秋色の空(恋愛編)

□どこまでも、いつまでも…(全年齢)
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このお話は秋色の空「宇宙いっぱいに幸せを後編」直後のお話です。



「あ〜さっぱりした…なにこれ?いい匂い」
シャワーを浴びた夏美はバスローブ一枚で現れると部屋に漂う美味しそうな匂いに目を輝かせた。
「お前が挙式中、殆ど食べ物を口にしなかったからと西澤桃華が用意してくれた」
ギロロは夏美にそう説明するとテーブルの上に並べられた食器のふたを開けていった。

ここは西澤家の所有する…と、いうより西澤桃華の所有するホテルの一室。


6月某日…
ギロロと夏美は今日、このホテルからほど近い高原のチャペルで結婚式を挙げた。
侵略しようとした星の男と侵略されそうになった星の女が姿形、立場の違いを乗り越え共に生きていく事を誓ったのだ。

敵性種族という垣根を越えた二人の結婚は異形の者であふれている宇宙で大きな共感を生み
更にケロロの制作した宇宙TV番組も人気を呼んだ為
高原のチャペルは二人の結婚式を一目見ようとする宇宙人達で大賑わいとなったのである。

披露宴はこのホテルで行われたが、その様子も宇宙TVによって中継され
ホテルの周りやチャペルのある高原などではそれを祝う宇宙人達によってまるでお祭りのごとき賑やかさであったようだ。
今はそんな騒ぎも一段落し、ほとんどの宇宙人は会場である高原を離れ、高原は元の静けさを取り戻していた。

そのような事もあり
結婚式での予想外の大騒ぎに当人であるギロロも夏美も少々疲れ気味であった。
二人の様子を心配した秋はホテルに用意しておいた部屋に早めに通してもらえるよう桃華に願い出たのである。

「ボケガエル達はまだ騒いでるのかしら?」
「おそらく今日も夜通し騒ぎ続けるつもりだろう」
前日から騒いでいたケロロ達であったが披露宴でもハイテンションであった。
早めに切り上げたギロロと夏美をよそに二次会、三次会と盛り上がっているらしい。
「呆れた」
「まあそういうな、あいつにしてみれば侵略なしで地球に残る事が出来たのが何より嬉しいのだ」
「あたしも嬉しいけどね」
「俺もだ」
「ふふ…」
「はは…」
結婚式前日に公布された辞令により
地球侵略は凍結、ギロロ達ケロロ小隊は幼い地球を『警備、保護、育成』する為の先行部隊として地球に留まる事になったのである。
今までと何も変わらない…いや侵略する立場とそれを阻止する立場で無くなっただけ幸せな辞令の交付だったと言えよう。
ギロロと夏美は幸せを噛み締めるように微笑みあった。


「そんな事より食べんのか?冷めてしまうぞ」
「あ、食べる食べる…お腹すいちゃったもん」
思い出したようにギロロが食事を勧めると夏美は猛烈な勢いで料理を口にし始めた。
「すご〜い、なにこれ…美味いじゃない」
よほど料理が美味しかったのであろう、夏美は次から次へと料理を口に入れた。

「それにしても美味しそうに食べるな」
「だって披露宴じゃ何にも食べられなかったんだもん」
感心するギロロを見て夏美は顔を少し赤らめた。
「具合が悪かったのか?」
「馬鹿ね、そうじゃないわよ…胸がいっぱいで食べ物がのどを通らなかったの」
体調を心配するギロロに夏美は食べ物を口にする事が出来なかった訳が体調のせいではない事を説明した。
「だって知らない宇宙人の人達があんなにいっぱいあたし達の結婚をお祝いしてくれるなんて考えてもいなかったから…」
「あたし…嬉しくて…あ、やだ…また涙が」
夏美の瞳からまた涙があふれ始めた、ギロロは近くにあったタオルを取ると夏美の頬に当てた。
「涙を拭け、折角の料理が塩からくなるぞ」
「…んもう、意地悪ね」
「すまんな」
笑顔で文句を言う夏美にギロロも笑顔で詫びを入れた。


「そういえばギロロだってあんまり食べてなかったじゃないの」
料理を口に入れながら夏美はギロロもまた披露宴の最中、あまり食事をしていない事を思い出した。
「い、いや…俺は元々それほど…」
「…スマン、俺も実は少々感動して食べ物がのどを通らなかったのだ」
ギロロもまた胸がいっぱいで食事がのどを通らなかったのだ。

その事を知った夏美は料理を一つ取るとギロロの口元に近付けた。
「やっぱり〜、じゃギロロ『あ〜ん』…」
「な、夏美…それは」
照れて顔を真っ赤にするギロロに夏美は笑顔で頷いた。
「いいじゃないの、今ここは二人だけなんだからさ…遠慮する事無いわよ」
「そ、そうだな…あ〜ん」
夏美の言葉に納得するとギロロは照れ臭そうに顔を真っ赤にして口を開けた。

「ふふ…美味しい?」
夏美はそんなギロロの口に静かに料理を入れると満面の笑みで尋ねた。
「あ、ああ…夢の様だ」
ギロロは嬉しそうに頷いた。
「夢じゃないわ、あたしはあんたのお嫁さんになったの…」
「でもってギロロはあたしのだんな様…あ、そうだ」
とろけそうになってるギロロの顔を満足げに見ていた夏美は急に何か思い出したらしく立ち上がると姿勢を正し始めた。
「?」
「えっと…えっとねギロロ…」
首を傾げるギロロの前で夏美は何やらもじもじし始め、やがてギロロに対し深く頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします」

「???」
突然の事に目を丸くしているギロロを見て顔を真っ赤にすると夏美は少し文句を言いながら訳を話し始めた。
「んもう、そんな目で見ないでよ…恥ずかしいんだから」
「…ママがね『ちゃんとけじめをつけなさい』って言うから」
結婚式当日、寝ている夏美の枕元に置かれた母親『秋』からの手紙にはこう書かれていた…

『おそらく結婚式を挙げてもあなたの生活はそんなに変わるものではないでしょう』
『地球から出る事もなく、苗字も変わらず、このままこの家で暮らすのだから…』

『でも夏美、だからこそけじめをつけなさい』
『あなたは今日からギロロさんのお嫁さんなの』
『今日、結婚式が終わって二人だけになったら「宜しくお願いします」ってちゃんと言うのよ』
『三つ指つけなんて言わない』
『でもはっきり言いなさい、「お願いします」ってね…』
『あなた自身のけじめの為にね』


夏美から秋の書いた手紙の内容を聞かされたギロロは静かに目を閉じると
自分も立ち上がり姿勢を正して夏美に深く頭を下げた。
「そうか…秋らしいな、いや夏美…俺の方こそふつつか者だがよろしく頼む」

「あ、それそれ…その『ふつつかもの』って言うの忘れちゃった」
ギロロの言葉に夏美は忘れていた言葉を思い出したらしく嬉しそうに笑うと再び深く頭を下げ始めた。
「ふ、ふつつか…ものですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
ギロロもまた頭を下げた。

「ひゃあ〜言っちゃった〜…やっぱり恥ずかしいわね、これ」
夏美が照れ臭そうに顔を真っ赤にして笑っている。
「まさか夏美が言うとは思わなかった」
「なによ失礼ね、まったく」
「はは…」
「ふふ…」
互いに笑いながら席に着くと二人は再び料理を口にし始めた。
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