秋色の空(恋愛編)

□宇宙いっぱいに幸せを 中編
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「夏美さん、ギロロ君からの手紙にその花の事が何か書いてある?」

プルルが夏美に尋ねると

「それが…『可愛い花だから贈る』という事と…」
「『この花が咲くのは春だ』」
「『この花の咲く頃には帰ることができるだろう』としか書かれてなくて」

夏美は苦笑いをしながら答えた。

「まあっ!」
プルルは呆れてほっぺたを膨らませた。

「いいんですよ、あいつらしいわ」
夏美は小さな鉢植えにかわいらしい蕾をつけている花を見て微笑んだ。

「あたし、その花の事知ってるわ」
「教えてあげるわね」

プルルが花の説明をし始めた。

「この花はね、『宇宙スノードロップ』って言うのよ。
「宇宙スノードロップ?」
「なんか地球にもそんな名前のお花があったような…」

夏美はなんとか思い出そうとしたがはっきりとは思いだせなかった。

「地球の物も宇宙の物も実は元は同じ品種なの」
「春になると小さな白い釣鐘型の耳飾りのような花を咲かせるのよ」

「へえー」
夏美はプルルの話を真剣に聞いた。

「この花の花言葉は『希望』『慰め』『楽しい予告』などがあるわ」
「希望?…」
この花ことばに夏美は胸が高鳴っていった。

「地球のスノードロップにはこんな話があるのよ」

『禁断の実であるリンゴを食べてしまったアダムとイブは』
『エデンの園を追い出されて降りしきる雪の中へ…』
『永遠に続くかと思われる冬に絶望して泣きじゃくるイブ…』
『そこに天使が現れて「もうすぐ春が来るから絶望しないように」とイブを慰め』
『冷たい雪をスノードロップの花に変え…』
『そこに「希望」が生まれた…』

「だからスノードロップには「希望と慰め」って花言葉が付けられたんですって」

「ギロロはこの話を知っていてこの花を?」
夏美の瞳は涙でいっぱいだった。

「分からないわ、でもあなたたちにぴったりね」

「あたし、泣きじゃくってなんかいません」
「・・・そうね、貴方は頑張っているわ・・・」
プルルは夏美の涙を持っていたハンカチで優しくぬぐうと
「希望を持ってギロロ君を待ってあげてね」
「ま、そんなことあたしが言わなくても当然でしょうけどね」

プルルはにこりと笑う。
夏美もつられて笑顔になった。

「じゃあ、スノードロップを持って来てくれたプルルさんが『天使さん』なんですね?」
夏美が笑顔で言うと

「あたしが天使なんて言ったら本当の天使がへそを曲げるわよ」
と笑ってかえした。


プルルが自室に帰り
一人になった夏美はスノードロップの鉢を机に置いて
ギロロの手紙を読み返していた。

「本当に言葉が足らないんだから…」
「ま、バースディカードにあいつなりに精一杯の洒落た言葉を書いたのだろうから」

「…ありがと、ギロロ…」

遠い宇宙のギロロに向かってお礼を言った。

それにしても半年経っても帰ってこられないなんて
どんな苦労をギロロはしているのだろう…

さっきプルルさんにスノードロップの話しを聞いたとき
「泣きじゃくっていない」
って突っ張ったけど
本当は一人きりのときは寂しくて・・・

余計な事を考えないように受験勉強にむきになっているあたし・・・

プルルさんは全て解っているんだわ・・・
夏美は改めて鉢植えの蕾を眺める。

この花が咲く頃、ギロロは帰ってくる。
その時あたしはちゃんと希望の大学に合格して

ギロロを迎えることができるように残りの時間を
精一杯頑張ろう。

「あいつには負けられないわ…」

まだ固い蕾の宇宙スノードロップを見て微笑みながら
夏美は心に誓った。
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