冬色の宇宙(短編集)その3

□ふわふわり
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今回は恋愛前のお話です。


ふわふわり…
部屋の窓を開けると暖かな春の風が髪の毛をくすぐる。
気持ちの良い日曜の朝。

あたしは買ったばかりの小花柄の春物ワンピを着て庭先に出ていく。
我が家の庭先に居座っている侵略宇宙人はとても早起きだ、今日も早くから物騒なものを丹念に磨いている。
「おはようギロロ!」
後ろから呼びかけたあたしの声に驚き、手に持っていた鉄砲を落としそうになっている。
ぼ〜っとしていたのか気合が入っていない証拠だ。
「な、なんの用だ」
我が家の庭先に居る宇宙人『ギロロ』は後ろから急に声をかけられた事がよほど恥ずかしかったのか赤い顔を更に真っ赤にしている。

「朝の挨拶よ」
あたしは目一杯の笑顔を見せるとギロロの横にあるブロックに腰かけた。
何時の頃からか日常ギロロが座るブロックの横に少し大きめのブロックが置かれている。
ギロロの奴はそれがあたしの為だと一言も言わないけれど、あたしはそれが自分の為に置かれているものだと自惚れるようにしている。
…何時の頃からか、そう信じ込む自分がいる。



はらはらり…
どこからともなく桜の花が舞い降りてきた。
この先の公園あたりから舞って来たのかもしれない。
暖かな風…
薄桃色の可愛らしい桜の花びら…
なんだか心の中まで温かく、ウキウキしてきそうな…
そんな春の日の日曜日。


「何か用があって来たんじゃないのか?」
ブロックに腰をおろし、だらしのない顔をしているあたしを見てギロロは首を傾げている。
「そうなんだけど…ねえギロロ?」
あたしは自分の用件を伝える前にふと浮かんだ疑問をギロロに尋ねた。
「今日はどうして焚き火をしていないの?」
「ず、ずいぶん暖かくなったしな…芋なら夕方の方が良いだろうし…それに」
「それに?」
ギロロは質問するあたしから顔を背けると小さな声で呟くように答えた。
「お前のその新しい服が焚き火の煙で臭くなっては嫌だろう…」
「…ギロロ」
こいつは時々、信じられないほど気の利いた行動をとる。
普段は堅物でボケガエル達の中で誰より戦いを好む癖に
話をすると意外に常識人で…優しい…
だからあの白い猫もギロロにはなつくのだろう。
「ねえ見てギロロ、春なんで新しいワンピ買ったんだ…どう?」
あたしはブロックから立ち上がるとギロロの目の前でくるりと回転した。

ひらひらり…
柔らかそうな小花柄のワンピが春風に翻る。
まるで暖かな春の訪れを花達が喜び踊るかのように…

「…似合うかな?」
ギロロは軽くポーズを付けながら尋ねるあたしから逃れるように背を向けると本当に小さな、小さな声で呟いた。
「お前が気に入って手に入れた服なのだろう?だったら似合わぬ筈がないではないか…」

何ともぶっきらぼうなもの言い…でもそのもの言いにこいつの性格を感じる。
戦争オタクで攻撃的ですぐ無茶する癖に…
照れ屋で…
純情で…
本当は優しい…
湯気が出そうなほど真っ赤になっている背中がこいつの全てを語っている様な気がして…
そんなギロロを見ているとあたしはギロロの事を本気で自惚れてもいいのかなと思ってしまう。
きっと自惚れにすぎないのだろうけど、こんな幸せなひと時が送れるのならそれでも構わないと思う。


はらはらり…
桜の花びらがギロロの軍帽の上に舞い落ちた。
あたしはそれを撫でるようにして払いのけるとギロロの耳元で囁いた。
「ねえギロロ、今からお花見に行かない?お散歩を兼ねてさ…」
あたしの言葉に驚いたのか、ギロロは一瞬飛び上ると一つ咳払いをした。
「敵であるお前と行動を共にしろと言うのか?」
いまさらな言葉に思わず噴き出しそうになるのを抑えると
「今日は特別にあたしが地球の侵略ポイントを教えてあげるわよ」
と、言って話をギロロに合わせてあげた。
「…そう言う事ならつきあってやらん事もない」
あたしの言葉にギロロは顔を真っ赤にしながら立ちあがった。
素直に行くって言えばいいのに…

「じゃ行くわよ、ギロロ」
「…ああ」
あたしはギロロの手を引くと桜の花が咲き乱れる丘の上の公園に歩きだした。


「じゃあまずは公園脇にあるお団子屋さんね」
「それのどこが侵略ポイントなんだ?」
「いいじゃないの」
「…まったく」

ふわふわり…
髪の毛をくすぐる春の暖かな風。

はらはらり…
舞い散る薄桃色の可愛らしい桜の花びら

ひらひらり…
柔らかそうな小花柄のワンピが春風に翻る。

なんだか心の中まで温かく、ウキウキしてきそうな…
そんな春の日曜日の朝。




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