春色の夢(アニメ後日談等)

□あんたとお芋が食べたくて…
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ギロロとガルルは
空に飛び立った炭水化物系植物外来種地球変異体
『YMO―104号』を追って空高く飛んで行った。
「伍長達行っちゃったよ、軍曹」
冬樹が慌ててケロロに話しかけるがケロロは慌てる様子もなく
「これはあの兄弟の問題であります」
と言いながら二人が飛んで行った方角を眺めているだけである。
「姉ちゃん!」
冬樹が振り返って今度は夏美を呼ぶが
そこにすでに夏美の姿はなかった。


夏美は二階の自分の部屋に来ていた。
階段を急いで駆け上がると部屋に入りタンスを開け
タンスの中身をひっくり返して何かを探している様子だ。

「あった!」
夏美がタンスから取り出した物は『パワードスーツの変身用スイッチ』…
前回ガルルが来たときにギロロから送られたものであったが
普段はこれを使用することもなく
タンスの奥にしまいこんでいたのだ。

変身用スイッチを手にして夏美は動きを止め考え始めた。
『あたし、なんでこれを取りに来たんだろう?』
『これで何をしようとしているんだろう?』
とっさに階段を駆け上がって部屋にきて
このスイッチを手にしていたのだ。

『さっき言っていたじゃない…』
『ギロロのお兄さんが今日来たのは休暇だって…』
『別に侵略に来た訳じゃないって…』
『だけど…』

夏美は前回ガルルが地球に来た時のことを思い出した。
自分と冬樹を助けようとしてガルルのおとりになって
空高く飛んで行ったギロロの姿を…

『ガルルはギロロのお兄さんだ…』
『でもあたしはまだあの人の事を信用してはいない』
『もしかしたらあのお芋のような変な物を使ってギロロを…』
『ギロロを連れて行ってしまうんじゃないかって…』
『そんな気がする…』

今日ガルルが来てからずっと夏美の頭には
この事が浮かんで消えなかった。
だからずっとガルルが早く帰ればいいのにと思っていたのである。

ギロロが連れ戻されるかもしれない…
そのことを想像した夏美の体が震える。
「い、や、だ…」
夏美は顔をあげ振り返るとパワードスーツのスイッチを入れた。


ベランダからパワード723が発進していく。
「夏美さん…」
モアが微笑みながら夏美を見送る。

「あれっ、姉ちゃん?!」
「夏美殿、なんで?」
冬樹とケロロがそれを見つけて驚いている。

「日向夏美はよぉ…」
「あのイモを『おっさんと』食べたいんだろ、くっくっくっ」
地下からのクルルの言葉を聞いたモアが
「モアもそう思います、っていうか一念発起?」
青空を見つめながらモアは再び微笑んだ。



『IMO―104号』との戦いが済んでガルルが帰って行った。
庭の焚き火の前ではギロロと夏美が
細かく刻んだ一部お持ち帰りの
『IMO―104号』を焼いている。
このお芋の味はかなりのものであった
夏美はお芋のうまさに感動している。
「おいしい」
夏美の嬉しそうな顔を見てギロロも満足げだ。

夏美がこのお芋を特に美味しく感じるのは
お芋の味の問題だけではなかった…

夏美が二人に追い付いた時ギロロだけでなく
ガルルも芋につかまっていた。
つまりガルルも芋と格闘していた訳で
ギロロを連れ帰る為に
芋を用意したのではない事がわかった。

そればかりか自分が蔓につかまった時に助けてくれたのだ
地球最終防衛ラインの自分を倒すのに
ちょうどいいチャンスであった筈なのに…

だからガルルと目が合った時にまさか
『ギロロを連れて帰らないで』なんて言えないから
『働かざる者食うべからずなんでしょ?』
なんて言ってしまったのだ。


「ねえ、ギロロのお兄さんって結構いい人?」
夏美が尋ねるとギロロは照れたように
「ふん、身内の評価なんかできるか!」
と言いながら悔しそうにしている。

それを見た夏美はなぜか楽しい気分になった。
『ギロロもお兄さんにはかなわないのね』
『川にぷかぷか浮いていたギロロはちょっとカッコ悪かったけど…』
『…ちょっと可愛かったわ』

『ほんの少しだけ、あの人の事を信用する事にしよう』
『なんてったってあんたのお兄さんなんだしね…』
笑っている夏美にギロロが焼けた芋を渡した。

受け取る夏美
手と手がほんの僅か、優しく触れ合う…

『これからもギロロの焼き芋が食べられるのね…』
夏美はお芋を受け取ると安心したように目を閉じて頷いた。

「夏美、芋の心配はしばらく無用だ…だが…」
「えっ?」
夏美が首を傾げるとギロロは話を続けた。
「お前はダイエットとやらをするのであろう?」
「要は運動なのであろう?」

「だったら俺が手伝ってやる」
「心配せずに芋を食え」

「…うん、ありがとうギロロ」
ニッコリ笑うと夏美は大きな口を開けてお芋をほおばった。


「お帰りなさい、ガルル中尉」
「おう、休暇中すまなかったなプルル」
休暇を終えたガルルは再び新しい任務についた。
「地球はいかがでした?」
「なんだ、知っていたのかね?」
「ええ」
プルルの質問にガルルは何かを思い出し
ニヤリと笑みを見せた。
「いや、よかったよ」
「良い休暇になった…」

ガルルは夏美のことを思い出していた…
『地球の女ソルジャー期待通り…はともかく』
『なぜあの場所まであの娘がやってきたのか…』
『わざわざやって来る筋合いなどないのに…』

『フフフ…あいつにも、ギロロにも勝機あり…』
『といったところか』

そう言って笑うと
ガルルはベルトのバックルを前にして
蓋を開けた。
其処にはおさないギロロとなかよく二人で写した写真…
「だんだん大人になっていくのだな…」
「お前はお前の信じる道をいけ…」

「健闘を祈る…我が弟よ」

バックルを閉じると小隊各員に命令を下した。
「速度ワープ1…」
「目的地は…」
宇宙船は宇宙空間に吸い込まれていった。




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