冬色の宇宙(短編集)その4

□「記念写真」
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「記念写真」



今回のお話は恋愛前編「夏色の海」の最終話「大嫌い」直後のお話です。


三月ももうすぐ終わり。
冬の厳しい寒さは徐々に薄れ、公園の桜は蕾を大きく膨らませ今まさに開花し春の到来を告げようとしている。
今日は夏美の中学卒業の日。
今、日向家では夏美の卒業祝いパーティーが開催されていた。
相変わらず編集の仕事が忙しい中、娘の大切な日だからと休みを取った秋がささやかながらもお祝いの場を用意したのである。

リビングには夏美、冬樹は勿論
今や家族の一員のような存在であるケロロを始め、夏美の招待を受けたギロロ
冬樹の招待を受けた桃華とタママ、そしてモアとクルルも秋の招待を受ける形でテーブルを囲んでいる。
秋は夏美と同じく今日中学を卒業した小雪もパーティーに呼ぼうとしたのだが
あいにく小雪とドロロは学校が無い日を利用して修行に行くとして卒業式終了と共に出かけてしまったようだ。


だが和やかで楽しいパーティーが行われている中、主役の夏美は『心ここにあらず』状態であった。

それは今から数時間前の事だ。
夏美は日向家を出て行こうとするギロロの口から『愛している』と告白され、自分もまたギロロの事を好きだと告白した。
二人は自分の気持ちをぶつけ合う事で想いを通じ合う事が出来たのだ。
その時は精一杯だった為、嬉しくて涙が溢れたものの実感が湧かなかったが
今、夏美は少し時間が経ち、気持ちが落ち着いてきた事で改めて自分達が両想いだったことを実感し始めていたのである。


『ギロロもあたしのこと好きでいてくれたんだ……』
告白された時の事を思い出し、夏美の顔が締まりのないものになっていく。

続けて思い出すのはギロロの言葉……

―心から…愛している―

『やだ、思い出したらなんだかものすごく恥ずかしくなってきちゃった』
ギロロの言葉を思い出した夏美の顔がたちまち茹で上がったタコの様に赤くなっていく……

そんな夏美の脳裏に今度は秋の顔が浮かんだ。

『……そうだ、ママになんて言おう』
『……「馬鹿な娘」って怒るかな?』
『……物凄く呆れられちゃうかも』
夏美の顔が心配であっという間に青ざめていく……


夏美が数時間前の告白を思い出し赤くなったり青くなったりしている時、ギロロも同じく告白の時のことを思い返していた。

―あたしもね…大好きよ、ギロロ…―

『夏美が俺の事を好き…大好き…か…フフ…フフフ……』
夏美の言葉を思い出し、ギロロの顔が締まりのないだらしないものになっていく……

想いが通じ合った嬉しさから自分を抱きしめ大泣きした夏美を思い出すと
今度はその胸に抱きしめられた感触を思い出しギロロの顔はたちまち茹ダコの様に真っ赤になっていく……

そんなギロロの脳裏に今度は秋の顔が浮かんだ。

『むむっ、しかし待てよ……この事を秋にどう説明する?』
『大切の娘に手を出したと激怒されたりはしないか?』
『物事に寛容な女だが流石に娘の事となれば……』
ギロロの顔が心配であっという間に青ざめていく……



秋はコロコロと表情の変わる二人の様子を楽しそうに眺めていた。
『夏美ったら何かいいことあったみたいね?、本当にわかりやすいんだから……あら?ギロちゃんも夏美と同じね……という事は……』

「なるほど」
秋はすべてを理解したようだ。
「……で、あります」
秋のつぶやきを聞いたケロロが小さく頷いている。
『……そうか、そうなんだ、良かったわね夏美、ギロちゃん』

