冬色の宇宙(短編集)その4

□ドライブしちゃうぞ
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「お二人ともこんなところで何をしているのでありますか?」
そんな二人に声をかける者がいた、買い物に出かけようとしていたケロロである。
「ケロロか、お前こそ何をしているんだ」
「我輩は夕飯のお買い物であります…そういえば夏美殿、免許は取れたのでありますか?」
ケロロは怪しげなお母さんタイプの地球人スーツを身に纏いながら夏美に向かって免許試験の結果を尋ねた。
「当たり前でしょ…あ、そうだボケガエル」
「何でありますか?」
夏美は目の前にある代車のドアをどう開けたらよいかケロロに尋ねる事にしたのだ。
ケロロはこういったどうでもよい事については意外と物知りである、きっと何か知っているのではないかと夏美も考えたようだ。
「この車、ママの車が修理中の代車なんだけどさ…ドアの開け方わかる?」
「ドアの開け方で、ありますか?」
「うん、どう見てもドアノブが見当たらないのよ」
その言葉にきょとんとした顔をしていたケロロだが夏美が訳を話すとケロロはあっさりドアの開け方を答え始めた。
「これはガルウイングであります」
「ガルルウイング?」
「ギロロ伍長、妙なボケは不要であります…此処にノブが隠れているでありますから…こうして」
ギロロのおかしなボケに溜息を吐くとケロロは代車のドアの下部に手を入れた。

代車のドアが上に向かって開いていく。
それはまるで鳥が大きな羽を広げるかのようだ。
「わあっ!ドアが上に向かって開くのね」
一風変わった車を目の前にして夏美は大喜びだ。
ケロロは得意げにこのタイプのドアの呼び名を説明した。
「カモメの羽のように上に向かって開くので『ガルウイング』と呼ぶのであります」
「へえ、すご〜い」
素直に感心している夏美に対し、ケロロは再び溜息を吐くとこの車は特殊な車で免許取りたての夏美には無理だと言い始めた。
それはまるで夏美を馬鹿にし、挑発するかのような口調だ。
「この車はマツダAZ‐1と言っていささか特殊な車であります…免許取りたての夏美殿に扱える代物かどうか…」
ケロロの挑発に、まるでお約束のように夏美が反発した。
「なんですって、失礼ね!」
「乗り込むわよギロロ…って、どうやって乗るの?コレ」
ムキになって代車に乗り込もうとするがどうやら夏美は乗り方が分からないらしい。
ガルウイングのドアは通常のドアで言えば上半分しか開かない
乗車する際にはまるでバスタブに入るかのように足を上げ、お尻から車内に潜り込まねばならないのだ。
「まず片足だけ入れた後にお尻から乗り込み、最後にもう片足も上げて中に入るのであります」
「ヤダこれ乗りにく〜い」
ケロロの説明に夏美はやっとの思いで運転席に乗り込んだ。

「よく見て見るであります、シートにはリクライニングすらついていないし、助手席なんかボルトで固定してあるのであります」
「…確かに」
確かにケロロの言う通り二人乗りのシートは完全なバケットシートでリクライニングは一切しない。
その上助手席はシャーシに直接ボルト締めされている為、前後にすら動かないのだ。
更に窓はかろうじて細い人の手が入る程しか開かない、なんでもチケットウィンドウというものらしい。
おまけにボディは強化プラスチック製…軽量化の為らしい。
どこをどう見てもこの車が走りに特化した車である事を物語っている。
「免許取りたてはおとなしくママ殿の車が帰って来てから練習すればいいんでありますよ…」
「ママ殿の乗るシティターボの方がまだ夏美殿にも扱えるであります」
「お、おいよせケロロ…夏美を煽るな」
小馬鹿にしたような態度で夏美を挑発するケロロをギロロが止めに入るが時すでに遅し…
「…ゲロリ」
夏美は馬鹿にされた事に腹を立てるとあっさりケロロの挑発に乗ってしまったようだ。
「…上等じゃないの…あたしが扱えるか扱えないか勝負よ、ボケガエル」
いつの間にか勝負ごとになってしまっている。
「望むところであります、もし扱いきれなくて夏美殿が泣きを入れたら?」
「一週間メイド服着て家事当番引き受けるわよ」
「その言葉確かに聞いたでありますよ、夏美殿」
「もしあたしが乗りこなせたら?」
「その時は我輩がメイド服で家事当番をさせていただくであります」
「その言葉忘れないでよね!じゃギロロ行くわよ」
トントン拍子に話が進んでいく、この代車についてギロロは別に詳しくないが
話のあまりの進み様に夏美がケロロの罠にまんまとはめられたような気がして気が気ではなかった。
「大丈夫か?夏美」
「大丈夫だって…えっと、クラッチを踏んで…ギアをニュートラルにして…」
「な、なあ夏美」
「なによ、黙ってて…気が散るじゃない!」
どうやら夏美は頭に血が上ってギロロの言葉もろくに耳に入らないらしい。
ギロロは溜息を吐くと夏美に開いたままになっているドアを閉めるよう促した。
「どうでもいいがドアくらい閉めたらどうだ」
「あ…」
ドアを開けたままな事にやっと気づいたらしく夏美は不機嫌そうな顔をしたまま乱暴にドアを閉めた。
その姿を見たケロロは勝ち誇ったような溜息を吐くと首をわざとらしく横に振った。
「やれやれ、もう結果は見えたようなものでありますなあ…」
「夏美殿、公平な判定をする為にクルルの作ったドラレコを装着したであります…これで記録した画像で判定するでありますよ」
よく見るといつの間にかルームミラー脇にデジカメのようなドライブレコーダーが装着されていた。
これで車の中と外を同時に録画するらしい。

今の夏美にはケロロの一言一言が癇に障るらしい、ケロロのしぐさに声を荒げながら車を発進させた。
「いいわ!じゃ行くわよギロロ!」
AZ‐1はホイルスピンを起こしながら物凄い勢いでガレージから飛び出していく。
「うわあぁぁぁ!」
日向家から飛び出したAZ‐1はギロロの叫び声と共にあっという間にケロロの視界から消えた。

「あの様子では暫らく家事当番を免れるであります、シメシメであります」
走り去る車に勝利を確信したケロロが走り去る車を見送っていると家の中で電話が鳴り始めた。
「電話でありますか?」
ケロロは家の中へと入って行った。
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