跡ジロ

□あたたかい君、気持ち
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いつもの土曜日。
今日は部活はないから、ゆっくり寝ててもいいはず。っていうかいつもは寝てる。
なのにオレは早く目が覚めた。
こんなのって珍しいなぁ。
何もすることがなくて、でもぼーっとしてるのはやだな。

そんなことを考えてオレは家を出た。
別にどこに行こうとかは考えてなくて、足が無意識に向かうのは大好きな彼の家。

大きな門の前に立つといつもちょっとだけ圧倒される。
チャイムを押そう。
そう思って手をのばす。

押してもきっと跡部本人は出ないんだろうなぁ、なんて思った。

後数センチ。


「慈郎」


突然聞こえたのは聞き慣れた跡部の声。
それに驚いてオレの指は止まった。


「何やってんだ?こんな時間に」
「跡部に会いに来たんだよ。
目が覚めちゃったから」


あぁ、やっぱり跡部だなぁ。
ジャージを着ているのを見ると、どうやら朝のランニングの帰りのよう。
いつだって頑張ってる跡部はカッコイイ。
本人には言わないけどね。


「お前、朝食ってないだろ?」
「あー、そういえばお腹空いたなあ」


全然気にしてなかった。跡部に会ったら安心して急にお腹空いてきたな。

跡部が急にため息をついてオレを引っ張った。
お腹が空いててオレの体は少しヨロッてした。
気付いたら跡部の腕の中。


「ちゃんと食ってから来い。
心配すんだろ」


あったかいなあ。
今まで走ってたからかなあ。

オレは時々跡部はオレよりオレのことを理解してるんじゃないかなって思うんだ。


「しょうがねぇな」


跡部がオレの体から離れた。少し寂しい。
でも手は繋いだまま。
そのままオレ達は門をくぐった。


見慣れた跡部の部屋に来て、置かれているテーブルの上に温かそうな料理が運ばれてきた。
跡部が食べろ、って言ってくれてオレはフォークに手をのばした。


「おいしいね、あったかいよ。
跡部みたいに」


ホントのことを言ったら跡部は不思議そうな顔をして、それでも笑ってくれた。
そのすっごい優しそうな笑顔を知っているのはオレだけなんだね。

いつも不機嫌そうな顔してるけどホントはそんなんじゃないってこともきっとオレだけだね知ってるのは。


「跡部ぇ」


座ったまま手を伸ばせばこっちまで来てギュッって抱きしめてくれる。
やっぱり料理よりも、何よりも、跡部が1番あったかいね。


「ごめんね、こんな時間に」
「そんなこと気にすんじゃねぇって」


抱きしめられてるから耳元で跡部の声がよく響く。
心地のいい低音。


「俺だって慈郎に会いたかった」


跡部って言葉でオレを殺せるんじゃないかな。
そんなこと言われたら心臓が持たないよ。
心拍数があがる。
心臓のドクドクって音が跡部に聞こえちゃいそう。
とめようと思ってもとまらないドキドキが、跡部にばれませんように。


「慈郎」


名前を呼ばれて絡まる視線。
オレの目は自然に閉じて、唇に感じた柔らかさ。

キスは好き。

跡部が柔らかく、深く、緩急をつけてしてくれるキスは。

目の前がくるくるってなっていつも跡部にもたれ掛かるっていうパターン。


「もっと、ちょうだい?」
「ホントキス好きだな」


オレが何か言う前に降ってくるキス。
跡部がしてくれるから好きなんだよって言おうかな?


「跡部、」


体に力が入らないよ、って言おうと思ったら跡部に抱き上げられた。
跡部は室内の内線電話に手を伸ばして、食器を片付けるように言った。
それでオレを抱えたままドアの向こうのベッドルームへ。

跡部ん家は部屋の中が別れてる。部屋の中なのにドアがあるのはおかしな感覚だね。


跡部はゆっくりとオレをベッドにおろした。

キスされて、この後のことは容易に想像できるよ。


「まだ朝だよ跡部」
「食後の運動だ」



後で跡部ん家に泊まるって連絡入れようかな。


そんなオレの思考は襲ってきた快感で途切れた。

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