『それじゃあ……』
秋は隣の部屋に行くとカメラと三脚を持って戻って来た。

「記念に皆で写真を撮りましょ」
秋はそういうと皆をソファに並ばせた。
「ほらギロちゃん、そんな隅にいないでもっとこちらにいらっしゃい……此処ここ!」
ソファの隅に立つギロロを見つけると秋は夏美のすぐ横に来るよう手招きした。
「そ、そこは!!」
「いいじゃないの、夏美も良いでしょ?」
「え?あ?う、うん……」
「だ、だがしかし……」
秋は無理やりギロロの手を引っ張ると夏美の横に座らせようとしたが二人は顔を真っ赤にしながらモジモジと恥ずかしそうにしていてはっきりしない。

「あ〜、もうじれったいであります!夏美殿が待っているであります、早く行かんかこのバカチンが―――っ!!」
じれったくなったケロロがギロロに激を入れる。
「べ、別に待ってなんか……」
「ギロちゃんが横じゃ嫌なの?」
「そ、そんな事!」
恥ずかしさのあまり夏美が小声で文句を呟くが秋の言葉に慌てて顔を横に振る。
その様子を見て満足げに頷くと秋はギロロを呼び寄せた。
「じゃ、ギロちゃんいらっしゃい」
「あ、ああ」
こうしてギロロと夏美はソファに並んで腰を下ろしたのである。
「きゃっ!」
「ス、スマン!」
「う、ううん、ごめんギロロ」
「い、いや……」
不意に手と手が触れたらしく二人は湯気を上げそうな程真っ赤になり硬直している。
そんな二人を見た秋やケロロは吹き出しそうになるのを必死でこらえると互いに目を合わせ満足げに頷いた。


「それじゃ撮るわよ……セルフタイマーオッケイね……はいチーズ!」
カメラをセットした秋が夏美達の後ろに回り込むとフラッシュが焚かれシャッター音がした。
「せっかくだからもう一枚撮るわよ……」
秋は再びカメラに戻るとセルフタイマーをセットした。
その時、僅かに見せた秋の目配りにケロロ達は小さく頷いた。
「はいチーズ!」
「え?」
「なに?」
なんと今回、秋は夏美達の処に戻らずケロロ達もまた急いでその場を離れた。
「カシャッ!」
ソファに残された形になった夏美とギロロが目を丸くする中シャッター音がリビングに響いた。


不意のツーショット写真に夏美とギロロは顔を真っ赤にして固まっている。
そんな二人の姿を見た秋は微笑むと静かに目を閉じた。
『夏美、高校進学もそうだけどギロちゃんに告白できてよかったわね……』
『あたしに報告する決心がついたらいつでもいらっしゃい……ママとして「おめでとう」って言ってあげるから』
再び目を開けカメラのモニターに映し出された二人の姿を確認すると
「記念だものね」
と言い柔らかな笑顔で二人の肩を抱いた。





―あとがき―

サイト開設7周年記念SSです。
恋愛前編『夏色の海』の最終話「大嫌い」直後のお話を描いてみました。
ちょっとかわいく、初々しく……そんな二人を感じていただけたなら幸いです。

おかげさまで当サイト「宇宙(そら)いっぱいに幸せを」もなんと七周年を迎えることが出来ました。
これもひとえに当サイトにお越しくださいます皆様のおかげと深く感謝いたしております。

最近は忙しさと体調不良から更新も滞りがちですが当サイトの存在理由はただ一つ
「ギロロと日向夏美という一組のカップルの歴史と日向夏美という少女の成長を描く事で少々特殊なこのカップルを応援したい……」
それだけです。

アニケロが完了して久しかったですが今月3月22日よりアニマックスでアニメが復活しました。
フラッシュアニメという事で一回が物凄く短いものですがそれでもケロロ軍曹が復活しギロロと夏美ちゃんが再びTV画面で見られることの幸せを感じております。

アニケロは勿論、原作がこの先どうなっていくのか全く分かりませんが
それでも今しばらくは『ケロロ軍曹』と『ギロロと夏美ちゃん』を応援していきたいと思います。
宜しければこれからも当サイトと乾にお付き合いいただければ幸いでございます。

改めまして
「宇宙(そら)いっぱいに幸せを」開設七周年誠にありがとうございます。

「宇宙(そら)いっぱいに幸せを」管理人 乾一世(いぬいいっせい)

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