冬色の宇宙(短編集)その4

□待ちわびて…
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待ちわびて……


今回は恋愛前のお話です。


「もういい加減にしてよ!」
「禁止!禁止だからね!!」
ここ最近日向家では夏美が大荒れに荒れていた。
機嫌の悪い夏美は何かとすぐ禁止する、そのとばっちりを受ける形になった冬樹とケロロはぐったりしている。
「あたしその辺散歩してくるから…冬樹は食事当番、ボケガエルはお風呂場のお掃除ちゃんとやっておくのよ!!」
「でないとオカルトもガンプラも一切禁止するからね!いいわね!!」
いささかヒステリックに叫ぶと夏美は玄関から出ていった。


大荒れの夏美にケロロも冬樹もよくある事とはいえ少々困惑気味だ。
「夏美殿はいったいどうしたっていうんでありますか?このところ何時にも増してご機嫌ななめであります」
「僕にもよく解らないよ……そうだ、もしかしたら伍長が居ないからかも」
現在ギロロは軍本部直々の命令で地球を離れている、冬樹はそれが夏美の不機嫌の原因だと言い出した。
「ギロロが?ギロロがいないからってどうして夏美殿の機嫌が悪くなるのでありますか?」
冬樹の言葉にケロロは首を傾げている、夏美の不機嫌とギロロがどうにも結びつかないからだ。

そんなケロロに冬樹は昨日自分が目にした光景を伝えた。
「だって姉ちゃんの機嫌が悪くなったのってちょうど伍長が出張とかで出かけてからだよ、それに昨日なんか伍長のテント前で溜息吐いてたんだ」

「ギロロの奴、何か夏美殿を怒らせるような事したのでありますか?」
「そんな事わかんないけど……ねえ軍曹、伍長はまだ帰ってこられないの?」
そんな冬樹の質問にケロロは今回ケロン軍本部からギロロに与えられた任務について説明した。
「今回ギロロの奴は本部直々の命令で、ある星の内戦終結後の治安維持活動に参加しているのであります」
「治安維持活動?」
ケロロは頷くと小さな溜息を吐いた。
「宇宙条約加盟星としてのお付き合いでありますよ」
「任期は地球時間で半月くらいの予定であります、任期が過ぎれば後任とバトンタッチして帰って来る筈であります」
ケロロの話ではギロロの任務はおよそ半月で終わる短い物らしい、それでも出かけてからまだ数日しか経っていない。
「それじゃ、もし不機嫌の原因が伍長だとしたら」
「帰って来るまでまだ1週間以上あるのであります」
「え〜、まだ1週間以上もあるの〜?」
「……で、あります」
二人は大きな溜息を吐くとそれぞれの当番を果たすべくリビングを後にした。



その頃夏美は日向家の近くにある丘の上の公園に来ていた。
特に理由などない、ただなんとなく足が向いていたにすぎないが公園独特の穏やかな雰囲気は夏美のイライラを確実に鎮めていった。
「あんなに大きな声で怒鳴ったりして……冬樹やボケガエルに悪いことしちゃった」
「あたしったらどうしてこんなにイライラしているんだろ……」
夏美自身どうしてあんなにヒステリックになってしまったのか解らないようだ。
気を落とし反省すると大きく溜息を吐いた。


そんな夏美が何気なく公園のベンチに目を向けるとそこには一人の老婆が座っていた。
「あれ?あのおばあちゃんっていつもこの公園で見るけど……」
その光景は夏美にとっていつもの光景だった。
いつもそのベンチに老婆は腰を掛けじっと空を眺めている。
それは夏美がこの町に越してきた時からずっと……
まるでベンチのオブジェか何かの様に老婆はそこにいるのだ。
いつもなら気にも留めない日常の風景の筈だが、なぜか今日の夏美は老婆の存在が無性に気になっていた。

「あら夏美ちゃん、こんなところでどうしたの?」
そんなとき夏美に声をかける者がいた、ご近所に住む主婦だ。
いつも姉弟二人で留守番をしている夏美と冬樹を何かと気にかけてくれている優しい女性である。
「あ、こんにちは」
「今日はお買い物には行かないのね」
「今日は冬樹が当番だから」
「それじゃお散歩ってとこね」
「そんなとこです……そうだ、あの……」
「え?なに?」
この女性は子供の頃からこの町で暮らしている、夏美はベンチに腰掛けている老婆について尋ねることにした。


「ああ、あの人ね、あの人はこの先のお屋敷の人よ、家族はみんな亡くなって今ではお屋敷に一人暮らしなの」
ご近所に住む女性は老婆について夏美にいろいろ教えてくれた。
「あの人は毎日この公園に来るわ、それこそ朝から夕方まで…あたしも母から聞いたんだけどもう50年以上になるそうよ」
主婦の話ではもう50年以上も公園に通っているらしい。
「50…年?毎日?お散歩かなんかですか?」
「待っているんですって」
「待っている?何を?」
「私は詳しく知らないけど、どうやら人を待っているらしいわ」
「人を?」
「あらやだもうこんな時間、ごめんね夏美ちゃん」
どうやら買い物の途中だったらしい、主婦は夏美に軽く手を上げて詫びると慌てて公園から出て行った。
「呼び止めてすみませんでした」
「待っている?誰を?……あ、」
手をあげて女性を見送った夏美が再びベンチに目をやるともうそこに老婆の姿は見られなかった。
「……いない」
辺りを見回してもその姿は無い、夏美は小さく息を吐くと家路についた。
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