跡ジロ

□5月5日。
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慈郎の誕生日。

自宅まで慈郎を迎えに行った跡部は慈郎の母親に明日には帰しますから、と挨拶をした。
慈郎の母親は何なら連休明けでもいいのよ、と言い笑った。
跡部は前に慈郎が理解の良すぎる親も困りものだと言っていたのを思い出した。
そんな慈郎の母親に返す言葉が見つからずどうしようかと思案していたら階段をドタドタと落ちるような足音が聞こえた。

「跡部っ!」

一瞬とびつこうと思ったらしい慈郎だが、母親の姿を目に留め止める。

「行ってきます」

丁寧に挨拶を済ませ慈郎は跡部と家を出た。


もうすぐ夜になる。
慈郎の家の近くは氷帝学園の生徒がよく通る。
だが今日は休日でしかももうすぐ夜なので人影はない。
跡部は迷う事なく慈郎の手を取った。

「跡部、どこ行くの?」
「一流レストランだ。
今夜はディナーだぜ」

慈郎の顔が輝き嬉しそうに跡部の手を強く握り返した。

跡部が連れてきたのは一般庶民なら絶対にお世話にならないであろう大きなホテルのようなレストラン。
しかも貸し切り。

「跡部ここ入るの?」
「ああ」

跡部はそう言うと何も気にすることなく普通に店内に足を踏み入れた。
中で跡部だ、と一言告げると係りの人が二人を案内した。

エレベーターで最上階へ上る。
エレベーターの窓から外を見ると綺麗な東京の夜景。
慈郎はエレベーターが嫌いなのだが夜景に夢中で恐怖を忘れているようでいつの間にか最上階に着いていて驚いた。

「すっげー」

最上階とあって広く床には赤いカーペット。
壁は全て窓になっている。
「ぼーっとしてねぇで席着けよ。前菜運ばれてくっから」
「はーい」

頷いたものの慈郎はまだキョロキョロしている。
跡部は仕方ないとため息をつき慈郎を引っ張った。


「いただきます」

他愛のない話をする。
明日はパーティーだ、とか今頃みんな何をしているんだろうとか。

5月5日は休日だ。
慈郎への誕生日プレゼントを氷帝の生徒が渡したのは連休に入る前。
家族からは慈郎が明日でいいと断った。
部活の仲間からは明日に予定されているパーティーで受け取ることになっている。
よって今日この日、プレゼントを渡すのは、渡すことが出来るのは、今慈郎の目の前に座っている跡部だけだ。

「ごちそうさまでした!」

食器がさげられおいしかった、と慈郎は笑う。

満足そうな慈郎に優しい笑みを向け跡部は何かを取り出した。

「慈郎」
「なに?」


「誕生日おめでとう」


その言葉と同時にプレゼントを渡す。

「ありがとう」

慈郎は心の底から嬉しそうな表情を浮かべ開けてもいい?と問い掛ける。
跡部が頷くと渡されたそれを開ける。

そこには一つの指輪。

「貸してみろ」

慈郎が跡部に手渡すと跡部は慈郎の左手をとった。

指輪を薬指に嵌める。


「ずっと、一緒にいよう」


跡部からの言葉に慈郎は目に涙を浮かべる。

「跡部」

慈郎は薬指に嵌められた指輪を大切そうに胸に抱いた。

「何があるかわかんねぇけど、慈郎を手放したりしない」
「うん、オレ、ずっと一緒にいたい」

それを聞くと跡部は立ち上がり反対側に座る慈郎の隣へ来る。
手を慈郎に差し延べた。
慈郎はその手をとり立ち上がる。

自然に唇を重ねた。


「なんか、誓いのキスみたい」

照れ隠しに慈郎はそう言った。

「ああ、じゃあ結婚式を挙げよう」

平然と言い切った跡部に慈郎は目を丸くして驚いた後ギュッと跡部に抱き着いた。

「跡部、好き大好き」

突然の告白。
跡部は綺麗に微笑んだ。

「愛してるぜ、慈郎」

抱きしめ返した後もう一度キスをした。


「おめでとう」


耳元で囁かれ慈郎は顔を赤くした。

「オレ、幸せ者だね」
「まだまだ幸せにしてやるよ」

照れたように慈郎は笑い少し背伸びして自分から跡部にキスをした。





5.5 芥川慈郎
happy happy birthday!

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