冬色の宇宙(短編集)その4

□「ギロロ一家、南の島へ」
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「ギロロ一家、南の島へ」


今回のお話は「結婚編」です。
「天使のキス」で生まれた長女の春日ちゃんは小学生、弟のギルル君は宇宙人街の幼稚園に通っています。



世の中はゴールデンウィーク中……
ここは日向家地下にある屋内大プール跡。
ここは現在ケロロ小隊の使用する潜水艦『ニューロードランジャー』の格納庫になっている。
そしてニューロードランジャーの横には退役しギロロに払い下げられた旧型のロードランジャーが置かれている。
「ママ―、早くぅ」
「ちょっと待ってよ」
両手に荷物を持ち、ロードランジャーに乗り込もうとする夏美を春日がハッチから身を乗り出して呼んでいる。

ギロロと夏美一家はゴールデンウィークを南の海で過ごす為、ロードランジャーで出かけようとしているのである。

「お前達、遊びじゃないんだぞ。これは『野営訓練』だ!」
今回は目的地でテントを張ってキャンプをする為、ギロロにしてみれば『野営訓練』と言う事になるらしい。
「…って言う名の家族旅行なんだけどね、実際」
「……むう」
「はいはい、いい加減あきらめて家族サービスしなさいよね、パ〜パ!」
尤も小さな子供連れで『野営訓練』になどなる筈もなく夏美に軽くあしらわれたギロロは溜息を吐くと操舵席についた。
「は、発進するぞ」
「それじゃあ日向家(一部)ゴールデンウィークの家族旅行にしゅっぱ〜つ!」
「わ〜い!」
夏美と子供たちはお出かけが嬉しくて大騒ぎだ。
「…ったく」
ギロロの溜息と共にロードランジャーは地下基地を後にした。



「ねえねえ、今日はどこに行くの?」
「桃華お姉ちゃんが南の島を特別に貸してくれたのよ」
行き先を尋ねる春日に夏美は目的地が西澤家所有の南の島だと答えた。
冬樹の処へ遊びに来ていた桃華が所有する南の島にあるプライベートビーチを貸し出してくれた為である。
「西澤桃華の奴、自分が冬樹と二人になりたいから俺達を外に連れ出したんだろ」
「そんなこと言わないの、いいじゃないこうして家族旅行できるんだから」
「…まあな」
ギロロ自身、別に冬樹達の邪魔をする気などない。
元より家族だけでどこか旅行に行こうと計画していたところだけに
こうして家族旅行の場所を与えてくれた桃華には感謝しているのだ。

「秋ちゃんはお仕事だよね?ケロロのおじさんとモアちゃんは?」
秋は相変わらず編集の仕事をしている。
子供が二人とも独り立ちしたのだからムキになって働く必要もないのだが本人いわく『生きがい』なのだそうだ。
春日の問いに夏美はケロロ達は昨夜から出かけているのだと答えた。
「ケロロのおじさんとモアちゃんは『何とか大会』ってイベントに出かけるって昨日の夜から出かけていったわよ」
「『宇宙えすえふ大会』だ……まったくあの熱意をもっと任務に向けられないものか……」
どうやら随分前から準備をしていたらしい。
そのせいで仕事が全然進まなかった事をギロロは嫌味たっぷりに呟くと大きく溜息を吐いた。

そんなギロロの傍に行くと夏美は微笑んだ。
「折角の家族旅行に邪魔が入らなくて好都合じゃない」
「ま、まあな」
少し顔を赤くしながら頷くギロロの横で夏美は着ていたラッシュガードを脱ぐと新しいビキニの水着でポーズをとった。
「そんな事よりギロロぉ、新しい水着…どう?」
『どう?』と言われて目を向けたギロロはあまりに刺激的な夏美のビキニに目を丸くした。
「ぐ、ぐはぁ…あ、あいかわらずガ、ガ、ガードが甘いふ、服だな」
「それだけ?」
「あ…い…いや…」
「むねもおしりもちょっとだけサイズアップしたのよね、知ってるでしょ?」
そう言うとギロロの顔の横に胸を近づけた。
勿論公海上に出た時点で自動操縦になっているのを知っての事だ。
「こ、子供たちの前で、お前」
目の前の光景に慌てているギロロの横にいつの間にか春日やギロロも来ていた。
「春日もサイズアップしたの〜」
「僕だって、僕だって〜」
どうやら二人とも背の高さを言っているらしい、確かに年々二人とも成長し背が伸びている。
尤もケロン体であるギルルは55、5cmになるとそれ以上大きくはならないのであるが……
「フッ…そうだな、二人ともずいぶん大きくなったな」
とは言え成長した我が子の姿にギロロは目を細め大きく頷いて見せた。


