますよ」
「…で、しびれを切らした夏美殿が我輩の処にやってきて『作戦だとか何とかギロロに言ってあたしを連れ出させてよ』と願い出たであります」

「デートならあの二人別に初めてって訳じゃないよね?」
ケロロの話を聞いた冬樹は更に首を傾げた。
確かに物凄く珍しい事とはいえあの二人だって今までに何回かはデートくらいしている筈だ。
そんな冬樹にケロロは溜息を吐きながら訳を話した。
「あの赤ダルマが固すぎなのでありますよ、大体任務中だって言ったってあいつは銃を磨いているか芋を焼いているかどっちかであります」
「だったら別に夏美殿とデートするくらい何時行ったって構わないのであります」
「伍長なりのけじめなんだよ」
それもギロロの人柄なのだろうと納得すると冬樹は呆れ顔のケロロに笑顔を見せた。
ケロロは腕組みをして人助けで今回の作戦を引き受けたのだと冬樹に話した。
「もう少し融通が利かないと夏美殿が可哀想であります、今回も我輩そう思って夏美殿の提案を引き受けたでありますよ」
「どうせ見返りにガンプラでもおねだりしたんでしょ?」
冬樹に図星を指されたケロロは目を丸くしながら言い訳をした。
「ゲロッ!ま、まあ幸せのおよばれを貰ったでありますよ…それに今回はそんなに高いものを要求しなかったであります」
確かに最近発売されるガンプラで4500円はものすごく高い値段ではないがそれでも夏美や冬樹のおこずかいから考えればかなりの高額である
「姉ちゃんってばガンプラの値段確認したのかなあ…」
冬樹は大喜びでスキップをしているケロロの横で苦笑しながら頭を掻いていた。


いずれにしても
こうしてギロロによる『夏美を日向家から連れ出し帰りたくなくなるような素敵なプランを立てて一日夏美とデートする作戦』は無事終了し
デートに大満足した夏美によってケロロは報酬のガンプラを手に入れる事が出来たのである。


「よ、よんせんごひゃくえん!!」
見返りのガンプラが想像以上の価格で目を回す事になった夏美が
普通にデートしてくれればこんな出費はなかったのにとギロロに文句を言い
話しが見えないギロロは夏美に泣かれオロオロする事になるのだが、それはまた別のお話…




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