跡ジロ

□愛しているのは君だけだから
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跡部のベッドの上に散乱する手紙。
それは跡部宛てであったり慈郎宛てであったり。
前者である場合すべてが愛の言葉。
後者の場合それだけではない。

慈郎の指に巻かれた絆創膏。
右手が痛々しい。


跡部はその指に顔をしかめるが慈郎は至って気にした様子はなく、跡部宛ての手紙を読む。

「慈郎」
「んー、何?どうかした?」

その指、そう言いかけたが慈郎によって遮られた。


「ずっとあなたが好きでした」


無造作に開いたいわゆるラブレター。
慈郎はその一文を読んだ。
跡部はそれを見て慈郎宛てにきた手紙を開こうとする。

「やめたほうがいーよ」

封切るとこにカッターの刃がついてることあるから、と慈郎はさも当たり前のように言った。
それを聞き跡部は手を止めた。

「だったらお前も人の手紙見るの止めろ読むな」

跡部がそう言うが慈郎は聞こうとしない。

「あー、これもだ。好きです」

慈郎は楽しそうに読んでいるが目が笑っていない。
跡部はため息をつく。
そして慈郎の手から手紙を奪い取る。

「わかってんだろ?」

そっと慈郎の傷付いた右手をとる。
それを大切そうに撫で言う。


「俺が好きなのは慈郎だけだ」


「うん」


わかってるんだけどね、慈郎は小さく呟いた。


「ごめん。跡部がモテるのに嫉妬した。今に始まったことじゃないのにね」
「それ、嫌がらせ増えたからじゃねぇ?」


跡部は慈郎に謝られたことを気にしてはいない。

嫉妬してくれるのは嬉しいのだけれど。

もっと自分を大事にして欲しいと思う。


「そーかも。でもさ、コノ傷って勲章だと思わない?」

意味がわからず訝しげな表情の跡部にわかるよう説明する。

「要するに、女の子たちは跡部と一緒にいるオレが気に食わないわけでしょ?
それってオレが跡部のそばにいるんだって認めてることにならない?」
「お前ってこういうとこ頭いいよな」


確かにそういう解釈は客観的に見れば正しい。

だが跡部は納得がいかない。


「だが慈郎、お前は当事者だろうが。
もっと痛がれ」
「だって、跡部のそばにいるってこういうことでしょ?」


元からわかっていたとでも言いたいような口調。
でもそれは誰を責めるわけでもなく。
その諦めたような口調がいけなかった。

「慈郎、これだけじゃねぇだろ?」

跡部はそう言ってとったままの慈郎の手を目の前に持ってくる。
すると着ていたブレザーの袖を捲くりあげた。

慈郎の腕には無数の痣。
明らかに誰かに故意に付けられたものだ。
これだけの痣を残すことは女子の力では無理だ。
ということは。


「何があった。平部員のやつらからだな?」
「ばれちゃった?大丈夫。
ただのやっかみ。ホント、幼稚なんだから。
テニスで敵わないからって腕力で解決しようとしてさ。それでオレに勝てるようになるわけでもなんでもないのに。暴力で人を」
「もういい!止めろ慈郎」


跡部が悲痛な声をあげて慈郎の言葉を遮った。

そのまま慈郎を強く抱きしめる。


「跡部?」
「慈郎、もうこんなことさせねぇから。
何してでもお前を守って見せるから。
だから、

もう泣くな」


その言葉に慈郎は驚いた。

泣いているはずなんてない。

そっと自分の頬に手をのばす。
そこには温かな雫。


「あ、れ?なんで…」


跡部は更に抱きしめる腕の力を強める。


「いいから、慈郎。
ずっと我慢してたんだろう?」
「あ、とべ。
跡部、跡部ぇ」

慈郎はギュッと跡部に抱きつく。

「好きだよ跡部、大好きなの。跡部しかイラナイ」


それを聞くと跡部はベッドの上の手紙を無造作に下へ落とした。

「俺だってそう思ってる。慈郎がいてくれれば何もいらねぇ」


そのまま抱き合って、手紙を庭で燃やそうかという話をしたら慈郎がようやく笑った。


「慈郎、頼むからもう傷は作ってくるな。心臓に悪い」
「なるべく頑張るよ」

そう言うと跡部に軽く睨まれたので訂正。

「もうしないから。呼び出しも無視するから」
「だったら俺も無視する」

慈郎はえ?という顔をする。
それは女の子からの愛の告白のはず。


「だって慈郎が嫌だろ?」


絶妙なタイミングで慈郎の疑問を打ち破った張本人は満足そうに笑った。
慈郎の方はその意味が理解できると幸せそうな笑顔を浮かべる。


「そうだね嫌だよ」




愛しているのはキミだけだからどうか涙を拭いて下さい

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