冬色の宇宙(短編集)その2

□「嘘よ」
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「嘘よ」


「ギ〜ロ〜ロッ」
テント横のブロックに腰をおろし丹念に銃を磨くギロロの処に学校から帰ってきたばかりの夏美がやってきた。
「お、おう…夏美か今日も無事帰還したな」
何時もと変わらぬギロロの夏美を迎える言葉、色気も何にもないその言葉を
夏美は何時の頃からか帰宅時に聞く事を毎日の日課としていた。
「どうでもいいけどその言い方何とかならないの?」
「別にあたしは戦場に出かけていた訳じゃないのよ、ただ学校に行っていただけ」
毎日その言葉に文句を言う事もまた日課の一つである。
「何を言うか、一歩家を出たら外は戦場だ。どこに危険が潜んでいるか分からんからな」
「油断は命取りになるぞ、夏美」
ギロロの返事もまたいつも変わらない、夏美はその言葉を聞くと何故か安心した気持になれた。

「まったく…まあいいわ、横に座っても良い?」
「あ、ああ…お、お前の場所だからな」
苦笑いしながら横に座る事をねだるとギロロは顔を真っ赤にして小さく頷いた。
「ありがと」
夏美は嬉しそうに笑顔を見せるとギロロの横に置かれている自分専用のブロックに腰をおろした。

「ねえギロロ、あたし『今日だから』あんたに言いたい事あるんだけど…」
ブロックに腰をおろした夏美があらたまってギロロに話しかけた。
「なんだ?」
「言っても良い?」
「ああ、聞いてやる」
ギロロの了解をとると夏美は何故かギロロから顔を背け静かに、そして力強く告げた。
「あたしね…」
「ギロロの事大っ嫌いよ」
「これ以上あたしの傍には寄らないで」


「!!」
突然の夏美の言葉にギロロは全身硬直状態になってしまった。
夏美の口から出された言葉は自分を拒絶するものであったからだ。
目の前が真っ暗になった…その場に倒れてしまいそうなほどのショックを受けながらもギロロは静かにその場を離れた。

「…なんてね、今日何の日か知ってる?…ってアレ?ギロロ?」
そんなギロロの様子を知る由も無い夏美が、照れくさそうに笑いながら振り返ると其処にギロロの姿は無かった。
「ギロロ、何処?」
夏美は周囲を探したがギロロの姿はどこにも見当たらなかった。
「…もう、何処行っちゃったのよ」
「夏美殿〜!」
探し疲れてリビングに帰ってきた夏美の処にケロロが血相変えてやってきた。

「ボケガエル、どうしたの?」
ケロロの様子に目を丸くして尋ねる夏美にケロロは息を切らせながら事情を説明した。
「ギロロの奴が急に我輩の部屋にやってきて『俺はここを出る』って言いだしたのであります」
「えっ!どうして?」
「それがさっぱり理由が分からないのであります、ただ『俺はもう夏美の傍にはいられない』と…」
「いったい夏美殿とギロロの間に何があったのでありますか?」
「ええっ…まさかさっきのあたしの言葉を真に受けて…」
夏美は先程ギロロに『大嫌い』だといった事をケロロに話した。
「何故そんな事を言ったのでありますか?」
「…だって今日は」

今日は4月1日
エイプリルフールである、夏美はエイプリルフールの嘘としてギロロに『大嫌い』と言ってみたのである。
ギロロも大分地球の生活に慣れ、ケロロの悪戯などからエイプリルフールくらい知っているものと思い込んでいたのだ。
「あの堅物ギロロにそんなもの通じる訳ないであります!」
「夏美殿だってそのくらい分かるでしょ?」
ケロロに注意され夏美は大慌てになっている。
「だってエイプリルフールくらい分かると思ったんだもん」
「と、とにかく急がないとあいつ本当にここから出ていくでありますよ」
「そ、そんなあ〜」
夏美は慌てて庭に出ていった。
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