「ねえ南の島ってどのくらいで着くの?」
海中を高速で進む潜水艦では景色を楽しむ事はほとんどできない。
魚やクジラ、イルカなどが傍に居れば少しは楽しめるのだが子供はすぐに暇を持て余す
どうやら春日は退屈になってきたらしい。
「そうね、あと2時間ってとこかしら?ねえパパ?」
「特に問題がなければ1時間30分だな」
退役した潜水艦とは言えケロンの科学の粋で建造された船である。
ケロロの話しでは最高速力なら七つの海を日帰りで行って来られるらしい。
「何か手伝う事ある?」
「こっちはいいから春日達の相手をしていろ、景色に飽きてぐずられたら困る」
手伝う事は無いかと尋ねる夏美にギロロは子供の相手をしてくれと頼んだ。
「うん、そうするね……春日、ギルル、トランプしようか?」
「え〜、ママ弱いもん」
「弱い、弱い」
「もうなによ〜、ビデオゲームなら負けないんだから」
夏美はすぐ顔に出る為、カードゲームはおろかボードゲームも弱い。
その事を子供達に指摘され頬を膨らませている。
「フッ」
そんな母と子のやり取りを背中で聞きながらギロロは満足気に頬を緩ませていた。



「無事着いたわね〜」
「当たり前だ」
ほぼ予定時間通り南の島に到着したギロロ達はロードランジャーからボートで指定された砂浜に上陸すると一段高くなった土の処に荷物を下ろした。
「ふふ、ギロロお疲れ様」
「ふっ、これしきの事…」
夏美が水筒の水をコップに入れて渡すとギロロは美味そうにそれを飲み干した。
「いいお天気で最高ね」
「ああ、そうだな」
どこまでも青い空、白い雲…コバルトブルーの海はこれまでに何度か訪れている。
その時々の事を思い出すと二人は感慨深げに顔を見合わせた。

「凄い、綺麗な海…」
「姉ちゃん早く遊ぼうよ」
二人の子供は目の前の美しい光景に大はしゃぎだ。

そんな子供達を呼ぶとギロロはテントの入った袋を開けた。
「待てお前達、まずはテントの設営だ…春日はママのお手伝いを頼む。ギルル、お前はパパのお手伝いだ、二人とも責任重大だぞ」
「うん」
ギロロは息子のギルルにテント張りを手伝わせながら張り方の手順や方法を教えた。
「いいか?ギルル、ペグはこうやって打込むんだ」
「こう?」
「ああそうだ、上出来だぞ」
その光景を夏美はしばらく眩しそうな目で見ていたがポリタンクを台車に乗せると春日を呼んだ。
「ふふ…じゃあ春日、あたし達は裏にあるホテルの水場へ水を貰いに行ってきましょう」
「ケロン体に限らず私達にも飲み水は大切よ」
「うん」
二人は島の中に建つホテルへと向かった。



「ギルル、いくよ〜」
「うん」
砂浜では春日とギルルがビーチボールで遊んでいる。
テントの設営も終わり砂浜に出たギロロ達は南の島を満喫していた。
「南の島…青い海に白い雲…静かなプライベートビーチにはあたしたち家族だけ……凄く贅沢ね」
「ああ、西澤桃華に感謝せねばならんな」
砂浜にシートを敷き、ビーチパラソルを建てると夏美はギロロにサンオイルを塗ってもらっていた。
「それにしてもホテルは何かイベントで貸し切りって桃華ちゃん言ってたけど何のイベントかしら」
「さあな」
この島のホテルは小さな島にしてはかなりの大きさだ、それが貸切になると言うのはさぞ大きなイベントなのだろう。
夏美はどんなイベントなのかほんの少しだけ気になっていた。


「そろそろ飯にしよう」
徐々に日が傾きだした為、ギロロは夕飯の支度を始めた。
「ホテルの水場にまな板の置ける場所があったから食材切ってくるわね」
夏美は食材や道具を袋に入れると肩にかけた。
「頼む、俺達は飯盒でご飯を炊くとしよう」
ギロロは鉄板の上に薪を置くと起用に火をつけた。
どうやらここは直火禁止らしい。
「春日、ついてきて」
「は〜い」
夏美は再び春日を連れてホテルへと向かった。



ホテルの水場で食材を切っていた夏美はホテルの通路に大勢の人影を見つけた。
「あの人達がホテルを貸切にしてイベントしてるのね…って、人間じゃないじゃない!宇宙人?…って、あれは!」
「ボケガエルとモアちゃん!!」
何とホテルを借り切っていたのは宇宙人だったのだ。
そして夏美はその中にケロロとモアの姿を見つけたのである。

夏美の声にケロロも気が付いたらしい。
何とも緊張感のない何時もの声で目を丸くしている。
「あれ〜?見た事ある姿だと思ったら夏美殿と春日殿であります…どうしてこんな処にいるんでありますか?」
「って言うか、吃驚仰天?」
「それはこっちのセリフよ」
予想外の事態に目を丸くしている夏美にケロロは理由を説明した。
「我輩達はこのホテルで開催されている『宇宙えすえふ大会』に参加しているのであります。夏美殿にも言っていた筈であります」
「聞いているけどまさかこんなところでやってるなんて知らなかったわよ」
夏美は大きく溜息を吐いた。

