冬色の宇宙(短編集)その2

□「ねえ、あんたはどう思う?」
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「ねえ、あんたはどう思う?」


このお話は恋愛前のお話です。



「ねえ、あんたはどう思う?」
焚き火の前で並んで焼き芋を食べながら夏美はギロロに小さな声で尋ねた。
「・・・・・・・・」
ギロロからの返事はない。
「ねえってば」
返事を催促する夏美にやっとギロロは口を重そうに開いた。
「宇宙では色々な星の、色々な種族が存在する…」
「姿や形も違えば考え方も色々だ」

「そんな事、分かってるわよ…」
はっきりしないギロロに苛立ちを感じた夏美が口を挟む
夏美はギロロに『姿かたちの異なる宇宙人同士の恋愛は成り立つか?』について尋ねたのだ。
そんな夏美に顔を背けたままギロロは話を続けた。

「…分かっていない」
「だからお前は姿や形にこだわるのだ」
「知的レベルが同じくらいで心を通い合う事が出来れば…」
「姿かたちはあまり関係ないのではないか?夏美」
「少なくとも宇宙ではそうだ」

「・・・・・・・・」
ギロロの言葉に夏美の体が強張る。
ギロロはそんな夏美を見る事無く焚き火の火を整えると更に話を続けた。
「お前の近くにもいい例があるではないか」
「いい例?」
ギロロの言葉に夏美は首を傾げた。
「モアだ」
「あっ!」
夏美はハッとした表情を見せると、やがて頷いた。

「アンゴル族は地球人と同じ人型だ」
「でもモアの奴はケロロの事が大好きだろう?」
「…う、うん、そうね」
どこまでもボケガエルに献身的につくすモアの姿を見て、夏美は何時もいじらしくて可愛らしいと思っている。

『ボケガエルはモアちゃんのあの姿をどう思っているのかしら?』
そう思った夏美はギロロにその事を尋ねてみる事にした。
「ボケガエルはどうなのかしら?」
「さあな、ただ昔からあいつはモアの事をすごくかわいがっていてな…」
ギロロは夏美の質問に今度はすぐに答えた。
「それにケロロは自分の嫌いな奴を傍に置こうとはせん」
「そうね…良かった」

少し安心した様子の夏美だが相変わらず表情が暗い、ギロロはそれがどうにも心配でならなかった。
「夏美、それよりどうしたんだ?」
「急にこんな話題を持ち出して…」
心配事があるのなら相談に乗ろうと思い、夏美に尋ねてみた。

「な、なんでもないのよ」
「何となくそう思っただけ…そう、何となくよ…」

はっきりと答えない夏美を元気づけようとギロロはわざとにくまれ口をきいてみた。
「地球人という奴はまだまだ幼いものだな」
「この星の中に閉じこもっているから視野が狭くなるのだ」

「なによ、失礼ね」
「それならあんたはどうなのよ?」
「姿かたちは気にしないって言うの?」
「例えばあたしとでも恋愛できるって言うの?」
「あっ…」
咄嗟に出てしまった言葉に夏美はあわてて口を手で覆った。

「な、夏美…」
夏美の言葉にギロロは目を丸くして振り向いた。
「あ、な、な、なんでもない…ありがとギロロ、参考になったわ」
夏美はそう言って立ち上がるとその場から逃げるようにリビングへと戻って行こうとした。

「俺は姿かたちなど気にしない…」
リビングの窓から家の中に入ろうとする夏美に向ってギロロは一言声をかけた。
「・・・・・・・・」
その言葉に夏美は窓の前で立ち止まると、しばらくその場にとどまっていたが
「…うん、ありがと」
と小さな声で一言つぶやき、家の中へと入っていった。

『…で、お前はどうなんだ?夏美…』
『…いまだ未開の地球人だからな』
ギロロは焼きかけの焼き芋を手に持ったまま夏美の背中を無言で見送った。



夏美は二階の自室に戻った。
最後に聞いたギロロの言葉に
胸の鼓動は高鳴ったままおさまらない…

夏美は深呼吸をし、椅子に座るとパソコンの電源を入れた。


今回の事の始まりは友人に教えてもらった小説サイトだ。
友人のお気に入りだとかで勧められ何となく覗いてみたサイト…
そのサイトのお話は地球にやってきた異形の宇宙人と地球人の女性の恋愛物語だ。
お互いの姿かたちや立場に悩んだり傷つきながら愛を深め合う二人のお話…
ある意味ありふれた小説サイトのお話である。

違う世界から来た異形の者と出会い、友情を深めていくお話は映画などにもよくあるものだ。
それならば日向家にも『冬樹とケロロ』というようにピッタリの例もある…
少し前の夏美ならこのサイトのお話を読んでもそれほど気にも留めなかったであろう。

だが今日は違っていた。
お話を読み続ける程に締め付けられていく胸…
例えようもない不安が夏美を襲っていく…
切なくも胸の鼓動は高鳴り…
何故だか瞳からは涙があふれていく。

異形の者同士の恋
普通ならギロロの言うように『ボケガエルを想うモア』の姿が思い出されてもいい筈なのに
夏美の脳裏に浮かび上がってきたのは庭先に住む赤い宇宙人…

たしかに以前から本当はいい奴だと思っていた…
侵略の事ばっかり言っているくせに本当は凄く優しくて…
自分のピンチには我が身の立場も考えずに助けに来てくれる…
いつの間にか夏美は夏美の中でギロロの事を認めていた。

…でもそれは友情みたいなものだと思っていた。
一緒に暮らしていく間に家族の様な情が生まれていったのだ…そう思っていた。

それなのに異形の者同士の恋愛小説にギロロの事を思い出している…
自分とギロロをお話の主人公に譬えて一人胸を焦がしている自分がいる…

夏美は思い浮かんだ考えを否定するかのように首を大きく左右に振った。
「分かんない…分かんないよ」
「宇宙人と…恋愛なんて…あたし…」
「…でも」
夏美は立ち上がると窓を開けベランダに出ていった。


そっとベランダから庭を覗き見るとテントの横でギロロが心配そうに夏美の部屋を見つめていた。
その姿を見た夏美は驚いてベランダから顔を出してしまった。
「ギロロ…」
「…夏美」
二人は身動き一つせず、見つめあっている。


『もしかして、あたし…』
『…ダメよ、ダメ』
『宇宙人なのよ…カエルじゃない…』
『マンガや小説じゃないんだから…』
『…でも』
夏美は自問自答を繰り返していたが、やがてギロロの視線に気づくと再びギロロと見つめあってしまった。

いつもは目を逸らし自分と眼が合う事など滅多に無いギロロの視線
何時になく真剣なギロロの視線が夏美の胸に突き刺さる。

先ほど夏美は姿かたちの異なる宇宙人同士の恋愛について
ギロロがどう思っているのかどうしても知りたくて
焚き火の前でギロロに尋ねたのだった。

夏美の中に焚き火の前でのギロロの言葉がよみがえっていく…
『俺は姿かたちなど気にしない…』


夏美の口がわずかに動くと、庭にいるギロロにも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「ねえギロロ、あんたはあたしの事どう思う?」



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