跡ジロ

□春、別れ
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卒業式。
跡部が壇に立ち、卒業生代表として答辞を読む。
綺麗な透き通った声で文章が紡がれる。
この日は慈郎もしっかり起きていた。1番前の座席から跡部を見つめる目は真剣だ。

「卒業生代表、跡部景吾」

跡部は比較的ゆっくりとした動作で壇を下り慈郎の隣へ戻って来た。
進行の先生が卒業証書授与を伝えると慈郎は席を立ち壇上へ上がる。

「卒業証書授与、芥川慈郎」
「はい」

慈郎が読み上げられた証書を受け取ると、次の跡部と共に礼をした。
卒業式は簡素に終わった。その後レギュラーは示し合わせたわけでもなく部室に集まる。

「やっぱ考えることは一緒だな」

宍戸はそう言い笑った。
そのとき、鳳の声が聞こえた。

「先輩たち、やっぱりここでしたか」
「鳳、どないしたん」

忍足がそう聞くと鳳は

「何言ってるんですか。卒業式のあとテニス部で送別会開くんで音楽室に来て下さいって伝えました」

その言葉を聞いた岳人の顔が青くなった。

「ね、向日先輩」
「あ、はは。まぁ気にすんな」

忘れていたらしい岳人の様子に皆呆れた表情を浮かべた。
鳳に連れられ送別会の会場へ向かう。
慈郎が口を開いた。

「あのさぁ、春休み。みんなでどっかでかけよ」

その言葉にみんな賛成を示した。

「じゃあ、俺海外がいい」

岳人の言葉に宍戸が反論した。

「そんな金ねーだろ」
「アーン?いつでもいけんだろ。海外なんて」

跡部がそう言うと他のメンバーは何も言えなくなった。
そんな中で忍足は冷静に突っ込んだ。

「それは跡部だけやろ」

会場に着くとクラッカーと卒業おめでとうございます、の声。

送別会は楽しかった。誰にとっても。

「そっか、長太郎たちとはこれで別れか」
「俺達は高等部に持ち上がりだからな」
「元気でやれよ」

別れるのは後輩と。卒業だからといってみんなと別れるわけではない。
けど、卒業式独特の雰囲気というものはあって。
少し流されるのも悪くないと思った恋人たち。

「慈郎、卒業おめでとう」
「跡部もおめでとう。オレ、熱海がいーな」

いきなり何を言い出すのかと思った跡部だがさっきの旅行の話しだと思い当たり返事をする。

「あぁ、いいぜ」

それを聞いていた回りのメンバーが口を挟む。

「ちょう待ってぇな」
「俺たちも連れてけよ」

慈郎は喜んで頷いたが跡部は少し不満そうだった。
また来年、自分も卒業し高等部に上がればまたこんな光景を見ることができるんだろうな、と思い鳳は笑った。

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