ケロロは気にせず『宇宙えすえふ大会』と言うイベントについても説明を加えた。
「『宇宙えすえふ大会』はそれぞれの星が当番になって合宿形式で行われる趣味の大会なのであります」
「今年はちょうど地球が会場なのでありますよ」
どうやら毎年、開催する星を変えながら行われるイベントのようだ。

「そ、そうだったんだ…ところで『えすえふ』ってやっぱり『サイエンスフィクション』の事?」
勿論普通なら夏美の言う通りなのであるがそこは宇宙的『えすえふ』…どうやら違うらしい。
ケロロは『えすえふ』についても説明を始めた。
「ノノノノ、違うであります『凄いファン』の略であります」
「すごい?ファン?」
「さよう、互いに自分が一番と自負するマニアたちが集まって互いの趣味について熱く語り合う大会なのであります」
「我輩、ガンプラマニアの一人として参加させてもらっているのであります」
言われてみればガンダムか何か夏美にはよく解らないがケロロは何かコスプレをしている。
「ガンプラマニア〜?」
「おじさまはガンプラおたくでは宇宙的に有名なんですよ…って言うか模型職人?」
よく見るとモアも何やらコスプレをしているようだ。

「馬鹿馬鹿しい…いいことボケガエル、あたし達は浜辺でキャンプしてるんだから邪魔だけはしないでね!行こ、春日」
「は〜い、ケロロおじさんバイバイ」
春日がケロロに向かってバイバイと手を振っている。
夏美はそんな春日の手を掴むとテントのある浜辺へと戻って行った。

「…お、おい、あれ『日向夏美』じゃないか?」
「ああ、間違いない…横に居るのは長女の『春日ちゃん』だよ」
通路にいた宇宙人の何人かが夏美に気付いたらしい。
「おじさま、あの人達は」
「あちゃ〜、であります」
モアがその事に気付くとケロロは何やら頭を抱えていた。


「ただいま〜」
「何だ?遅かったな」
「それがさ〜」
帰りが少し遅くなった事を心配しているギロロに夏美はホテルでの事を説明した。
「ケロロ?こんなところでイベントしてたのか」
「そうよ、でも今回あたし達は無関係なんだし、こっちはこっちで家族旅行を楽しみましょ!」
「そうだな」
「それじゃちょっと待ってね、すぐ料理するから」
「みんなで協力して作るとしよう」
夏美は気を取り直すと料理の準備を始めた。
ギロロと子供達もそれぞれ手伝いながら家族だんらんの食事をし、一日が終わっていった……



次の日の朝
目を覚ました夏美達がテントから出ると少し離れたところでまるでテントを囲むかのように宇宙人達が並んでいる。
「な、何よ、この人達…」
「何だ?貴様ら」
「ちょ、ちょっとギロロ、待つであります」
驚いたギロロが銃を転送させると慌ててケロロが飛び出してきた。

「…我輩は止めたであります」
「ボケガエル!これどういう事?」
夏美の問いにケロロはこの宇宙人達が今回の『えすえふ大会』に宇宙TVで放送されていた
「ギロ夏TV」や「奥さまは地球人」のファンとして参加しているのだと説明した。
「会場が地球って事で『宇宙えすえふ大会』参加者に『ギロ夏TV』や『奥さまは地球人』のマニアがたくさん参加していて…」
「そのうちの何人かが昨日夏美殿の姿を見つけてしまったのであります」
「…で、就寝中はご迷惑なので目を覚ましたら分科会に参加してもらおうとお願いに来たらしいのであります」
ケロロの言葉に後ろで待機している宇宙人達は嬉しそうに頷いている。

夏美は頭を抱えながら大きな溜息を吐いた。
「あたし達は家族旅行中なんだけど…」
「我輩は止めたであります」
「もし無理ならそっと陰から家族旅行を見学させてほしいそうであります」
「見学?見学ねえ……まあいいわ」
「いいのか?夏美」
「しょうがないじゃない、どうせダメって言ってもホテルに居るんだし……こうなったら無視して家族旅行の続きをしましょ」
「そうだな」
ギロロも溜息を吐くと小さく頷いた。
「じゃ、O.K.でありますか?」
「ええ…ただしあたし達の目に触れないように遠くからだからね!」
こうしてギロロ達の家族旅行は遠くからではあるが宇宙人の見学付となったのである。

「でも『奥さまは地球人』だってかなり前の番組だろ?今になってもこんなにファンがいるのか?」
「あたしにそんなこと聞かれたって知らないわよ」
ヒソヒソと内緒話をしている二人は知らなかった……

再放送とスペシャルで人気が再燃した『ギロ夏TV』と『奥さまは地球人』
実はこっそりと続編が製作されていた事を……




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