novel

□月の星夜、星の月夜
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「…みんなどうして反応が薄いんだ?」

ハウルはカルシファーにマルクル、元魔女、ヒンを前に当てがはずれたように言った。

暖炉のリビング兼ダイニングで、「家族」がテーブルに揃い、ハウルとソフィーはたった今、重大発表をしたばかりなのだ。

「僕たち結婚するよ」

と。
しかし。
驚きとか派手な祝福とかそういう熱い反応が返ってこない。

もしかして…結婚に反対…とか?

そんなまさかと思いながら二人は顔を見合わせた。
「…っていうか…まだそういう約束してなかったの?っていうか…そうでしょうともっていうか…ね、おばあちゃん?」
とマルクル。
「だねぇ…そうだろうねぇというか…特に驚かないよねぇ」
「それ以外どうするんだよって感じだよ」
さらにカルシファーも加わる。
それぞれに当然でしょ、とわかりきっていたような反応をする。
そんなふうに思われていたのね、とソフィーが顔を赤らめた。

「…でもとにかく、ソフィー、よかったねえ…」
とソフィーのいろいろを間近で見てきた恋の大先輩はやわらかく微笑んだ。
「…おばあちゃん、ありがとう」
あの時、思いっきり泣かせてくれるこの膝がなかったら、今の幸せはもう少し遠のいていたかもしれない。
ソフィーはおばあちゃんのしわのあるでもぷっくりとした手をそっと両手で握った。

「でももう少し驚くかと思ってたのにな。わが家族は驚きに鈍感なのか」
ハウルさんほどじゃない…とマルクルは思ったがあえて口に出さなかった。
「あっ!そしたら結婚式するんだよね!ご馳走いっぱいあるよね!」
「えっ?!結婚式?」
ソフィーは『結婚』ということばかりに気をとられていて『結婚式』なんて全然考えていなかった自分に気がついた。
自分がこの城に突然飛び込んできて、そのまま住み込んで、とんでもなくいろいろあって、ハウルだって最初は本当に他人だったのに、今ではかけがえのない人になっていて。
それに…実際のところ…いろいろすでに結ばれていたりする…。
そういう「変則的」な出会いや、恋だったものだから、『結婚するなら結婚式』という普通の“段取り”というのが、思いつかなかったのかもしれない。
「もちろん結婚式するさ。そうだな、僕は明日にでもしたいくらいだけど」
「えっ!明日?!」
それはいくらなんでも急じゃない?と驚くソフィーにマダムが援軍を出す。
「なーに言ってるんだい明日だなんて。ハウルももう少し乙女心を勉強しないとね。花嫁にはいろいろ準備ってもんがあるんだからねえ。そうだろ?ソフィー」
力強い援軍を得て、ソフィーも改めてそう思う。
「そうね…一生に一度のことだし」
“一生に一度”この言葉に「すぐにでも」と思っていたハウルはすぐにぽっきり折れた。
ソフィーはいつもキレイだしかわいいけれど、"一生に一度"の晴れ姿となれば、それはかなり…見たい。
「じゃあソフィーはいつがいい?」
ソフィーは少し考えて、
「…桜草の咲くころがいいわ」
と言った。
「桜草?わあ!もうすぐだね!結婚式だー!やったー!」
花屋でいろいろ覚えたマルクルはすぐにはしゃぎはじめた。
その時期は来月、花宵月の末ごろ、あと一月半といったところだった。
「なんだかずいぶん先のように思えるなあ…」
ハウルは若干不満げに言う。
「…だめ?」
「ソフィーがそうしたいならかまわないよ。そうしようよ」
「ありがとう、嬉しい」
ソフィーがとびきりの笑顔を向けたのでハウルの不満はすっかり消えてしまった。

「いい季節じゃないか。あたしは何を着ようかしらん?」
マダムはうっとりと宙を眺める。
「おばあちゃんも…ドレス着るの?」
マルクルは想像ができないらしい。
「当たり前じゃないか。こういうイベントはね、新しい出会いの宝庫なんだからね」「そ、そうなんだ…」
マダムの新しい出会いがあるかどうかは別として、喜んでくれている家族の姿に、二人はほほ笑みあった。


**********


「ええええええええっっっ!!!!!!」

耳をつんざく大絶叫の驚きが部屋の中に響き渡った。
「そ、そんなに驚く?」
同居する家族達とはまるで正反対の妹の反応に、話したこっちがよほどびっくりだ。
まだキスだけなのかとか、そんなことを言っていたものだから、「あっそう」くらいのものかと予想していたのに。

家族に話した日から数日。
ソフィーは唯一の肉親であるレティーに結婚の話をするために、一人でチェザーリの店にきていた。
看板娘のレティーには使用人とは思えない待遇の部屋が与えられていて、今日はソフィーはここに泊まることになっていた。
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