春色の夢(アニメ後日談等)

□「ぬいぐるみの・・・」
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「奴は帰ったのか?」
ヌイイを見送った夏美の横にギロロがやって来た。
「…ギロロ」
頷く夏美にギロロは優しい声で諭した。
「もう日が暮れる…帰るぞ」

無言で頷いていた夏美だったが何かを思い出した様で目をそらしてギロロに尋ねてきた。
「ギロロはあたしが最初にあの子を連れて来た時に…もしかして気が付いていたの?」
「何をだ?」
「ヌイイの事…銃を向けたでしょ?」
「さあな、忘れた…それに違うだろ、夏美」
「えっ?」
「あいつの名は『クーちゃん』だ」
「再びお前に逢う為に来たんだろ?」

普段のギロロからは思いもよらぬ優しい言葉…
夏美は目を潤ませたが次の瞬間身構えた。
「あんた、本当にギロロ?」
「まさか、何とか軍団って奴の仲間じゃあ…」
ヌイイの事があったためか夏美は一瞬目の前にいるギロロを疑った。
「俺らしくないセリフだったな…」
「たまには俺だってくさいセリフ位、吐く…」
顔を真っ赤にしてギロロは横を向いてしまった。

「ごめん、ギロロ」
夏美は顔を赤くして横にいたギロロを抱きかかえた。
「わっ!な、何を…な、なつ、なつ…」
ギロロは真っ赤になって夏美の腕の中で暴れている。
「ギロロのぬいぐるみも肌触りがよかったわね…あのぬいぐるみ、あんただったんでしょ…」
ギロロを抱きしめた時にギロロのぬいぐるみの事を思い出した夏美は
同時に遅刻しそうだからとケロロに向かってギロロのぬいぐるみを放り投げた事を思い出した。

遅刻しそうだとはいえひどい事をしてしまったと夏美は慌てた。
「あ、あ、あの…ギロロ…」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
ギロロを横に置くと夏美は急にギロロの謝りだした。
ギロロにはぬいぐるみにされていた時の記憶はない
急に自分に謝りだした夏美が理解できずに首を傾げていた。


数日後、夏美は誕生日にギロロから『クーちゃん』によく似たぬいぐるみをプレゼントされた。
ギロロにしては上出来である。
ただしばらくの間、街ではファンシーショップに現れる不審な赤いマスクの男のうわさが流れていたようであるが…
ギロロにプレゼントされたぬいぐるみは夏美のベッドの枕元に置かれている。


「夏美、入るわよ」
秋の声に部屋からは夏美の慌てた声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと待ってママ」
夏美がドアを開けると秋が入って来た。
「何してたの?」
「えへへ、ちょっと…それより何か用?ママ」
秋はベッドに置かれたぬいぐるみを見つけて嬉しそうに笑った。
「このぬいぐるみ、ギロちゃんのプレゼントなんですって?」
「街中で有名よ『不審な赤いマスクの男がクマのぬいぐるみを探してうろついていた』って」
秋と夏美は地球人スーツ姿のギロロを想像して笑った。
「あなたが新しいクーちゃんね、よろしく」
「ママ、クーちゃんの事覚えていてくれたの」
夏美は秋が覚えていてくれたことが嬉しくて涙ぐんでいる。
「あたしは貴女のママですもの…」
秋は自慢げに微笑み、思い出すようにぬいぐるみを見つめた。

「夏美も忘れていなかったのね…あら?」
秋は夏美の布団の隅から赤いものが出ているのを見つけた。
「なあにこれ?」
「わっ!ママ、ダメ!」
慌てる夏美をよそに秋が赤い物を引っ張ると現れたのは不格好なぬいぐるみ。

「せっかく隠したのに…」
顔を真っ赤にして夏美がブツブツと呟いている。
「さっきドアをなかなか開けなかったのはこれを隠してたからなの?」
肌触りのよい素材で作られたそのぬいぐるみはお世辞にも良く出来ているとは言えない代物だ。
「夏美が作ったの?…なんのぬいぐるみ?」

秋は夏美お手製のぬいぐるみをまじまじと見つめていたが
やがてにっこり微笑んだ。
「結構特徴を掴んでいるじゃないの、夏美にしては上出来よ」
「でもケロちゃんに見られると『ゲロゲロリ』とか言って悪巧みに使われそうね」
「ギロちゃんには…見られた方がいいかしら?夏美」
その言葉に夏美は秋にしがみつくと顔を真っ赤にしてフルフルと首を横に振った。
「わかったわ、夏美とママだけの秘密ね」
秋は笑顔で部屋を出ていった。


夏美の部屋に加わった二つのぬいぐるみは今、夏美のベッドの枕元に置かれている
一つはかわいい顔をした綺麗なクマのぬいぐるみ
もう一つは…
夏美手作りの少し歪な形をした赤くて丸い怖そうな…でも優しい顔のぬいぐるみ。

「おやすみなさい」
ぬいぐるみ達に挨拶をすると夏美は眠りに入った
ほどなく庭の焚き火の灯も消えた。



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