春色の夢(アニメ後日談等)

□「ジュリエット」
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『ロミオとジュリエット』の劇も終了し
代役を務めたギロロは控え室で座り込んでいた。
『まさか女側の役だったとは…』
既にギロロは服を着替え
元の腹巻姿の地球人スーツに戻っている。
『まあ、夏美の役に立てたのならば、よしとするか…』
『できれば夏美のドレス姿も見たかったがな』
ギロロは満足げに頷いた。

「ギロロ!」
後ろから夏美の声がした、その声にギロロが振り返ると
そこにいたのはジュリエットのドレスを身につけた夏美。
「な、な、夏美、どうしたんだ、その格好は」
「変?」
慌てるギロロに近づくと夏美はふわりとドレスをひるがえしながら一回転した。
「へへへへ…変では無い」
「あたしも本当はこっちの方を着たかったのよね」
「でも今回はあたしがロミオ役って決まっていたから…」

そう言って笑う夏美をギロロは見惚れていた。
「そ、そうか…なかなかにあうぞ」
真っ赤になり顔をそむけて小声で褒めた。

「うん、今日は本当にありがとうね、ギロロ」
「い、いや俺は別に…」
夏美がお礼を言うとギロロはさらに赤くなった。
夏美はそれを見てクスリと笑うとギロロに話を始めた。
「ねえギロロお願いがあるんだけど」
「お願い?」
ギロロが顔をあげると夏美は話を続けた。
「ギロロはセリフを全部覚えたんでしょ?」
「ま、まあな…」

「じゃあ、ここでいいからもう一度お芝居をしてくれない?」
「今度はロミオ役で…」
ギロロは驚いたがドレス姿の夏美の
お願モードに勝てる筈もなく
「わ、わかった」
とO.K.した。

控え室では再び『ロミオとジュリエット』が始まる。
ただし二人だけのお芝居だ。
これは自分の妄想ではなく現実だ
目の前で話し、踊る夏美を見てギロロは幸せだった。

そんな幸せそうなギロロを見ながら夏美は思った。
『なんだか幸せそうな顔してるけど』
『こいつ、このお話しの結末をちゃんと理解しているのかしら?』
『悲恋物なのよ…』

『お互いの家が敵同士で…』
『…敵同士で…』

夏美は思い出してしまった…
『そうだ、あんたとあたしも…』
『あんたは地球を狙う侵略者で…』

『あたしはそれを阻止しようとする地球人…』
『じゃあ、最後はやっぱり…』
『ち、ちがう、別にこいつの事なんか…』
『宇宙人だし、カエルだし…』
『…でも』


「夏美、どうした?」
ギロロの声で夏美は我に帰った。
気が付くと目からは涙があふれている。
それを心配そうに見ているギロロの顔がぼやけて見える。
何故涙が出ているのか
夏美本人にもよくわからなかった。

「大丈夫か、夏美」
「だ、大丈夫よ…目にゴミが入っただけ…」
ギロロが手渡したタオルで涙を拭きながら夏美は笑顔を見せた。

それならよかったと言っていたギロロであったが
夏美に背を向けると小声で話し始めた。
「夏美、もし俺がこのお芝居の主人公だとしたら…」
「俺は悲恋にはしない、この手で必ず幸せを勝ち取る」
「…もしお前なら…そうするだろう?」
話し終わったギロロは振り返り夏美に笑いかけた。
「…もちろんよ、あたしを誰だと思っているの?」
夏美はギロロに笑顔を返した。

「ねえ、ギロロ」
「文化祭の後に後夜祭があるんだけど…」
「あんた参加したんだから一緒に出ない?」
「遅いのはダメだぞ」
「中学校の後夜祭なんだから遅くなる訳ないじゃないの」
「しかしだな…もともと部外者なんだし…」

渋るギロロを見た夏美はくるりと後ろを向くと
「何だ、残念…」
「しょうがないからサブロー先輩の所にお邪魔しに行こうかな〜」
と少し大きめの声で呟いた。

「い、いく、行かせていただきます」
後ろから聞こえる少し慌てた声を聞いて
夏美はペロッと舌を出した。


ここは控え室の外…
「やよい、夏美は?」
片付けから戻ってきたさつきがやよいに尋ねると
「それがね、あの後夏美ったらジュリエットのドレスに着替えて…」
「中であの『ギロ山』って人とお芝居してるのよ」
「へ?」
やよいの話にさつきは首を傾げた。
「あの『ギロ山』って二人三脚の人だよね」
「そうそう」
「だれ?あの人」
さつきの質問にやよいは首を横に振った。

さらにやよいはさつきに話を続けた。
「それなんだけど、ねえさつき?」
「なに?」
「冬樹君やサブロー先輩、小雪ちゃんを代役にしようって言った時は」
「夏美、凄く照れたりちょっと抵抗してたりしたわよね」
「そうね」
「でもあの『ギロ山』って人の時の夏美の顔覚えてる?」
「それまでと違って物凄く真剣な顔してた…」
「それって…まさか」
「わからないわ、でももしかしたら後夜祭に『ギロ山』って人を誘うかも」
「じゃあ、後夜祭で問い詰めちゃおうか?」
「ふふ、そうね」
さつきとやよいは笑って控え室の外でドアが開くのを待っていた。


その頃、校舎屋上…
「小雪殿、今日はあっさり引き下がったのでござるな」
「なにが?」
「夏美殿の相手役でござるよ」

「うん、だってギロロさん必死だし…」
「夏美さんのあの顔見ちゃったら…」
「今日は遠慮しておこうかなって」
「なるほど」
「この後『後夜祭』ってのがあるんだって」
「ドロロも一緒にいこ」
「拙者は…」
「きっとギロロさんもくるよ…そしたら」
「演技の感想聞いちゃおうよドロロ」
目の前で嬉しそうに飛び跳ねている小雪を見て
「今宵の後夜祭は賑やかになりそうでござるな…」
ドロロは笑顔でため息をついた。



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