novel

□月の星夜、星の月夜
2ページ/8ページ

店も終わって、姉妹水入らずにしてくれたのはオーナーの心の広さと、レティーの店への貢献度の表れだろう。

「ほんっとなの?」
レティーはかみ付くような勢いで椅子から立ち上がり、ソフィーの目の前まで顔を近づけて尋ねる。
「ほんとよ」
ソフィーは簡潔に答えた。
レティーは、はあ〜っと大きなため息をつきながら椅子にどさっと座りなおした。
「…予想外だったわ…」
額に手をあてて、天井を仰ぐレティーにソフィーはおずおずと聞く。
「…レティーは私がハウルと結婚するの、反対なの?今まではそんなこと言ってなかったじゃない」
「今までは、単なるお付き合い。恋人でしょ?恋の相手なんて、いくらでもとっかえれるじゃないの。恋愛なんていくらでも経験したほうがいいし、それはそれ、これはこれよ」
自分といくつも違わないレティーのあっけらかんとした恋愛観にソフィーはただ聞いているしかない。
「そりゃあね、私もお姉ちゃんがハウルとうちに来た時から、いやな予感はしてたのよ」レティーは向かい合わせに座った小さなテーブルにひじをつく。
見た目がキレイで、かわいいレティーはそんな姿もさまになるわ…とわが妹ながらそう思う。
「ぱっと見の第一印象はね、ああ、お姉ちゃんこの人に騙されてるんだわーって思ったの」
「えっ!そうなの?」
何ヶ月か前、ハウルがソフィーの身内に挨拶したいとかなんだとか言って、レティーに一緒に会いにきた。
帽子屋のあの家が壊れたことやら、ソフィーがハウルの城で暮らすことになったことなど、一通り事務的に話して、そんなくらいだったのだけど。
その時にはまあなんとなくレティーには伝わっていて、その後ソフィーと何度か会って話す中で、ハウルとのことは筒抜けというか、よく…相談しているけど。
でも第一印象が「だまされてる」だとは想わなかった。
「だって、あの人、絶対に遊び人だもの!」
レティーは断言する。
「…う…。まあ否定はしないけど…」
ソフィーもハウルがマジメで勤勉で…などとはちょっとフォローしづらい。
「ハウルが心臓を食べるだのなんだのっていうウワサより、人としてどうなのかって部分ばっかり見てみたのよね。そしたらあの人にとってお姉ちゃんのことはきっと遊びなんだろうなと思えたのよ。ちょっと珍しい季節はずれの蝶を見つけたようなものなんだろうって。」
「…蝶っていうのはちょっと私には…」
「でもね、お姉ちゃんを見てたら、ああ違うのかもって思ったのよ」
「…どうして?」
「だって、私のお姉ちゃんがよ?無垢で純粋でまっさらで、私が恋なんてって思ってたお姉ちゃんが、好きになった人なのよ?お姉ちゃんがハウルのことを話す顔見てたら、これはね、ちょっとお年頃でとか、恋に恋してとか、見た目が素敵だからとか、ちょっとぽおっとなってますっていうようなそういうちょっとした恋なんじゃなくて、運命の人にめぐり合ってしまったんだわって思ったの…」
「…運命…」
「それなら、私はお姉ちゃんを応援しよう、お姉ちゃんだってどんどん恋に落ちていって、恋に溺れることだって、お姉ちゃんには必要だって思ったわけだけれど…。でも!結婚までいたるとは思ってなかったのよ、私!」
「うーん…よくわからないなあ…どうして恋ならよくて結婚ならだめなの?」
ヒートアップする妹だが、レティーにはレティーの恋愛論みたいなものがあるらしい。
ここは素直に拝聴したほうがいいと、ソフィーも覚悟する。
「だって、結婚よ?結婚したら、その人と一生一緒にいるって約束するのよ?子どもだってできるわ。結婚にはね、“責任”ってものが付いてくるの!」
「…わかってるつもりよ?」
「あの人、そのへんわかってるの?お姉ちゃんをまるごとそのまま背負ってくことできるのかしら?」
レティーってこんなふうに考える子だったかしらと頼もしいような気持ちになる。
この子はこの子でしっかりした考えを持っているんだわ、いつの間に…と母親のような気分でいきまくレティーを見た。
「…私が見る限り、あの人は絶対浮気するわ」
「ハウルは浮気はしないわ」
これだけはきっぱり否定する。
レティーは姉のこの自信はどこからくるのかと思ってしまった。
でも、きっとそれは、ソフィーがちゃんと真実の愛で満たされているから出てくる言葉なのだろう。
しかし、はいそうですかと引き下がれるものではない。
「お姉ちゃん、ハウルだってね、男なのよ。男なんて男なんて男なんてね、ほんっとーに仕方ない生き物なんだから!」
「それおばあちゃんにも言われたわ。でもハウルは大丈夫よ」
くすくすと笑いながらソフィーは言う。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