novel

□君に花束T
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「うーん…ダメだなあ…」
マルクルは朝一番にやってきた小さな女の子が持ち込んだ鉢植えを前に、あーでもないこーでもないと一人ブツブツ言っていた。
「どーしたんだい?」
元荒れ地の魔女、おばあちゃんがふと尋ねた。
「さっきのお客さんに頼まれたんだけどさー、これ、種をまく時期を間違えて、早く成長しすぎちゃってさ、そこにこのぽかぼか陽気で花が咲かなくなったみたいなんだ」
「そうみたいだねえ〜この時期にしたら育ち過ぎだね。その花はもう少し暑い時期に咲くからね」
知識の豊富さでは年寄りにはまだまだかなわない。

「それでさ、さっきから成長を戻すまじないを試してるんだけど…」
「そんなの簡単さ、ちょっとよこしてごらん」

マルクルは小さなテーブルの上に鉢植えを置いた。
緑の葉っぱが勢いよく茂っているが蕾一つ見当たらない。

「おばあちゃん、できるの?魔力なくなっちゃったんでしょ?」
「なあに、老いたりと言えどもこの荒地の魔女をなめるんじゃないよ。このくらいの魔法、まだまだあたしゃ現役だよ」
「ほんとー?」

少し離れたところからソフィーにも二人の会話が聞こえていた。
くすっと笑いながら花をし分けてバケツに入れていく。
まだ朝露に濡れた花々はどれもいきいきとしていた。
白いエプロンについた葉っぱを軽くはたいて立ち上がった…その時。

「えいやー☆♪♯*」
「あっ!ソフィー!あぶなーい!」

元荒他の魔女の手から放たれたしけた花火のような半端な青い閃光が、ふにゃらと曲がりソフィーめがけて飛んだ。

えっ?と思う間もなくその光はソフィーの体を包みこむ。

「…っ!」

ソフィーは思わず両腕で顔を覆った。



どのくらい時間がたったのか…一瞬とも永遠とも思える時間の後…
「…ソフィー?」
マルクルと元荒地の魔女がおそるおそる呼んだ…

二人の視線の先にいたのは……
思いも寄らないソフィーの姿だった…





ハウルはドアを開ける前に、ポケットの小さな箱をもう一度確かめた。
うん、箱にかけられたリボンも曲がっていない。
箱の中身は、細くて華奢な鎖のブレスレット。星屑を集めて作ったようなそれは、シンプルながらも上品に煌めいている。
もちろんソフィーへのプレゼントだ。
普段、アクセサリーなどほとんどつけないソフィーだけれど、こんなシンプルなものならつけてくれるだろう。
面倒な王宮からの呼び出しも、キングズベリーへこれを買いに行ったのだと思えば、イライラもわいてこない。
大切な大切なソフィー。

恋というものにオクテなのはわかっていた。
あの時は勇気をふりしぼってキスをくれたのだろう。
なにもかも僕のために。


初めての恋にどうしていいかとまどう君も、極端にキスに緊張してる君も、どんな君も大切で。
それは僕のことを君が好きな証拠。
急いだら、僕の腕の中に飛び込んで来てくれた君がまた心を閉ざしてしまいそうで。だから僕は待つんだ、君が恋に慣れるまで。
このブレスレットもそう。

つけ慣れていない君は、これをつけるのに少し苦労するだろう。
だから僕が君の手をとってつけてあげる。
触れ合う手に、近付く顔に、君はまた照れて顔を赤らめる。
そうして、一つ一つ君がその僕にまできこえてきそうな心臓のドキドキに慣れてくれればいいのだけれど。


リボンがまがらないように慎重に小箱をポケットに収め、ハウルは扉を開けた。

「ただいま、ソフィー」
いつもなら扉からあがる階段のところまできて迎えてくれるのに今日はそれがない。
「?…ソフィー?」
するとマルクルが困ったような顔ででてきた。
「ハウルさん…」
「マルクル、ソフィーは…」
「それが…」

ハウルが暖炉の部屋を見回した。彼の目にうつったのは、カルシファー、元荒地の魔女、マルクル、そして…小さな女の子。

「ソ、ソフィー?!」

呼び掛けると小さなソフィーは驚いたような、困ったような複雑な表情をした。

「どっ……、こっ……、ぼっ……」
「そんなに省略されてもなんだかわかりませんよ、ハウルさん」
「わかってやれよマルクル。『どうして、こんなすがたに?僕のソフィーが』だろ?ハウル」
こくこくこく、とハウルはうなづいた。
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