冬色の宇宙(短編集)その4

□ドライブしちゃうぞ
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今回のお話は夏美ちゃん18歳、結婚後のお話です。


「ギロロぉ、見て見て免許取れたよ〜」
テント前でマシンガンを磨いていたギロロの処へ外出していた夏美が息を切らせながら現れた。
今日、夏美は自動車の運転免許を取得する為、奥東京の免許センターに試験を受けに行っていたのだ。
勿論自動車学校へ通っていた訳だが最後の学科試験だけはセンターで受験しなければならない。
その上で合格した者には即日免許証が交付される、無事合格した夏美の手にはキャッシュカードほどの真新しい免許証が輝いていた。

「おお見事だな、夏美」
ギロロは立ち上がって夏美を迎えると嬉しそうに差し出す夏美の手から免許証を受け取り、目を通すと満足げに頷いた。
「えへへ…別に特別な資格って訳じゃないけどね」
「ライセンスはおまえがその世界で認められた証だ、大切にするんだな」
照れ臭そうに笑う夏美に免許証を返すギロロの顔は本当に嬉しそうだ。
「うん」
夏美にはそれが何より嬉しく感じられたらしく満面の笑みを見せた。


「でさ、早速なんだけど今からどこかに出かけない?」
お茶でも飲むかと労をねぎらうギロロに夏美は今すぐドライブに行きたいと言い出した。
「今からか?」
「うん、ママの車借りてさ…行こうよギロロぉ」
時間は午後4時になろうとしているがそれでもまだ周りは明るい。
帰宅早々の初ドライブに少々心配な部分はあるものの、瞳を輝かせている夏美を見たギロロはドライブを承諾する事にした。
「ふん、自分を試したいと言うんだな…いいだろう、だが車を借りるのなら秋に許しを得ないとな」
日向家ガレージに置かれている自家用車は当然秋の所有物である。
夏美が免許を取得する事から保険などの手続きはすでに済ませているらしいが当然秋の許しを得ねばならない。
夏美は頷くと携帯を取り出し秋に電話を掛けた。
「電話してみるね…あ、ママ…」
「え?…う、うん…そうなの?…大丈夫よ、ギロロもいるしさぁ…」
何やら話が長引いている、ギロロは通話を終えた夏美に電話の内容を尋ねた。
「どうしたんだ?夏美」
「うん…なんだかね、家の車壊れたらしくて車庫に代車が置いてあるんだって」
どうやらいつもの車は修理中でガレージには代車が置かれているらしい。
ちなみに代車というのは自家用車などが修理等で乗れない間、不便の無いようにと車屋が貸し出してくれる車の事を言う。
「代車?気付かなかったな」
「ギロロ、行ってみよ」
「ああ」
二人はガレージへと向かった。



「あ、可愛い〜」
ガレージにはいつものホンダシティターボUではなく赤く小さなスポーツカーが置かれていた。
「ずいぶん小さくて背の低い車だな」
「こういうのをね『軽自動車』って言うんだよ、でも本当に小さいね」
普段ここに置かれているシティターボはもとより教習車だってこんなに低くは無い、夏美も車高の低さに感心していた。
「今、鍵と初心者マーク持ってくるね」
そう言うと夏美は鍵を取りに家の中へと入って行った。
『ケロロが好みそうな格好だな…スポーツタイプか…小さいとはいえ初心者の夏美に扱えるのか?』
小さくてもスポーツカー…ギロロが車内を覗くと運転席周りはなかなか本格的なマニュアル車である。
夏美を信じないわけではないが夏美はまだまったくの初心者である、ギロロは少々不安を感じた。
尤も日向家の自家用車はかなり前の車で勿論マニュアル車だ。
時代の流れからすれば自家用車に乗るくらいAT限定でも構わないのだが秋と車を共有する為に夏美はマニュアル車で免許を取得したのである。


「お待たせギロロ」
鍵を取りに行っていた夏美が戻ってきた。
夏美はマグネット式の初心者マークを代車に着けようとしたがどうにも着かない。
ボディが鉄板ではなくプラスチックで出来ているのだ、夏美はとりあえずガラスの隅にテープで取り付ける事にした。

初心者マークの準備が出来たところで車に乗車しようとした夏美だったが車のドアを見つめながら首を傾げている。
「さあ初心者マークも付けたし、乗ろうよギロロ…って、これどうやってドア開けるの?知ってる?ギロロ」
どうやらドアの開け方が分からないらしい。
「俺が知る筈なかろう」
「え〜、知らないの〜」
勿論ギロロもこの車を見るのは初めてである、ドアの開け方など分かる筈もない。
二人は途方に暮れた。
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