冬色の宇宙(短編集)その4

□「二人きりのパトロール」
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「二人きりのパトロール」


今回は恋愛前のお話です。


ここは日向家
世の中はゴールデンウィークの真っ最中
そんな中、長女の夏美は外出でもするのか自室で洋服を着替えていた。
「お弁当も準備できたし、お洋服もこれでよし……っと」
夏美は春を感じさせる色合いの可愛らしいTシャツをキャミと重ね着したパンツルックを姿見に映して満足げに頷くと部屋を出ていった。



一階のリビングに下りてきた夏美はソファーに腰を下ろすと大げさに溜息を吐き、嘆き声をあげた。
「あ〜あ、たいくつ〜」
「せっかくのゴールデンウィークなのにママはお仕事だし、冬樹は桃華ちゃんとこ行ってるし…」
「さつきとやよいも家族旅行だって言うし…つまんない」
そう言うと夏美は横目でリビングの窓外を窺った。
窓はほんの少しだけ開いている。
『…どうかな?』
夏美はもう一度「あ〜あ」と大きな声で溜息を吐いた。



その時リビングの窓が開くと庭で銃を磨いていたギロロが姿を現した。
「どうしたんだ?夏美、今日は一人きりなのか?」
夏美は密かに口元を緩ませるとわざと驚いたようにして声のする方に顔を向けた。
「あれ?ギロロも一人なの?」
心配そうな顔で覗き込むギロロの姿を見た夏美は笑顔を見せると満足気に頷いた。
「まあな、ケロロの奴はゴールデンウィークとかやらでガンプラ作りに没頭してやがるからな…」
ギロロはそう言うと大きく溜息を吐いたが夏美に何か言いたい事があるらしく何やらソワソワしているようだ。
「そっか、あんた達もお休みなのね」
「そういう訳ではない、俺は今からパトロールだ…そ、そうだ夏美」
ギロロは何やら大げさに相槌を打つとリビングの中に入ってきた。
「なに?」
「ちょっと来い」
ギロロは夏美の手を掴むと半ば強引に庭に連れ出した。
「なによ」
「たまたま何時ものソーサーが故障してな、今日はこいつでパトロールに出かけるんだ」


ギロロに連れられ、リビングの窓から庭に出るとテント前にいつか乗った事のあるバイク型ソーサーが置かれていた。
「いつかのバイク型ソーサーじゃない」
「そうだ…だ、だから…」
何やら言いにくそうにしているギロロの様子に夏美はしゃがんで目線をギロロと合わせると僅かに甘えたような声を出した。
「『だから』なあに?」
「お前も一緒に来るか?」
ギロロは自分のパトロールに付いてこないかと夏美を誘ってきたのである。
「あたし?いいの?」
「ああ、その代りと言ってはなんだが、お前の知っている侵略ポイントを教えるんだな」
「侵略ポイントって……あ、そうか……うん、わかった」
夏美はこれまでも数回「『侵略ポイント』を教えてあげる」と言ってはギロロとお出かけしている。
勿論行き先が本当の侵略ポイントである筈がない、どこも公園や観光地などである。
ギロロの言葉の意味を理解した夏美は満面の笑みで頷いた。


「それじゃあこれを着ろ」
ギロロが差し出してきたのは見た目も可愛らしい長袖のカーディガン。
「なにこれ可愛い?カーディガンね」
「お前の服はバイクに乗る服じゃない、だが今回は俺が急に誘ったんだしな…それはバリアカーディガンだ」
「バリアカーディガン?」
「お前は今半袖だ、それに何かあった時、そいつのバリアがお前を包んで守ってくれる」
「うん、ありがとギロロ」
夏美は大喜びでカーディガンを身につけた。
カーディガンを着た夏美の姿を見たギロロは顔を真っ赤にすると慌てて目を逸らした。
「べ、別にわざわざ用意した訳ではない、ぐ、偶然だ」
「うん、そうね…偶然よね……それじゃこの前偶然ソーサーに入っていた723って描いてある『あたし用』のヘルメットも借りるね」
そう言うと夏美はソーサーに取り付けられたパニアケース(旅行用トランク)から『723』とネームの付いたヘルメットを取り出した。
「そ、それはだな……」
「そういえばギロロぉ」
顔を真っ赤にして慌てるギロロにヘルメットを一旦預けると夏美は一旦リビングへ戻って行った。
「なんだ?」
首を傾げているギロロの前に大きな手提げ袋を持った夏美が戻ってきた。
「あたしも偶然二人分お弁当作ってたのよ、一緒に食べよ」
「ぐ、偶然なのか?」
「そ、偶然、偶然」
「ぐ、偶然でもそのままにしておけばダメになってしまうな…貰ってやる」
ギロロは夏美から手提げ袋を受け取るとパニアケースに収納した。

「決まりね、じゃ早く行こ!ギ〜ロ〜ロぉ」
「お、おう…」
ギロロからヘルメットを受け取った夏美は大喜びでタンデムシートに飛び乗った。
「どっちの方に行くの?」
「か、風任せだ」
「なによ、それ」
「お、おすすめの侵略ポイントはあるか?」
「へへぇ、それじゃあねぇ……」
二つの笑顔を乗せたバイク型ソーサーは5月の青空へと消えていった…
どうやらこの勝負(?)は夏美の大勝利…らしい。




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