冬色の宇宙(短編集)その2

□「召し上がれ」
1ページ/1ページ

テント横のたき火で一人銃を磨くギロロ
日向家の庭先ではもはや当たり前の光景なのだが今日のギロロは朝からそわそわと落ち着きがない。

今日はバレンタイン
ギロロと夏美がお付き合いを始めてからもう2年が経とうとしている。
この時期になると夏美はいそいそとバレンタインの準備を始めるが
お付き合いを始めてからは夏美の用意するチョコが自分のものである事がハッキリしている為
以前の様に余計な心配事はしなくて済むようになっていた。

だから夏美が学校から帰ると自分の元に持参してくるであろうチョコが
ただ待ち遠しくて、今ギロロは心ここにあらずといった感じなのである。
「夏美のチョコは俺の心を激しく揺さぶり破壊する…チョコレート爆弾とはよく言ったものだ」
「今年は何やら何時になく時間をかけていたようだが…どのくらいの破壊力を持っているやら」
ギロロは手に持った銃の同じ場所をもう2時間も磨き続けていた。

今年の夏美はバレンタインのチョコを何時になく時間をかけて準備をしていたようだ。
どういう訳かは分からないがケロロも何か協力させられていたらしい。
さらに、ここ2日程は西澤邸に出向いて桃華やモアと一緒に準備をしていたらしいのだ。



「ギ〜ロ〜ロッ」
後ろから聞こえる声に我に返ったギロロが振り向くと其処にはニコニコと嬉しそうな顔をした夏美の姿があった。
夏美はギロロの横にあるブロックに座るとギロロに綺麗にラッピングした箱を手渡した。

「今年は力作なの、見てみて」
夏美に急かされ箱を開けると現われたのは夏美の姿をした人形型の可愛らしいチョコレート。
3つ入っていてそれぞれ普段着、水着姿、パワードスーツ姿の夏美が形になっているものだ。
手作りらしいが夏美の特徴をよくとらえているものだった。

「こ、これは!」
「どう、ギロロ凄いでしょ?」
顔を赤くしながら驚きの声を上げるギロロの横で夏美が自慢げに答えた。
「紙粘土みたいなもので人形を作ったのよ」
「それからボケガエルに『シリコン型取り』ってやつを教えてもらったの」
「…で、最後にチョコを桃華ちゃんとモアちゃんと三人で頑張って作ってみたんだけど…どう?」


夏美の姿をしたチョコを真っ赤な顔で見つめるギロロに夏美は満足そうに頷いた。
「味も抜群なんだから食べてみてよギロロ」


だが夏美の姿をしたチョコレートの出来が素晴らしかった為かギロロはチョコを食べる事に少し抵抗を感じた。
「人形と言えばお前の分身なのだぞ、自分を粗末にするな」
真面目な顔をするギロロを見た夏美は噴き出しそうになるのを抑えると首を横に振った。
「やだ、あたしだって普通ならこんな事しないわよ」
「あんたにあげるチョコだから特別なんじゃないの…」
そこまで言うと夏美は更にギロロの傍に寄り、耳元でおそらく普段出さないであろう程の甘えた声でギロロに囁いた。

「それにね…あたしギロロにだったら食べられてもいいかな…って」

その一言は強烈で幸せなダメージをギロロに与えた。
『あたし食べられてもいいかなって…』
「お、俺…俺が夏美を…」

湯気を出しながら真っ赤になっていくギロロに対し、夏美は追い打ちをかけるかの様に囁いた。
「あんたに食べてもらいたいのよ」

『あんたに食べてもらいたいの…』
「な、夏美が…俺に」
夏美の言葉がギロロの頭の中で響き続けている。
ギロロは強烈なダメージを受け、フラフラしている。

そこへ更に夏美からとどめの一言が囁かれた。
「…召し上がれ」

「うわ―――!!」
身体中が真っ赤になり、湯気を出しながら少し鼻血を出すとギロロはその場に倒れていった
「あ〜あ、なによ、まだ食べてもいないのにのぼせちゃって」
倒れたギロロを見て、口では文句を言いながらも夏美の表情は勝利を確信した満足げな笑顔だ。

「えへへ、やったね大勝利」
笑顔でガッツポーズをした夏美はポケットからギロロの姿をしたチョコを取り出した。
「あまったチョコでギロロのチョコも作ったんだけど…あたし食べちゃおっと」
「ギロロも早く食べてね…あたしのチョコ」
湯気を立てながら倒れているギロロの横で夏美は満面の笑みを浮かべるとギロロの姿をしたチョコを口に入れた。

バレンタインがギロロにとって戦いだというのなら…
この様子ではこれからもギロロは夏美のバレンタイン攻撃に勝てそうも無い




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