春色の夢(アニメ後日談等)

□すぐ傍にある幸せ
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「もう、恥ずかしいったらありゃしないじゃないの」
デンドロ723は逃げるように商店街から飛び上がり日向家に戻っていった。
「ギロロの奴…許さないんだから」
初めは頭から湯気を立てながらギロロの悪口を口にしていた夏美だったがその勢いは徐々に落ちていった。
「でもギロロのおかげで二人の関係を聞く勇気が出たんだし…」
「あの後、そのまま話がエスカレートしていったらどうなっていたか…」
「あたしの勘違いで小雪ちゃんとサブロー先輩…両方失う事になっていたかも」
「恥ずかしかったけど結局はギロロに助けられたのかもしれない…」
いつの間にか夏美の怒りは収まり、日向家に帰った夏美は元の姿に戻ると自室でベッドに横になっていた。


夏美の手にはギロロにもらったお守りが未だ大切そうに握られている。
それを眺めながら夏美は一人ごとを呟いていた。
「まったく戦争バカなんだから…」
「…軍人なんだから当たり前か」
「…でも」
夏美は自分がギロロのおかげで勇気を振り絞る事が出来た事を思い出した。
「あたしはギロロがお守りをくれたから勇気が出たんだわ」
「…どうしてギロロなんだろう」
「ギロロの言葉はあたしにこんなにも力を与えてくれる…」
「ギロロの言葉だと何の疑問も持たずに信用するあたしがいる…」
「あたし…どうしてギロロなんだろう」
「それにギロロはどうしてあたしなんかの為に…」
自問自答に頭を抱えている夏美の横でラジオの電源が入った。
タイマーにしてあった623の俺ラジオ祝日SPが流れる。

普段は夜に放送している俺ラジオだが今日のように時々生放送ではなく
公開録音したものを夕方などにSPとして放送する時もあるのだ。
「…623さんだったらこんな時なんて言うかしら」
夏美はラジオに耳を傾けた。ラジオからは何時もの623の声が聞こえる。
「今日は最初に俺のポエム、聞いてくれよな」
623は自作のポエムを語り始めた。

―あなたが私に与えてくれた勇気…
―私はあなたから与えられた勇気に支えられ困難を乗り越えた…
―あなたが私に勇気を与える為にあなた自身が振り絞った勇気を知らずに…
―あなたが私に与えてくれた喜びと幸せ…
―私はその幸せに包まれる事を当たり前だと思っていた…
―あなたが私に幸せを与える為にあなた自身が悩み苦しんでいた事も知らずに…

―子供だった私はあなたが傍にいる事の幸せを当たり前にあり続けるものだと勘違いをしてしまい…
―あなた以外に幸せを求めようとした…
―本当の幸せとはすぐ傍に存在するものであるという事に気づかずに…
―失って初めてわかる本当の幸せ…
―でもできる事なら失う前に気づきたい本当の幸せ…
―自分を支えてくれたあの人の存在…
―そして本当の自分の気持ち…

623のポエムは何時になく切ないものであった。
ただその一節が夏美の中に響いてきた。
―勇気を与える為に振り絞った勇気…
―喜びと幸せを与える為に悩み苦しむ…
―本当の自分の気持ち…
その623の言葉に何故だか夏美はギロロの姿を思い出し、ベッドから飛び起きた。
「そうだ…ギロロにお礼言わなきゃ…」
「あたしに勇気をくれたお礼…」
夏美は部屋から出ていくと階段を駆け下りていった。



「ギロロ!」
庭に出てきた夏美がギロロに声をかけるとギロロは目を輝かせて結果を訪ねてきた。
「おお、夏美戦果はどうであった?」
「その事なんだけど何よあれ」
夏美がパワード装備や起動メカの事を話すとギロロは目を丸くして首を傾げた。
「あれって?戦いに行くからには新装備をと思ってな」
「あれのせいでものすごく恥ずかしい思いをしたわよ」

夏美は別に自分が戦いに行ったのではない事とギロロの勘違いで恥ずかしい思いをしたことを説明した。
「スマン…戦えないと嘆いていたからつい…」
ギロロは勘違いに気づくと申し訳なさそうに顔を赤くした
「あっ…」
『そうか…ギロロはあたしの声を聞いたのね、それで…』
ギロロの言葉に夏美は自室で悶々としていた時、小雪と戦う場面を妄想していた事を思い出した。

「まったく…あたしが戦う訳ないじゃないの」
言葉とは裏腹に夏美は自分の事を気にかけてくれるギロロがとても嬉しく頼もしく感じた。
「でも、ありがとギロロ」
夏美は顔を赤くするギロロに笑顔でお礼を言った。

夏美の中に623のポエムが思い出された。
―本当の幸せとはすぐ傍に存在するものである…
その言葉の意味が今の夏美にはなんとなくわかるような気がした。
『うん、今こうしてギロロの横でお芋を食べていると物凄く幸せな気がする…』
『これからもこうしてずっといられたら良いのに…』

同時に沸き起こる想い…先程自室で感じていた気持ち。
『あたしは…ギロロのくれたお守りだから勇気が出たの』
『…どうしてだろう』

『ギロロの前だとなんだか素直になれる気がする』
『…どうしてなんだろう』

『ギロロはどうしてあたしに勇気をくれるの?』
『どうしてギロロはあたしをこんなにも幸せな気持ちにさせるの?』

『ギロロはあたしの事…』
『あたしはギロロの事…』
その後の言葉を続けようとした夏美は言葉を止めると首を横に振った。
『そんな訳ないか…』

「どうした夏美、具合でも悪いのか?」
色々に表情の変わる夏美の姿を見て心配したギロロが声をかけた。
「ううん、そんな事無いよ」
心配して顔を覗き込むギロロに笑顔を見せると夏美は焼き芋を口に入れた。
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