novel

□幸せは向日葵の向こうに
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「…思ってませんーーーっ」
ソフィーはやっぱり照れて近づいてきたハウルさんの顔をぐいいいいっと手で押し戻した。
かわいそうなハウルさん。
「…素直じゃないなあソフィーは」
ハウルさんはまったくこりてない…。
「マルクル、さっそく明日はマルクルの好きなものお弁当に入れるから、楽しみにしててね」
「うん!」

今日はソフィーのお弁当。
…じゃなくて、今日は学校だ!




「マルクル気を付けてね。ほんとについて行かなくて大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「マルクル、お弁当は持ったかい?」
「はい、ハウルさん。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
二人が花屋の前でそろって送り出してくれた。
なんだかちょっとくすぐったいような感じ。
ハウルさんもソフィーもぼくみたいな子供の「親」にしては若すぎるけど、やっぱり、ぼくの親代わりというか、「家族」で、なんか…すごく…嬉しい。

ソフィーが初めて城に来たころはこんな「未来」が待ってるなんて、ちっとも考えられなかった。
ソフィーにしたって、最初はすんごくおばあさんだったんだもん。
突然飛び込んできた不思議なおばあちゃん。
カルシファーを従えちゃうし、カカシにも好かれてて。

だけど今思えばこんな「未来」を予感させるものはたびたびあった。
ここまでの幸せまでは想像できなかったけれど。


あれは確か、ソフィーばあちゃんが城に来て、大掃除を始めて3日くらい。
城の中があらかた片付いた日のことだった。
ソフィーはたくさんの本を仕分けるのに、城にあった全部の本を居間に積み上げてた。
古くて汚い本は捨てちゃってもいいんじゃない?ってぼくが言うとソフィーはダメだと言った。
「マルクル、本はたくさんのことを教えてくれる先生なの。本は粗末にしてはいけないわ。きっといつか役に立つから」
そういって、一冊一冊表紙を確かめてはきれいに拭いて、仕分けていく。

珍しくハウルさんが城にいて、きれいになった居間の窓際の椅子に腰かけて、久しぶりに出てきた本を何冊か読んでいた。
ハウルさんをよそに、ソフィーとぼくはテーブルの周りに積み上げた本を次々ときれいにして分類していった。

ふと、ソフィーのてきぱきした手が止まった。
「この本、表紙に何も書いてないわね」
「ほんとだ。でもきれいな本だね」
「何の本かしら…」
と、ソフィーがぱらりと本を開いたとき、
本からポン!という音と小さな花火が出た!
「きゃっ!」
「わっ!」
続いてその本の開いたページから、わさわさわさと白い花が噴き出すように出てきたんだ。
本の上が花で埋まるとやっと花が出てくるのが止まった。

ソフィーとぼくはしばらく唖然としてしまった。
本から花が出てくるなんて。

「この本、魔法の本だったのかな」
ぼくは、魔法使いの弟子たるもの、このくらいのことで驚くもんかと気を取り直した。
そんなぼくをよそにソフィーは、本からこぼれて机に落ちた花を数本集めて、驚きつつも嬉しそうに言った。
「…きれいね、なんて素敵な本かしら」
ふと見ると、花を集めるその手はしわしわの手ではなくて、ほっそりしなやかなきれいな手…。
ぼくは、ソフィーを見上げた。

その顔は、おばあちゃんなソフィーじゃなくなってた。

若くてきれいな女の人…。
これが…ほんとのソフィー?
「ソフィー…いま…」
驚くぼくが見つめる先、ソフィーの後ろにハウルさんが見えた。
ハウルさんと目が合った。

本なんて読んでなかった。
ハウルさんはソフィーを見ていた。

ハウルさんは少し微笑んで、ぼくを見て人差し指を立ててゆっくり口にあてた。
しーっ、何も言うなというサイン。

ハウルさんは知ってたの?
ソフィーのほんとの姿も?
ソフィーには何か秘密があるって思ってたけど、これがそう?

「なあに?マルクル」
「う、ううん、なんでもない」
ぼくはあわてて首を振った。
「あっ、このお花、本から無くなったらだめよね?どうして戻したらいいの?」
そういってハウルさんを振り返ったソフィーはまた元のおばあちゃんになっていて。
ハウルさんはたった今、本から顔をあげた、みたいな顔で言う。
「別にいいよ。戻さなくて。また生えてくるだろうし」
「そういうものなの?じゃあ遠慮なくもらっちゃおうかな」
ソフィーはせっせと花を集めると、花瓶にさした。

もう一度見たハウルさんは、少し、せつなそうに見えた。
ぱたんと本を閉じると、でかけてくると言って、出て行った。

この時、ぼくはなんとなくわかったんだ。
ハウルさんの気持ちも、ソフィーのことも。
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