冬色の宇宙(短編集)その2

□「嫁ぐあなたへ…」
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「嫁ぐあなたへ…」


これは「宇宙いっぱいに幸せを後編」結婚式当日のお話しです。



なんだか早くから目が覚めてしまった、遠足当日の小学生みたい。
窓に目をやると梅雨の真っ最中だというのに青空が広がっている。
どうせクルル辺りが気象衛星でお天気をコントロールしたのだろうけど
結婚式当日が雨よりずっといいからたまには感謝しなくちゃいけないかもね。

…静かだ。
昨日のあの大騒ぎが嘘みたい。
侵略は中止になったのにボケガエル達はそのまま…
ギロロもここから出て行かなくて済んで…
今日はあたし達の結婚式。
なんか全てが上手くいったみたいでまるで夢みたい。

ボケガエル達はいったい何時まで大騒ぎをしていたのかしら?
お酒が飲めないにしてもギロロの事だ、きっと最後までボケガエル達に付き合わされていただろう。
もし挙式中に居眠りなんかしたらぶっ飛ばしてやるんだから。

あら、これ何かしら?


夏美のベッド脇には一通の手紙が置かれていた。
夏美は封筒を開けると手紙を読みはじめた。


『夏美へ』
『本当は直接お話しをしようと思っていたんだけど大騒ぎになっちゃってそれどころじゃないからお手紙にするわね』

『夏美、結婚おめでとう』
『まさかあなたがこんなに早くお嫁に行ってしまうとは思ってもみなかったわ』
『あの小さかった夏美が』
『あたしの服の裾を何時までも放さないで「お仕事に行かないで」って泣いていた夏美が』
『小学生になったらガキ大将宜しく近所の男の子を泣かせてばかりいた夏美が…』
『「デビルサマー」って言われていた時、ご近所に謝って周るの大変だったんだからね』

『そんなあなたに好きな人が出来て…』
『それが姿かたち、寿命まで異なる宇宙人だって分かった時は正直ママだって慌てたわよ』
『なんで地球人の…普通の男の人じゃないんだろうって思った事もあったって、前にも言ったわよね』
『でも今はあの時ケロちゃんがやって来て、ギロちゃんがやって来た事が』
『我が家にとっても、夏美にとっても本当に良かったなって思っているの』

『あたしはあの頃、ほとんど家にいなくてあなた達の事を見てあげられなかった』
『夏美達の事は信じていたけど…』
『それでも多感な中学生時代のあなた達を放っておいた…』
『悪い人達の影響を受ける可能性だってあっただろうに…』
『今でも自分は本当にママ失格なんだと思っているわ』

『あたしね、夏美が変な方向に進まなかったのは夏美自身しっかりしていた事もあると思うけど』
『ケロちゃんや…何よりギロちゃんが夏美の事を見ていてくれたからだと思うの』
『ギロちゃんは直接的でなくてもまるでパパの様にあなたを正しい方向に導いていってくれたわ』

『それにね…』
『あなたとギロちゃんはずっと同じ家で暮らしていた』
『それが家と庭先のテントで離れていたと言っても…』
『だからママはあなた達の関係がズルズルとだらしの無いものになっていかないかずっと心配していたの』

『でもギロちゃんは最後までしっかりけじめをつけていてくれた』
『テントでの生活を最後まで続けて、あなたの部屋に住みつこうとはしなかった…』
『「ギロちゃんで良かった」あたしは心の底からそう感じたわ』
『だからあなたと結婚する人はギロちゃんだけって、今は心からそう思うし祝福しているの』


『だからこそ夏美、あなたにお願いよ』

『おそらく結婚式を挙げてもあなたの生活はそんなに変わるものではないでしょう』
『地球から出る事もなく、苗字も変わらず、このままこの家で暮らすのだから…』

『でも夏美、だからこそけじめをつけなさい』
『あなたは今日からギロロさんのお嫁さんなの』
『今日、結婚式が終わって二人だけになったら「宜しくお願いします」ってちゃんと言うのよ』
『三つ指つけなんて言わない』
『でもはっきり言いなさい、「お願いします」ってね…』
『あなた自身のけじめの為にね』

『最後に今日は本当におめでとう、幸せになるのよ』
『でも幸せは自ら手に入れる為に努力しなくてはダメ』
『求めて得られるものでは無いのだから…』
『ギロちゃんと二人で協力して掴みとっていきなさい』

『愛する夏美へ』
『いつまでもあなたのママより』

P.S.
『あたしには挨拶に来なくていいわよ』
『きっと嬉しくて悲しくて切なくて…』
『まともにあなたの顔を見られないでしょうから』


「ママ!」
夏美は手紙を読み終わると部屋から飛び出していった。



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